待ちわびても待ちわびても
信号が赤だったから
ひとり仰ぎ見て立ち止まっていたの
青空は雲ひとつなくまっぱだかで
そのからだを透明な恥じらいで
うすくおおっていたの
つまりそこに住み ....
恋割れた 悲しい夜は
ひとふたり つみによごす
このむねの 黒さがいやで
牛乳を むねにこぼすの
牛乳を よるのむからさ
かまわずに 消えてほしいの
かいわない 冬の静か ....
ください、と言えなくて
くれませんか、と聞いてしまった
人々の影は長く伸びているが
わたしに重なるものはひとつもない
軒先に脱いだ靴が消えた
会社にばかり通ってる靴だから
会社に向かったのかもしれない
いや、しかし、通勤電車に嫌気が
さして旅に出たのかもしれない
文なしの旅先で困ってやしないか
いやいや、 ....
扇風機の羽根に
纏わりついた
綿ぼこりが
窓をすり抜けて来た風に
ほつれて
ふうわりと
フロアに舞い降りてくる頃
天秤座のワタシは一つ歳を取ります
プロペラを持っているのに
....
ある朝、わたしは透明になった。
世界は膝を抱えて仰いだ青空であり
そこへとあらゆるものは落下していた。
それは重力という現象ではなく
存在という重心へと還っていく風景だった。
この風と岩 ....
車輪 歯ぎしり
笑い すぎる曇
橙色に触れる指
午後の星のはじまり
水の蜂 あがき
音の失いきらめき
泡の浪 痛み
報われない 複眼
夜に鳴る紙
さざ ....
大地に濡れ
人を買った経済よ
お前はただ無限に略取されればいい
海の押し寄せる血管に
人の声は明け渡され
法規の群れが押し寄せる窓辺に
季節はその最後の一塊を溶かす
ほろ、ほろと
耕さ ....
駅前の信号の青の中を
ホテルの前で屯する入り女の白い手招きを
ビジネスマンの眼鏡の先を
赤いジャンパーの男のポケットの音を
渡り歩いて辿り着く エビス屋のテーブル席
器に盛られたカルパッ ....
お供えの花を供えても、
同じことです。
強い風の日には。
同じ時間という、
事象はありません。
自分が周っていなくても、
地球は周っている。
白い塩をまきましょう。
....
いつか消える
いつか消える
そのいつかが果てしなく
遠いと思われて
早く消えたい
と うたってみた
月日は流れ
そのいつかが
もうすぐそこにまで
迫っていると感じる時
....
月夜の庭の物陰で土と溶け合い
消失していく段ボールの記憶よ
何が盛られていたのか、空洞となって
久しく、思い返すことはないだろう
お前は満たされた器でなかったか
瑞々しい果実と野菜に陽の ....
通り過ぎていく物売りの声が
私を非難したのかと
過敏になる窓の隙間から
秋風がするりと
いかにもなれた振る舞いでカーテンを揺らし入り込む
今直面している重大な問題を
言い当てられた気 ....
北向きの窓から
ふいに
秋の
風が産んだ子が走り抜けていく
本のすきまから伸びた
栞のしっぽが揺れ
亡くした猫のしっぽも揺れ
過去が
耳なかでちりりんと揺れる
寝転がると
窓い ....
恐竜は
飢えて死に絶えたのではなく
進化して鳥になったのだそうだ
絶滅危惧種のマナティに
沖縄で会ってきた
大きなからだには決して広いとは言えない水槽で
くるくる
楽しそうに回転して ....
今までたくさんの人と知り合ったり別れたりしてきたけれど
引っ越しだとか転勤とか卒業とか就職とか
そういう物理的な別れを越えて付き合いを続けてきた人はたくさんいる
元同級生とか同僚とかママ友だとか ....
天体望遠鏡すら知らない宇宙の彼方からブランコは
こんなちっぽけな青い星まで伸びている
一漕ぎで銀河を跨いでゆくのは
もう旅立っていった人だろう
ただ空を仰いで憧れるしかない
移ろうと ....
踏みあった影はうねりを繰りかえし
大蛇のようにわたしを睨めている
これが雑踏という生物だ
身を縮めて隠れるほかない
だが一歩たりとも動かぬように
語ることを好まなかった父は
静かな ....
恋慕うこころは消えた
待ち焦がれた日々も
幻滅や
放棄でもなく
むしろ思ってもみなかった
あなたの言葉
「あんまりおまえさんがだれかを崇拝したら、
ほんとの自由は、えられないんだぜ」 ....
これからは、ビールだけを頼りに毎日を生きていこう。
ビールになら、一缶までなら甘えられるし、
ストーカーにもならない。飲む人を選ばない、愚かであっても許される。
私の恋人はビールで決まり。
海に住む少女に会いにゆこう
大西洋の沖合いはるか
めったに船もとおらない
まぼろしの町へゆこう
アイルランド訛りがとびかうはずのタバーンには
看板娘のひとりもひつようだし
だれ ....
目障りのよいことばを
こどもの前にさしだす
それでなんだか幸せを
与えた気持ちになれる
口当たりのよい菓子を
思い人に食べてもらう
それでなんだか醜さが
自慢の形に変わってく
....
孤独
個の毒
ことごとく
苦悩
愚の脳
このうえなく
恨み
うらやみ
暗闇のなか
夢想
無の相
嘘うたう
存在
その際
空ぞらしく
命
その ....
肩が痛い
もうずっと以前から痛かったような気もするし
肩が特に痛いことを日記に書き留めておこうと思った時ぐらいからは
丸一か月は過ぎた
色々対策を試みてみた
少し良くなった時もあり
悪 ....
ストランドビーストはオランダの砂浜に居て
風を食べて生きる
自力で歩行する
尾もしなやかに動かす
風が強いと自ら危険を察知して
ハンマーで砂に体を固定するという能力まで持つ
人が乗 ....
(ああ、秋の空は露草を集めて染めるのですよ)
(あれこそまことの青ですわねえ)
天からつゆくさが降る、
つゆくさ、つゆくさ、
地が青に染まる、
つゆくさ、つゆくさ、
どこかで鈴がちりり ....
同じ画面に収まった二人は
時間をたくさん間違えているし
空間をたくさん間違えている
数限りない間違いの果てに
取り返しのつかない勘違いの果てに
この小さな画面の中
笑顔の二人がいる
雨でも晴れでも傘をさしていく
表側は防水布
裏は遮光布で紫外線をカット
実は私
屋内でも透明な傘をさしている
表側は防水布
そして裏地は防傷加工の滑らか素材
顔には丈夫な笑顔を貼り付 ....
révisé et réaffiché
極夜の{ルビ惑星=ほし}
地を這う花々
争う蝶たち
眠る海
砂丘の{ルビ焚書= ....
蛾がおびただしく舞う
古い白熱電球のもとに
私はうずくまり
鉛の玉を抱えていたのだった
来たる冬はすでに失踪し
魚眼のように現実を見つめている
そして体内に大発生した虫
幼虫の尖 ....
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