満面の笑みにつないだ手
ほら、おそろいだね
あなたがさし出す手に私が応える
「冷たい」って笑った
この手はあなたの役に立てますか?
日々を過ごす中で失うものも多いけど
あなたは無く ....
星新一をポケットに、宇宙に出た
窒素酸素二酸化炭素アルゴン
石油が無くなった地球は温暖化し水を奪い合う戦争が起きた
海が陸地を浸食し人類は指の間の皮膚がヒレのようになりつつある
空気中の二酸化 ....
名も無い瓦礫の路は
昔話をしたがっているように見えた
激しい雨のあとの
過呼吸のような陽射し
喉元を滑り落ちる汗を
呪いながら歩を進める
息すらかすれている
午後は容赦が ....
一度目
道に迷う
二度目は
短縮展示のため時間外
三度目、
祝日の関係で振替休み
四度目
ふてくされて向かわず
そして五度目
の
有楽町の美術館は
中に入れはしても
常設展 ....
太陽が西の地平に傾き
雲の切れ間から橙の光の一筋を放つとき
それはわたしの心を
深い余韻を以て響き照らす
わたしの魂は
追いかけても追いかけても届かない懐かしさと憧れに溢れ震え
永 ....
ハローワークから出たとたん配られたチラシには、きみの名前。きみの写真。その上に〈元彼女〉の肩書。「元」がやけに安っぽいゴム印で、おれはムカついた。ビリビリに破り捨てた。渡してきたおっさんを蹴飛ばし ....
私は通りかかる
今日も美容室の前を 私は
窓際で頬杖をついて 彼女が
客が来るのを待っているのを見る
雨の中
彼女は何年もそうしてきたかのように
じっと 通りを行く人を見つめていた ....
海鳥が
防波堤を飛んでる
釣り人も分け前もなかった
昨日の輪郭を追う
お経が唱え続けられている
畳の広間に敷き詰められた純白の布団に寝ている人達
は当然皆、死んでいる
お経が唱え続けられている
畳の広間に敷き詰められた純白の布団に起きている私
はしかし独り ....
運命の内臓を見る
と
小滑車・歯車の連なり 耳小突き気付く轟々と
群れなる輪の道 蓮コラやめて
排熱の汽車 暫時・潮と波飛沫
動転無影ゆたり来たり 掴めぬ具風立ち街重さ
塔の端から見えるの ....
「幸せ」と感じることができる幸せ
理由のない不安を 理屈で押し込めて
世界の一部になりたくて 普通だと言い張った
誰もが足りなくて 誰もが奇異で
たくさんの異常の塊を 常識と定める社会 ....
四季の巡り会わせに机上の万年筆は時を刻む。
古びたノートから溢れてくる言葉達は
オルゴールの音色と共に空間に放たれる。
胸躍らせた他人の言葉に思い出が宿る。
雨に濡れた紫陽花 ....
活火山の麓の村より我が半身 便りを寄越す。
初夏の訪れより早く来るが良いですよ。
ヴァイオリンのたなびく村はここです。
フレームに収まらない風景はここです。
屋根裏でチェロを ....
天使は窓の縁に座り
少しずつ透き通り 外の闇と
見分けがつかなくなってしまった……
バッハの遺した鮮やかなコラールが
床の木目に 僅かな痕をのこした{ルビ後=のち} ....
もう止まないかもしれない
そんな雨が降りつづいている
街も道路も車も人も
みんな水浸しになっている
ほんとに誰かが
大きなバケツの水をぶちまけたのだろうか
梅雨の終わりの最後には
雨の神 ....
神様が作った骨の成り立ちを考えれば
猫背であることはとても自然な成り行きであるのだけど
猫背である自分をウインドウ越しにうっかり見てしまえば
あんまり素敵じゃなくて
ちょっとだけ無理をして背中 ....
洪水が激しく流れたが
それに先立って激しく流れた風景の束があった
音響が激しく鳴り響いたが
それに先立って激しく鳴り響いた光の板があった
先立つ抽象的な激流によって
地上の生物の ....
人が笑っている
マユミが笑っている
マユミは母
オサムは父
オサムは死んでいる
首を洗って待ていろ、と
テルヒコに言われ
二十年、首を洗って待ち続けた
首だけがただ
....
冷たく滑らかな床の
上を
温くなったコーヒーが
ゆっくりと這って行く
読み終えたばかりの本の一文字
一文字をばらまくつもりで
窓に寄りかかる
新しい窓
新しい壁
繰り返される
明る ....
わたしは わたしのふしくれた手で
ちっちゃな墓をつくる
アラビアじゅうの香料をふりかけても
消えない前科が わたしにはある
一篇の詩をつくるのに
殺してきたあまたの言葉
本当のことを書こう ....
150703
どろぶねにのつているつもりはないのですがと、せんちょう
演劇部の練習は今日も順調
ささのはを頭に載せた艮狐
美人に化けるのもお上手で ....
閉じ込められていた扉が開いて 一斉に流れ出す
群集に紛れる 安心感に包まれて
たくさんの孤独は 水族館の鰯になって
同じ水槽の中を 泳ぎ続ける 死ぬときまで
独り暗闇に潜んだ金魚の ....
いちばん重いひらがなは
ら
だね。
ら がぼく以外の
大勢をふくむなら
ぼくら、なんて
かんたんには 言えないや。
かるく歌ってもみるけどさ ららら
誰も住んでない荒れた庭の
梅の木の下にしゃがんで実を拾った
洗ってヘタをとって凍らせて
たっぷり一年梅づくしだった
味をしめた私たちは
今年も荒れた軒先に座って
梅の実が落ちるのを待っ ....
夜には
夜がある
朝に
花が目覚めるように
わたしには
わたしがある
はずなのだが
たとえば
あの壁を殴っても
痛い
とは言わないが
拳はどうだろう
雨たちや
....
膝を抱えて二錠足りない
僕の(架空の)恋人
透明な御飯
透明なレタス
傾かない天秤
ぶれない標高
レタス
それから
御飯
それから
モディリアーニ
振り出しの
ファン・ゴッホ
リズムに合わ ....
言葉はなぜあなたにつたわるのだろう
あなたの脳内で維持されている
概念に呼応する音声あるいは文字列を
話し手と聞き手が相互にいれかわりながら
違和もさしてなく理解できる不思議
中国の ....
海が広がっている
どこまでも
広がっている
ゆっくりと
波立ちながら
幾つもの筋を刻み
奥まっていくその生動
水平線に凝縮する濃紺を
雨空の灰白に際立たせ
のたりのったり
....
寝起きのクスリでお腹いっぱい
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