万国旗は青い風にはたはた…揺れ
園児等が駆け回り、賑わう
秋の運動会。
染色体が人より一本多く
まだ歩かない周と、並んで坐る
パパの胸中を{ルビ過=よ}ぎる、問い。
――僕等はあわ ....
いつになっても
明日がくるのがこわい
ひとりはこわくはないのに
明日がくるのがこわい
わからないからこわい
あなたのことのように
しらないことにかこまれて
しらないふりをし続 ....
小平市の住宅街でバリバリと音が鳴り
とつぜん、目の前の住宅が取り壊された
私は三か月前から仮の住まいを持つだけなので
家が壊されるこまかな事情は知らず
事情を知らないゆえ
その家は突然、取り ....
鏡のなかの、
少女のままの彼女に
メールをする。
液晶の水面は、
音もたてずに目を閉じる。
鏡のなかの少女は私だ。 ....
手のひらに、
とぎれとぎれの物語がまじわるように、
とぎれとぎれの時間のなかを旅している。
風は、
私にまとわりつく
薄い襞を食んでいく。
一衣も纏わぬ身体になった私の心は、 ....
いつか説明できる自分になりたいとおもったが
いつも途中でひきかえしてばかり
丘の上の教会の牧師さまを質問ぜめにし
彼の額の皺がひとつ増えたのをみとどけて
それでもつぎなる質問をかんがえつづ ....
冬はなりたての死刑執行人
このぎこちない朝に
辺り一面に自らの恐怖をこぼしてしまう
例えばそれはつめたい雨のしみとして路上に
例えばそれは朝日の顫動として線路の途上に
世界が沈黙 ....
あなたの表情が澄み渡るような青天から
薄暮れの黄色へと変遷する様を
手の平から零れ落ちる砂を見るような非力さで見届け
伏せた瞼に抱き留めていた
もし心臓の代わりに
胸の内に地球が瞬いてい ....
きみが奏でるインプロビゼーション
太陽がさししめすデスティネーション
私はずいぶん整理されたのかもしれない
まるで骨格のように洗われるだけになりたいと
素朴な島人でありたいと心底おもっ ....
川の中に鳥が三羽
岸に一羽
川の中の鳥は
水にもぐったり泳いだり
一生懸命にみえる
三羽は家族にみえる
話しあっているようにみえる
岸の一羽
みなに背をむけている
別の方 ....
誰もいない秋の浜辺に、立ち
吸いこまれそうな
青空
に手をのばす、僕の
頬を ぶおう! と
{ルビ嬲=なぶ}る――一陣の風
沖の方から
幾重もの波は打ち寄せ
波飛沫の散る、ひと時の ....
今日はこのフレームを手に入れたので
このフレームの中で展開を期待しようと思う
秋惜しむ
ホルモンの悪戯に付き合って月が仲裁入ってくる
認知症を恐れて食べたものを思い出す訓練をし ....
私の母は80歳を過ぎた頃から短歌を作り出した
はじめるには余りにも遅いよと
言いたくなるほどであったが、
それにはやはり動機はあったように思う
1. 大岡信の折々の歌を読んでは切り抜いて
赤 ....
朝起きて、のびをして
飯を食い、厠に入り
玄関のドアを蹴っ飛ばし、
彼の一日は始まる。
日は昇り、やがて暮れゆく迄の間を働いて
単調なる繰り返しの、気怠さの…
口をへの字の忍耐の(時折 ....
鉄は不可思議の組み合わせ
ひとつにひとつ
燃えさかる蛇
器の海を呑み干すけだもの
灰の駅 灰の汽車
川底を浚い
放る羽
光を終えた光に群がる
凍えた青空 ....
太陽のようにほどける髪が
小さな鈴の樹を隠している
地から昇るたくさんの音が
空に晴れを運び込む
虫から生まれる滴が
霧のなかの径を見ている
銀の歪みに映る
碧い ....
秋晴れの
空に、境界線
……らしきものが浮遊している
長いのも短いのも 互いに絡まり合って
私は 時期外れの薄着をはおり
アイスクリームを食べながら人 ....
すきなひとに気軽に
すきと言えないように
きらいなひとにきらいと
言えるはずもない
一緒の鍋をつついても
心にふれないよう気をくばる
湯気があたりをぼやかして
ほんとのことが ....
化け物みたいな
醜い顔の生き物が、
あいしてます、
結婚してください
と、
美しい悪魔のわたしに
そう言った
化け物みたいな
醜い顔の生き物は
ごめんなさい、
あなたを試しまし ....
夢の尾はいつだって手からすべりはなれてゆく
そして明けて
朝、
つかみそこねた少し乾いたその手触りを思い出している
どんなにこごえても
血液は凍らないやさしい不思議だとか
たとえ凍ったとし ....
じめじめした宇宙を超えて
超特急でやってきた光のような木の葉は
木漏れ日を作りかさかさと
太陽を覆い隠している
その陽に焼けた赤は{ルビ紅葉=もみじ}のようで
じめじめした界隈を抜けて
....
さびしいおもいをしよう
うそのお皿にふたりですわって
わかりあう
を たべよう
べたべたにして
たべおわったら
ちがうドアから かえるのさ
猫を借りてきた
あまりにかわいかったので
慣れない場所に連れて来られて
神妙にしている
私は猫アレルギーだから
かまってやれない
なでてもやれない
けれど借りてきた
あまり ....
海は空の青と同じ色だから
互いに永遠を約束している
友人のよう
砂はその輝きを
助けるかのように
輝く未来を一握りの宝石へと
姿を変える
波が押し寄せ
砂場は呼吸する
....
山椒はけなげな樹だ
人に若芽を摘まれ
実を横取りされても
再び芽を出し花をつける
山椒は優しい樹だ
青葉に隠して
揚羽の幼虫を育て
幼虫に臭いをすり込ませ
ああこの臭い
幼虫はこ ....
あなたがはにかんだ笑顔を
私に向けた瞬間に
人混みで
手などを引っ張るその度に
きりきりと
弓は引かれる
的の中心は広く
くっきりと
「サヨナラ。」の文字
もしも
もしも
....
点滴 ぽとり ぽとり
つけられた病名だけが美しい
笑ってしまう。
一週間以上前から羽虫と格闘している。
いや、一ヶ月以上前だったか?
三ヶ月以上?
はあ、そんなに……。
最初は敵だった。何匹もいた。
採ってきた葡萄や林檎を、南国から運ばれ ....
心臓の検査で二時間待たされた
結果説明をするのは
驚くほど穏やかな話し方の医師だ
この穏やかさは
草食動物がまどろんでいるかのようなぼんやり
草食動物が説明しはじめた
非常に穏やかにしかし ....
晩秋の風は悩みをはらみながら私の窓辺にやってくる。
ああ、悩ましい。私は上手に言葉を紡げない。
限界を超えたところに真実があるのなら私はそれを見たいと願う。
私の存在に真実があるのな ....
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