過去に生きて彼女が歳をとらない
部品がいっぽん足りなくなって
このままじゃあ埒が明かないから
町まで買いに行かせてくださいと頼んだのに
ひょいひょいとあばら骨を抜かれて
蛸みたいに伸びている
はす向かいの煙草屋から2メートル借りて
となりに住む大学生から4メートル借りて
街頭募金を装って6メートル借りて
それでもたりなかったから交番へいって3メートル借りた
夜爆発して
住人が ....
川はそのまま塊を引きずるように流れ、
糸は母と子を零度の息に落とし。
(しばし沈黙のあと)
椅子の脚を引きずる音が鼓膜を満たす。
それは悲鳴に似、烏は屑の中で生まれ、
糸 ....
閃
蒼い閃
閃する刹那の連鎖を放つその身体
うねる弦に奏でられながら
時空を
そして彼を見つめる数多の意識を
うねらせ奏でてゆくその身体
クールで小粋で小 ....
平均余命は静かに裁断され
大河の下流へと流されてゆきます
でも
老眼にそのまぼろしは映りません
....
喪主の手にメリケンサック
冒頭 突然のファンファーレ
ガシャーン
砕け散った人生の姿見
その欠片の一つ一つ
舌を出した黒猫が覗き込む
にやにや笑いの黒猫が
こちらを向いてこう言った
こいつぁ凄い
....
きみは五年の長さを知っているか
経つ、の意味を知っているか
帰らぬ意味を分かっていたか
どこへゆくのか悟っていたか
わたしは無防備だった
知る、分かる、悟るからは遠かった
でもいまでは ....
鉛筆で描かれた髪の毛を消す
ここにも あそこにも
描かれている
一本書き足せば笑みになり
二本書き足せば花になるが
気がつくといつも指には
水銀と涙が握られ ....
淋しさは
翼いっぱいにはらむ風
僕は
飛びたてる
だけどというより
だからこそ
明日をもしれぬ運命
なんて
何を怖がることがある
残り時間の心配なんて
いらない
....
砂
私は砂。
水を含み、泥となって、
いつか形にならねばならない。
砂。
茫洋と昔の空を思い出す。
空はいつでも高くて、
私は不自由で。
とても自由だっ ....
電気を節約するために
暖房のリモコンを
遠くに置いて
日がな布団に包まり
みの虫の姿で、本を読む。
外から帰り
しろい吐息をはく妻が
傍らに坐るので
火照った手を取り
少々疲れた ....
言葉のナイフで樽から飛び出す
夕闇がやってくる気配
それは決まって
南向きの玄関の隅から生まれた
冷えていく板張りに寝転がって
図書室で借りてきた本を読んでいると
ふいに呼ばれる
声、
のようなものに
夜が
....
揺すらないで
覗かないで
ノックしないで
猫はいや
汚いものが沈んで
息がつまる
追い詰めないで
掬わないで
閉じ込めないで
逃がさないで
窓はどこ
酸素が欲しい
....
死について、
突然、その時は訪れる
死の実感は
高校二年の春だった。
いつもの朝の登校時
いつもの郵便局の角を曲り
いつものとおりのバス通り
いつもの調子で渡ろうと
いつもの歩 ....
雨の夕暮は
水族館の水槽に
似ている
魚は
ネオンや車は
魚に似ている
魚は
夢を見るだろうか
魚に脳があるなんて
知らなかった
脳が他の魚の
30倍はあると ....
白銀の光
冷たい熱を帯び
今
私と月の間には
透明な冬だけがある
はるかに遠いくせに
あっけなく近くなる
こんな風に
てのひらにのってみせるのは
何故?
まるで
弓矢を射れば ....
サラリーマンのコスプレして会社に行っている
歴史の知識のフィルターで
あたりを見回しながら山を上った
城跡にひとの気配を探していた
何百年か前ここには猛るひともいた
しかしこの城跡にはもう道さえないのだった
私 ....
雪の綿帽子をかぶり
のっぺらぼうの顔をした
路傍の石が
こんにちは――と、僕を呼ぶ
そんな厳粛なものではなかった
壮麗な教会のどこか枯れた香りではなく
天に召されようとする生身の横たわる部屋は
真冬でも蠅が飛び交いそうな腐臭に満ちていた
‘なにかがおかしい’と疑いながら
....
色褪せてしまうまで
崩れ落ちるまで
見届けたかった
遠くなる影を見送り
不在を確かめたなら
踵を返し
歩きだすはずだったのに
あとからついていったのだ
見失う一歩手前の距離を保ち
二 ....
誰もいない海に雨が降る
黒ずんだ絶望が死んだザリガニの匂い
うらむってつまらない
あいつのことで頭がいっぱい
うらむってつまらない
しかいが狭くてうっとうしい
高いところへいきたいな
そこから放つうらみの気持ち
きっとぱあっと広がって
な ....
クフフッ
ボクは男の子
ママは云ったんだ
大人になったら男の子はパパに似るはずだから良かったねって
惚れんなよ ママ
クフフッ
ボクは男の子
でもボクはママのDNAを好 ....
悲しみより圧倒的に遅い窓、電車の。
価値の違いを理解できない、爆音の。
情報を情報で重ね続ける、液晶の。
ユーモアの先端に知性が宿る、海馬の。
春風に乗る言葉たち包む、木綿の。
深い深い闇よ ....
私の緑の踊り場に
甲虫や気圧の変化の為に
(つまりは身体中の骨の矯正の為に)
カスタネットやリコーダーを携えた
記憶の楽団が集まっていた
地上は澄み切った空のようだった
花の色をした鳥 ....
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