AM03:09
開けるべき扉を失くした鍵が
中空で揺れている
意識に垂れ込める
半透明の暗い流体
AM04:23
中空の鍵は
かぼそい声で祈っている
薄紫の波が
幾枚か水 ....
ふるさとみたいな
おなかのつめたい石に
雨が降る
チャコールグレーの傘をさした
すぎやまくんに
水溶性の雨が降る
溶けていくね
好きだったのに
ほんとうは存在していない ....
抉り取られた枝、から
予告もなく傾いていく
網が からめとる とられない
誰かの手紙が捨てられて
落書きばかりにうんざり
ひさかたの果実にうつつをぬかす
転がる、ひかり、分散、なつのひ ....
ホームで見上げる架線の五線譜
トンボの音符が泳いでいた
雲のト音記号のとなりに
カラスの休止符が舞い
壁の時計はフェルマータ
パンタグラフはデクレッシェンド
発車を告げるアナウンス ....
私は
ぱっくりとひらいた、むきだしの
乾きと血と脂の湿りと
ほぐされることない鋭敏な
線のからまりからなる
肉
触れれば刺し
眼差せば響く
悠久の吐き気
締めつける雨を
食いしばる ....
古い文庫本の背表紙に
張り付いて煎餅になった蚊の
周りに描かれた茶色い地図は
それを読んだ誰かの血
まだ賑やかだったころ
白い箱を置いてアコーディオンを弾いていた
片脚のない白 ....
部屋の灯りを消し カーテンの隙間を覗いたら
霧に滲んで電線にひっかかっている
ミカンの房のような月がいた
おやすみ 泣き虫の月
夜の周縁を震わせて
電車が横切ってゆく
....
頭から夜をかぶる
花の枯れる匂いと音、種の割れる、うっとうしげな身じろぎ、あくび
のびては千切れる翅
近づいては崩れる影
もう食べてしまった
それからまた食べる
際限なく伸びる、縮む
音 ....
人がいなくなった庭は
草がぐんぐん伸びて
かつてその地に眠った心臓のありかを隠した
もう探し出せないし
探そうとする人もいない
よく見ればブルーベリーが細々と実り
小鳥が集う楽園になった
....
縁側に座り西瓜を食べながら
その黒い種を口から飛ばす
黒々として立派な弾丸は遠くまでよく飛んだ
白くて未成熟な種は気がつかずに食べてしまったかもしれない
夜、蚊に刺されたあとをかきながら
....
茶色く疲れ果てた蔓の途中で 朝顔の紅は
夏の追憶の中に留まろうと もがいている
枯れ急ぐ葉に抗う 小さくなった花は
冷えた朝露に濡れて うなだれる
永遠への憧れは たそがれて切なく
....
妹よ 夕暮れの卓袱台にまごころがなくなり説得しか残らないのは淋しい
りかいしないままりようしようとしないでおくれ
日がな
海水浴に
明け暮れる
まだ胸のない妹よ
淡水学派と海水 ....
冷蔵庫のなかに
あなたがいる
夕べの寝顔そのままに
たまに取り出し
話しをしよう
言えなかった
ひとことも
....
理性的に生きている人なんて
地球上にはいない
自分とおなじように
欲望は果てしなく
ひたすら楽観的な野蛮人ばかり
小さな液晶のまどから
ひっきりなしに
逃避アルゴリズムを
見つけ出 ....
無口な口を縫いつけましょう
言葉は如何にも無粋ですから
帽子をかぶせた
宇宙がかくれた
はばたきながら
地球は夕暮れた
だから、ね……
蚊がうるさいよ
....
夏の夕暮れの
そこは片隅
母の白い指のすきまから
転がり落ちた
ひとかけらの氷のゆくえを追った
蝉の声が遠のく
逃げていく蟻の触覚
氷は崩れ、いつか傾く
音もなく
あとかたの水
....
叔母さんのお葬式の日
その娘であるいとこが言った
お棺の中に手紙を入れてもいいんだって
良かったら 手紙を書いてくれない?
控え室に便せんとペンが用意されてい ....
離島に夏がくる
隣の猫は人間になりかかってきた
この忌まわしい季節には
神経節細胞の痛みだけが秩序ある情報なのだ
ぼくの離島は温存されて
真夜中に大陸とひそかに交信する
部屋のAI ....
おととい 小さなせせらぎを見つけて
家に帰ると
網戸に黒い揚羽蝶がとまるのを見つけた
そして
蝶も私を見つけた
気配の優しさ
遠い記憶の静かな切なさ
完璧な蝶の姿で
再び会いに来てくれ ....
疲れ果てて目が覚めたのは
眠っている間によほど遠いところまで旅してきたからかもしれない
虚脱した魂を空っぽの器に見立て
ピクニックのお弁当のように
ひと品 ひと品 飾り切りして詰めていく
....
シャワーを浴びて 言葉も浴びて そして忘れて
この脳に記憶させることを 真底諦めたよ
常日頃からのキャパオーバーと対峙した時の哀れの泡は
口から出たんだよね?
九つの性質 ....
高台から遠浅の浜を眺めると波の照り返しには目が眩む。
鰯の群れを追いかけて飛沫をあげるスナメリが、
ハセイルカの一団を連れてやって来た。
小屋の喜三 ....
宇宙が身近になって、行来できる船もできて、
酸素に依存しなくなって、キラキラと走る星がある。
星を持って走るテコ職人。
星の雛形の宝石。文字の意志を受け継いで、
無言に喋るメッセージ。 ....
水面をうねり進むのは
中州と呼ばれているものだ
息継ぎもなく川を這う
その背で
菜花の黄が
もえている
微かにひかる
ガラス片
あれは
人の手から
逃れて
中州の鱗に ....
14歳の頃 心から信じていた先生が言った
「今の君には無限の可能性がある」
「でも君がそのうちの1パーセントの可能性を選択した瞬間に、残りの99パーセントを失うことになるのだ」と
それは冷酷な ....
慄け優しい昼の日差しに
女の帽子の湾曲の叫びを
手を差し延べるのは誰だ
静かに発酵していく発泡と発疹
すべては突き刺さったアイスピック
それはそうだとしてなんでもない
バスが曲がっ ....
見慣れた風景に
「私」を当てて直線を引いた
直線はそのまま霞む山陰に沈んだ
屈曲する田んぼの畦道
わだかまる晩春の光線
ときおり風は
定規を重ねたように
直角に地上へと吹き降り ....
春の約束
永遠に叶わない約束
散るときを知って
失墜しながらそれでも
対の自分をさがす
さがし逢えたら手を繋ぐよ
ひとのまばたきより短い時間を使って
もしも一対になれたら
空へはば ....
僕は思うことで見ていた
感じとることの 何かを
閉じた目に存在を知らされていた
遠い 僕の 心のどこかで
自然公園の階段を登る時
湧き水の透き通った色を確かめるように
ヘッドホンから流れる ....
<ある夜に>
安らぎとは無関係な温かい鎖が静止の糸を引く
生煮えの記憶が歌いずるずる亀裂が揺れる
左耳から右耳へ爆音が通り闇は大きく息を吐く
<鳩が一羽>
鳩が四 ....
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