僕にとって今最も重要なイメージは、暗い星空の中を真っ直ぐにふわりと落ちてゆく灰白のクジラの死骸です。胸鰭は空気に押されて持ち上がり、細かな屑をその身から剥離させながら、そうしてそれらの屑よりほんの少し ....
馴らされた日々に漂ってくる
なにげないコーヒーの匂いに
ふっと 救われるときがあるのだ
どんな舟も決して満たすことのなかった
完全な航海を ゆっくりとわたしは開始する
宇宙を辷るひとつの ....
夜
美しい言葉が沈む
星と大地に包まれ風が息を潜める
人は時間を持たない光になる
あると言うことは生きていると言うことだ
風も大地も水も
いのちは時間を持たない光になる
股関節にくるまれた
まるい歩みが
つや消しの宇宙に
冷却する。
(恥ずかしげ、に
船賃六文
、なんて
いまどき
、ないから。
(百五十円、でどう? 船頭さん
二年まえに ....
あつい夜
きみはかんたんに
きみを脱いだ
なにも覚えていられないくらい
美しい夢が終わって
抜けがらとぼくは朝を迎える
そうしたらもう
どっちが思い出なのかわからなくなっているん ....
想いを切り刻んで 記憶は泣く
スマートホンもデジタルカメラも 人の目に映らなかった頃
思い出を自販機で買い取った彼女の空は
空白のまま歳月を渡る
数年前傍にいたはずの笑顔は カラカラに ....
伝えんとする意志が世界をきりとるとき
言葉が生まれるのかもしれない
飲みにさそった結婚前のきみに
きちんとこれからのぼくの計画を話そうと
想ったがなにもなかった
あなたの推薦をうけな ....
硬い殻の中に無理やり閉じ込められ
手も足も出せず
約束も果たせない
知らないうちに
他者の無関心による距離に埋もれ
書籍から著者の血液を大量に浴びた
俄かに近い人のまな ....
海が
光の海が
広がる狭まる
明るみ眩んで
暗まり遠退き
揺らぎ揺らいで
静まる感覚
奥まる意識
秘かな降臨
気づきの一瞬
凝視の息切れ
いつもの ....
グルーヴをください、グルーヴを
大事なこととそうでないものとを
一緒に放り込んでグルグル回して
全部大事なことにしてしまいたい。
グルーヴをください、グルーヴを
優しいウソで足腰が鍛えら ....
人の輪郭ばかりがまばゆく降り積もり
忘却される往還は歌として刻み込まれて
歌は正確に人のさざ波を導く
正しさに先立つ正しさは愛欲に似て
幾つもの河を集めては飛び立たせる
人生がすべて ....
目を瞑っていても
追いかけてくる足跡の靴音を
遮るためにドアを閉めても、
靴音が追いかけてくる。
とくとくとくと ....
収穫もできずに
ただ腐らせるしかないような
果物を育てるひとはいない
いたとしても続かない
両面の鏡なんだ
鏡のなかのまたその鏡なんだ
自分だけ棚にあげておくな ....
こんな暑さを生み出すなんて
太陽はとんでもない偽物だ
それだけではなく
空も海もすべて偽物で
言うまでもなく
実は私も偽者である
では本物は一体どこに?
偽者の私の本物はどこ ....
泥まみれの夕立一粒に願懸け命懸け
立ち上がろうと 己に跪き独眼に見渡す
屍の点描
永遠の夕立 その隙間で呼吸を呼吸を途絶えないように
大事に大事に膝に触れ 感触の泥まみれを皮肉にも このだ ....
(孤独を知りたい)
その声のする方へ
足を向けると
ビル街から住宅街に迷い込んだ。
そこでは人々の匂いはあるが、
人の姿はなく、
窓辺から聴こえてくるやかんの音と、
乾きき ....
どんなに惨めな境遇にあっても
どんなに酷い苦しみに襲われていても
光の感覚が
懐かしい思い出のように
余韻を響かせる時、
魂は生き生きした理念に満たされ
霊の光を神の温もりを体験す ....
いっちょまえに
子(娘)が親(母)に意見(もんく)をいう
いっちょまえに
子の方が稼ぎが多くなってきた――
一緒に道を歩いていたら
いきなり娘に腕を掴まれた
「なにするん?」
背後か ....
季節は停まったままなのに
何かの遷移があったかのように
すべてが熱にうなされ
憂鬱の涙が豪雨として流れる
世界のどこかで木の葉が青らんだ
それだけの微細な亀裂が
瞬く間に感染し ....
どこかから迷い込んできたカブトムシは
黒々とした鎧に似合わない
くにゃりと甘い匂いがした
冷蔵庫にキウイフルーツがあったので
それでも与えて手なずけてみようかと思ったが
私の手のひらに収まら ....
朝顔や
しおれて告げる
夕餉かな
名字は歴史だ
長い歴史
遠い過去から
あなたを縛る
名前は違う
あなたの家族が
あなたに託した
最後の呪文
かおるさん
と
あなたを呼ぶ
タケヒコさんでも
ツヨシ君でも ....
「とある作家が自殺した後、
その作家が住んでいた部屋から毎晩、酷い油の臭いがした。
隣人たちはそれを理由に、ついに家賃交渉で大幅な値下げに成功した日、私は産まれた。
私は自殺した作家 ....
若き翼は
血を流して翔ぶ
悲しみを糧にして翔ぶ
それは誰にも止められない
止められないんだ
仮に太陽に焼かれ
地に堕ちたとしても
翔んだ事実は残る
俺はあそこまで行ったのだと
....
無風に花瓶、
押し倒れ
転がる転がる
少女の手許
受け止める幼手
花瓶は砕け
甲高い笑い声
さも当然に
さも当然に、
笑い声響く度
花瓶は完璧に粉々に
亀裂走っていく円卓 ....
何かに咬まれた指を握り
真昼を渡り海岸に着く
砂浜には紙を追う鳥
波と共に現われ消える
海沿いの径に車は無く
皆ひとりひとり歩いている
砂の丘がつづいては途切れ ....
虫採りアミを
契約書が詰まった
ビジネス鞄に持ちかえて
今月もノルマ未達なら
怪談話より 寒気する
スイカ? 食べない
「時は金なり」
向日葵よりも輝いて
もろこしよりも甘いのは
....
隣に寝ている祖母の髪をいじるのが
幼い私が眠りにつくための儀式だった
人差し指で祖母のぱさついた白髪交じりの髪を
くるくる巻き取る
眠る寸前までやっているものだから
翌朝の祖母の髪は縮れて
....
気怠い午後の窓に
コウノトリが連れてきた
甘い匂いの衣をまとう
真っ白な 汚れのない 詩
しばらく考えて
抱いてみる
泥のついた手で
目はおれ似じゃない
さて誰か
道傍の ....
ナニ、か、腐った臭いが立ち込める部屋で、老女が横たわっている。毎日堆く詰まれていくソレらに、埋もれて隠れたモノ。老女が自分の背中のジョクソウと、タオルケットとの間に挟み込んだモノ、が生きたまま腐ってゆ ....
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