誰もいない
公園のベンチで釣りをしているふりをした
子どもの頃に見た 銀の魚を 釣り上げた
それは水のぬるい夏のさなかのことだった
また 夏がきた
冬が私の目の前を通り過ぎるとき
そこ ....
私たちが
自分を創り終えるのは
いつなのだろう
たとえば、
どこかの建物の一室で
最後の息を一つ吸い
そして、吐き
その胸の鼓動が
ついに沈黙する時
あな ....
ブリキの機関車が横向きに倒れ
プラスチックのミニカーが仰向きになっている
河原で拾った平たい石と
足の折れた甲虫の死骸の上で
スカートのまくれた人形と
鼻のかけた木偶が抱き合っている
形も ....
夢を見られないキカイに油をさす
舗道を照らす外灯を見上げ、ふとため息を漏らす。
胸の奥にしこりがあるような気がして、そっと煙草に火を付ける。
時を刻む秒針が不整脈のように歪んでいる。
こげ茶色の幾つもの顔から感 ....
白い柱の背骨を
クネらせた
憂鬱
そう見えたもの
それは――
千切れそうなほど
頭を垂れたまま
しんしんと澄んだ闇を
受け入れたその
首の付け根に
先細るほど渇き切った ....
冷たい雨が降り続く
冷たい雨が
靴を濡らす
季節は落ち葉の底深く
沈むように眠りに落ちる
望みは断たれ
願いは口を噤む
もう金輪際
雨が降り止むことはない
と
濡れた落ち葉は断定す ....
台風が来る
南の海の匂いと一緒に
置いてきた心を運んでくる
まっすぐに僕を目がけて
近づく力のかたまりに
胸の奥が震える
雲を巻き込む大きな螺旋が
心臓の鼓動と響き合う
どきど ....
指パッチンして折れたとは言えない
絵空事が好きだ
私の好きなものが
二つも入っている
ミロの絵はとてつもない
子どもの落書きのようでいて
都会の喧騒のようでいて
原始人のひらめきのようでいて
神話の亡骸のようであ ....
ラジオから
古いコマーシャルソングが
聞こえてくる
まだ製造販売されているのか
リアルな感覚が違和を覚え
希望の持てない時事放談なんか
これ以上聞きたくないの
逃避行動を待ち受けていた
....
やっぱり
わたしはわたしに生まれ変わった
だれになりたかったというのだろう
目覚めた時
わたしを確かめて
そっと手をにぎりしめた
旅を思いだそうとしたのに
もう夢の足跡は消えてい ....
前略 わたしはぼちぼちです
あなたはいかがですか 草々
追伸 ぼちぼちだといいな
言葉に表せない思いは
ため息で足元に落とせばよい
言葉に表しても伝わらない思いは
自分で口を開けて呑み込めばよい
いつも思いを言葉で包み込もうとした
言葉に包まれた思いは変色してしまい
....
秋風のなかに
ほんのわずかに残された
夏の粒子が
午過ぎには
この洗濯物を乾かすだろう
通夜、葬儀の放送が
朝のスピーカーから流れて
犬が遠吠えを繰り返す
香典の額を算段して
....
そよ吹く
風は近い
真昼の
日差しを受けて
たおやかに
走れ
夕陽に映える
空の
水草
毎日ターニングポイントで変わらない
ふしぎな童話なんか
なかった
うそがめくれる
めくれたうそが風になる
春から夏がやってきた
夏から秋がもどってきた
ぼくは無になる
思い出だらけのぼくは無 ....
森羅万象の奥行きを潜り
泡立つ呼吸音に身を委ねる
壊さなければ訪れない静寂に
あてがった指 時間を悔やんで
包まれた喪服の相容れない微粒の黒
引き千切って 逃げ出すのもいい
やがて更新 ....
ショパンのノクターンを演奏している
サンチョ・パンサ号という
ふたりで名付けた彼女のグランドピアノのことで
彼女は、音が死んでいく、と悩んでいる。
音楽の師匠は、ちょっと綺麗な言葉じゃないけれ ....
川嶋医院の
門柱までの石の階段を
ケンケンしながら昇って行く
昇った先に待っている懐かしい顔
随分と草臥れたセーターを着ている子や
今日おろしたてのジャンパーが
砂や泥で白くなってしまった ....
蝉は生き続ける
孵化を忘れた年月を
ルサンチマンさえ風化して去った
いくつもの夏を
トニオクレーゲルの日々を
隣のねえさんの優しげなまなざしを
不思議の森に生まれ
永らえた歳 ....
まつげ長くして口紅型のピストル
表現し伝達する手や足と震える唇
バンドマン歌ってよこの夜の深さと哀しみを
いくつの星がうまれて流れていったのだろう
音韻学的なぼくらの言葉の航続距離は?
アクセサリーみたいに飾り付 ....
生まれた頃の
記憶
母の語る
真実
学校の先生が話す
口癖
ただそれだけの
時間
初恋が恋とは分からない
感性
誰も知りはしない
秘密
友達と誓う
約束
神を信じること ....
「きのう
お会いしましたね」
と
見知らぬかげが
暗がりを指さす
「覚えていられないので
さきにいいました」
暮れ方の街
屋根は正しく空を切り取り
はがれた青は道 ....
自らにも問いかけてしまいそうな、
でも 永遠に答えなんて出ないような
不思議な心情のまま 紡いだ言葉を
目玉焼きの中に 閉じこめて
黄味と ふたり ゆら・ゆらら
記憶の海に 沈めたら ....
セピア色の銀板写真に
固定されたあなた
肋骨の浮き出た体で
西瓜を喰っている姿に
戦場の匂いはないとしても
あの夜
炎にあぶられた身体は
反り返り 跳ね返り
決意は ぱちぱち爆 ....
自分で敷いた道がある
凸凹道で思うように進めない
曲がりくねった迷路の道で
迷ってばかりいる
ぬかるんだ道に
足を取られて転んだこともある
途中で立ち止まり
天を仰いで溜息を吐いた
....
もう動かない足が歩こうとする
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