椅子が並んで
たくさんの人が腰掛けています
まるで出発ロビーのようです
周囲の人と
穏やかに語り合っている人たちは
旅支度の割には身軽で
しみじみと
和やかな笑顔も浮かべ
主に ....
頭と骨と鰭を付けた鯉が
泳ぐのを見た
首を落とされた鶏が
庭を走るのを見た
背骨のない蛸が泳いでも
背骨を抜いた鮎は泳げない
骨牌のような積み木(ブロック)が
髄で繋がっている背 ....
誰の手にもとられずにずっと沈んでいる本がある。
本のなかにのめり込んで沈んでいる人もいる。
人から人へと貸し借りされ、ずっと泳ぎ続けている本もある。
本たちの上を楽しそうに泳いでいる人もいる ....
母がぼくの肩に交じり
ぼくはぬるいお茶をこぼす
夢をも一度
ハ行に注ぎ入れて
湯気を吹き
そっとすする
ほら お食べ
銀のお椀に
盛り切れないほど いっぱいの
夢だよ
飲みきれ ....
目が滑る
つるつるつるつる流れていく
芸能ニュース、政治批判
アニメ感想、チラシの裏の落書き
電車の中で
道の真ん中で
布団の中で
バックライトで目を焼きながら
文字を画像を情 ....
雨を呼ぶ声
空をくぐる火
曇の牢に動く影
水の径を追いつづける午後
涙で目を洗うとき
ふと片目に残る光
三日月となり常に静かに
銀と灰を重ねてゆく
多く ....
かん高い声の騒ぐ言葉が部屋中を這いまわっている。声の主は女と女なのだが、女と女は椅子に座っていて向かい合ったちょうど真ん中にテーブルに載った紅茶とポッド、そしてナイフで取り分けたそれぞれのビクトリアサ ....
月曜日に来た人は とても穏やかな顔をして
私の頭を撫でてくれました
月曜日に来た人は 火曜日には火遊びの仕方を
私に教えてくれました
月曜日に来た人は 水曜日私の小言を片付けて
流 ....
おもいでのまちをとおりすぎて
おもいでのまちにかえる
おもいではとうにうせてあきのそらがひろがる
なんだかかなしくてくちぶえをふいてみる
おもいでのいちばではなにをうっているのだろう
....
青空に広げた重機の股間が避けて
殴打される地殻
四散する生きものたち
コンクリ―トで覆った{ルビ法面=のりめん}に
芽生えようとしていた希望は
封鎖されて腐敗してしまった
裸の川に秋 ....
手にしていたのは
小さなひしゃく
星が消えた途方もない夜は
蛍を連れて
そしてたどりつく水源の
ほとりは
どこへつながっているのか
どこへもつながっていないのか
汲み上 ....
父は生きる 沈黙の中に
母は語る 夢のような言葉
私は横たわる 足りない絶望を枕にして
川の字になった 冷え切った水槽の中
打ち上げられた魚を三匹
飼って眺めて笑っていたのは ....
先祖代々の墓石の隙間を潜って 緑の節目が
石塔の地下から 企みを生やす
萎れたシキビや花筒の中で息絶えた小菊を
嘲笑うかのように石塔の狭間を一本の青竹が
墓場の敷地すら貫き
天 ....
耳を近づけて寄り添おうとするあなたの
頬に触れることは赦されない
私の醜さは
あなたの前では祝福となる
強風の吹きすさぶ耳の中では
秘匿こそが美徳である筈なのに
あなたは一枚一枚
そっ ....
清らかな川辺に降り立った白鷺を見た。
しばらく彼の美しい立ち居振る舞いに目を奪われた。
彼はどこからやってきてどこに向かってゆくのだろう。
なせだか彼を自分と重ねてみた。
少しも ....
断捨離
芸術家とは無駄な作業をする人のこと
陶工は焼き上がった作品を
ほとんど破壊するという
書道家も高価な墨と高価な硯で文字を書き
高価な紙もろとも破り捨てるという
....
貴女滑稽で妖しい
またこんな季節が巡ってきた
名月を仰ぐ野分の風も乏しく
焦がれる余裕もなく
日常に背中を押され
されど視覚からのニュースで
滑稽で妖しい貴 ....
人は皆一人前になると
船の一艘や二艘持つものだ
実際わたしの同僚たちも
それぞれの個性に応じた
それ相応の船を持つ
ある者はボート
ある者はヨット
ある者はクルーザー
ある者はカヤック ....
母は金曜日に 毎週 カレーを作る
金曜日の夜はカレーだ
食べても
食べなくてもいいからだと
母は言う
その夜から日曜日の夜まで
鍋の中はカレー
カレー一色だ
我が家の匂いもカレー一色だ ....
屋根一杯に
鳩がいる
何かの見間違いかと
車窓から目を凝らす
もしや瓦の形の鳩じゃないか、と
でもやっぱりそれは鳩だった
生きている鳩そのものだった
ねえ、あれ鳩ですよね
....
甘い歌に惹かれた虫を
ぺろりと舐めとって、満足げにわらっている
あなたは可愛らしくて
わたしはどぎまぎした。
金の硬い羽よりも、ふわふわの白い羽よりも
朽ちかけたこの羽を愛してくれたから ....
160915
流す日記を書き終わり
一気にカーテンを開くと
そこには母の顔
月が出ているよ!
あなたの大好きな
あなたは2100年に ....
流民をへて流民にあう
きみは遠い昔の記憶の中の文学少女
すべての物語を読み切れないように
たとえばたった一人の歴史も解析できずに
やはり僕はでくのぼうにもなれない半端者
きみの洗礼を ....
じっと空間を見つめていると、
何かが聴こえてくる。
実際には何も聴こえないが、
目にうつるものが音を帯びてくる。
色にも音があるのか、
音に色があるのか、
空間は息吹を宿して、
この身体 ....
なのはわたしとこころ。
こころはわたしとは関係なくころころと変わり、コロッと転び、何故かは知らないが勝手に成長していく。
わたしはこころとは関係なく、わたわたとしながら一人称を変えて成長していく。 ....
久しぶりに電話してみる
着信音が十回で、切る
内心ホッとする
まもなく向こうからかかってくる
少し慌てる
「なに?どうかした?」
声を聴いて安堵する
「いやどうもしないけど。今話せるの? ....
先週までのうだる暑さが嘘のよう
公園の木立は重い影を落とし
鬱蒼と風に吹かれているが
家々の庭に
咲き尽くした夏の花々が
どこか安堵したようにうなだれる
もうここからは秋
静かに目を凝ら ....
有翼の人魚たちが踊る森が ほどけてゆく
有翼の一角獣たちが戯れる砂漠が めくれてゆく
忘却のような白い顔をした給仕たちが 一列に並んで
運んでくる皿の上にはプラチナの蜃気楼
異様に美しい怪文書 ....
ふふふとほくそ笑んでみる
訳はない
意味もない
他人が見たらさぞ気持ちの悪いことだろう
楽しいこともなく
面白いことを思い出したのでもない
笑顔を浮かべてみたくなったのとも違うけれど
そ ....
檸檬のまわりを、笑い声が歩いている
ちいさいね。
そして可愛らしいね。
酸っぱくて。
わたしあの子好きよ。
くすくす、くすくす
天鵞絨の大地の真ん中に
オーデコロンの風に晒されて ....
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