{引用=
朝がほどけると、水面に横たわり あなたは
かつて長く伸ばしていた
灰色の髪の、その先端から
魚を、逃がす
皮膚は、透きとおって ただ
受容する 水の、なまぬるい温度だけを
....
ここにはもういなくなってしまった
ひとたちが
ときどき浮かんでくる
そのたんびに僕は
夕焼け 夕焼け
って詩を書き始める
いないいないばぁ
....
西日の差す窓から遥か遠方の山々を望む。
白く輝く飛行機雲を眺め、彼方に飛び去る鳥たちを見つめる。
視線は常に前方を向いている。
彼らの優しさを感じ、ゆっくりと目を閉じる。
す ....
銀色の雨が音もなく降っている。
テラス越しに見る常緑樹の緑は鮮やかで、
一日の予感は謎めいている。
雲に覆われた空は以前読んだロシア文学のようだ。
テラスに置かれた二脚の白 ....
何千、何万回と
細い管を体内に入れて
排出するために
カーテンで遮るような社会
赤い手帳が福祉の窓口に置かれ
自動ドアが開き
外からの風が吹いて
折り紙で作った鶴のよう ....
このメールを打ちながら
ほんの少しあなたは微笑んだのだろう
ありふれたジョークのような
たった二行から
一滴零れた微笑みが
ザクザクの雪解け道をよろけながら歩いていた私の
胸の底にぽたりと ....
大切だ、ぐらいでいいのに
それ以上の気持ちになるなんて
それはまるで
憎むひとを
殺すチャンスを与えられてしまうようなものだ
想像することもおかしい、ぐらいなら
押 ....
いつのまにか名前を忘れていて
出席番号だけになった
常緑樹はかわらなくて
花のにおいはかけている
校舎と門
息をするのがむずかしいような
薄い空だけ
水に飽和して粘液のような砂糖 ....
目覚ましが鳴る
私の眠りが破られる
また目覚ましが鳴る
私の眠りが破られる
いったい何度目覚ましは鳴るのか
私をどんな眠りから
どんな目覚めへと連れ出そうとして
目覚ましは鳴るのか
そ ....
保管の状態が悪いそれは表紙やらを茶色く煤けさせる埃のようなものを纏っていた、永く倉庫に眠っていた武満徹の譜面を叩き起こしたいと思った。
壁というものを作ると、隔てられた先のそれは、隔てられる前すなわ ....
音楽は子供組が舐める風邪シロップみたいなものなんだって
遠い昔にいた偉い人がそう言ったんだって
いつかのあなたがぶっきらぼうに教えてくれた
わたしは中古の楽器を担ぐあなたについてまわ ....
白い光が辺りを照らし
気分は少し救われている
明日の仕事をやり残したまま
うたた寝をする
こころは底の底に落ちてゆく
無理やりに身を起こし
コーヒーをすすり目を覚ます
静まり返った闇 ....
脳内で柿の実など解れた
歩道橋に立って私たちは
水を飲み 青い街の影を観る
幾つもの眼から切除された
さびしい視覚をもちいて
遠くの情景に
ひとまず別れを告げて
内なる心象に目を向ければ
喜怒哀楽と
それらに紐ずけられたものどもが
溢れてくる
それらは、別々に現れるのではなく
万華鏡で回し見するみたいに
....
夢のなか昏い洞窟のしたたり落ちる水滴と
森の朝の露が合成されてぼくらは生まれた
やがて酒場のにぎやかで気怠いピアノの鍵盤を踏んで
自分が誰だか気づきはじめるか忘れ去ってしまうかの
どちらか ....
「女史を所持」すると言う
回文的なひどさが
後頭部を襲うと
単純さに惑溺する
化粧師の落書きが
海を席捲する
誤算はイタリア語の挨拶で
超人をスーパーに招き寄せて
慎重を期した
化粧 ....
悲しみを夜空に放って明日が風の向こうに佇んでいる。
発散できない苦しみを胸に秘め、明るい明日をじっと見つめる。
希望は憶測の彼方に掠れ、現実の重みに耐えている。
ペン先は暗がりを好む ....
野良猫を飼っている
すごく矛盾しているのだけれど事実なので仕方がない
ある日ベランダに出ると
エアコンの室外機のうえに
猫が丸々とおさまっていた
冷蔵庫を漁るもめぼしいものがなく
....
こわいね
津波もこわいけど
ひとが
こわいね
一定量の空気を
うばいあうような
日々が
去年
母が逝った
でもまだ
郵便がくるんだ
転送されて
デパートの
スプリ ....
橋の下に鳥がいた
みつけたことがうれしかった
春をつれて鳥が群れる
水面下で魚と戦う
風は冷たいけど花が咲いている
三月の子供たちは
少し背伸びしている
進級の魔法で
....
わたしから切り落とされた白い手が
向こうで手をふっていたのです
交差点にはひっきりなしに
びゅんびゅんと雲が行きかうものですから
どうしても渡るきっかけが
一歩を踏み出す勇気が
つかめ ....
数字に計られる気持ちが
こんなにもちっぽけでくだらない
若いとか
重いとか
少ないとか
だのに計れない
心とか
優しさとか
空気とか
言葉とか
涙とか
匂いとか
....
あやとりを繰り返す
かたちを変えながら
手首を噛むと涙があふれた
哀しみ
届かない星々の煌めきの際
かたちを作りながら
あやとりを繰り返す
並木道
....
空が3つあればね
1つくらい駄目でも構わないけど
音楽室は雨のコーラス
トライアングルを鳴らすと
乳頭があまく痺れた
先生はしょうのうの臭いがした
深くおじぎをするとポケット越しの ....
天才は生まれてくる
天才はきっと生まれてくる
それは私達の人生を切り取り
稲妻のように照らし出す
悠久の生命を生きる
悠久の生命を生きる
それは私達の人生を切り取り
一瞬にして照らし出す
きみがいつまでもいないあなたをみているので
ぼくは一塊の埃になってしまった
埃になってもなお消えない思いで
ぼやっと燃えてしまった
きみが布巾をとりにいく
それで些細な焦げを拭きとる ....
密室に詰め込まれた人々はただ寝静まっているふりをしていた
目を凝らせば二十六時を指す文字盤が見える
細長いスポットライトが客席をなぞって点滅を繰り返し
エンジンは緩急をつけながら唸り続けてい ....
春とは名のみの夢見み月が
発育不良な日差しを漏らし
涸れた裏庭を
舐めはじめるとき
何もしないのに
ほころぴてゆくのは
腕時計の不要に ....
頭を空に向けて六十二度くらい傾けたまま
動けなくなってしまった
顎を前方に突き出したまま
後頭部が後ろに傾いたように
六十二度が保たれている
右足をもう少し前に出すと
バランスが良 ....
白と茶 誰もいない部屋のカーテンは開けられて 南向きの窓から差
し込む冬の低い太陽の明かりでとても明るい 雑然と散らばった請求
書、契約書、スーツ、ネクタイ、タオル、ビニール袋、文庫本、楽譜、
....
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