父旅立つ三日前
桜便りにまだ早い頃
桜みたいと
いう父に
大きな枝
届けてくれた人あり
啓翁桜…
病室と想う温度に
蕾ひらかれ
弥生そらから
香りたつのは
花 ....
アダージオ
アンダンテより
遅いのに
ラルゴより
速いという
あらわになった
濡れた首筋
板の上に
身をはべらせて
うつる鏡に
姿をみては
音の波に
....
小さな手のひらで
メダカをすくう
私の手の中で
メダカは泳ぐ
水は少しずつ
私の手をこぼれ
やがて
あなたは動けない
愛は
どちらなんだろう
こぼれていくものと
....
このろくでもない
ごみ溜めみたいなタマシイの
日陰に生えた
雑草どもは
ことによると
わたしが産んだ
唯一の生命であった
むくむくむくっと 東むき
むくむくむくっと 芽が生えて
むくむくむくっと もぐら起床
むくむくむくっと 殻をむき
むくむくむくっと 白無垢着て
むくむくむくっと 太ももむくむ
はる
....
ラムネが弾ける季節
女子はスカート丈の限界に挑戦してる
校庭では野球部が地獄変
「連れてって」なんて軽く言うぜ
我慢が美徳の時代は過ぎ
「欲シガリマセン」とか誰が言う?
日当たり良すぎ ....
切り裂かれた皮膚から
去っていった細胞が
シクシク泣いている
あの日開いた傷口は
新しく育った細胞にふさがれて
戻る場所はもうない
見えなくなった
何もかも
熱帯雨のような景色のなかを
蚊が飛んでいる
飛蚊症なんだって
読めない
書けない
意識がまとまらない
網膜はく離の前兆とかもあるんだって
頭痛、嘔吐 ....
ソメイヨシノは
夢想していた
練香を一筋塗った
乙女のように
満開に咲き乱れ
ほのかに満ちる初恋の香り
気まぐれな風に遊ばれて
さやさやと宙に翻ったとき
透き通った蝶の{ルビ羽=は}に ....
飴玉
また噛み砕いちゃった
我慢できずに
ばらばらの気持ち
ゆっくり
舐めたらいいのに
こういうときは
せっかちだから
噛み砕いちゃう
少しでもあなたの気持ちをと
少し時間がたてば ....
彩色された 醜い些細な日常を
覆い隠すつもりで 目を閉じて見ている
心に残った出来事だけを 何度も何度も
繰り返し話す 自分の世界に浸って
大根の葉が 黄色くなった
裸になった樹 ....
かつて激しくなにかになりたいと
想ったことがあっただろうか
自分以外のだれかになりたいとはいくども考えたが
それはクラスの席替え程度の安易な願望にすぎなかった
ラモーンズのコピー親父バ ....
おとうさん
あなたの遺した杖がある
この杖をつき
生まれ故郷の野山を散歩するのが
最後の楽しみだった
歩くことができなくなってからも
ふるさとの山の桜を見に行くことが
最後の希み ....
心地良い朝を吸い込んだら
迷子のオキシダントが
途方に暮れているのが分かった
悔しすぎて歯軋りしたら
心配性のフィブリノーゲンが
身構える気配を感じた
本当を言い当てられて黙っ ....
夕暮れチャイムの音を 靴底で踏む
冷めた指で掴みたかった夢は
温い毛布の中のちがう体温
斜めに闇を切り裂く車のライトに
いくつもの私の顔が 現れては消されていった
パンプス ....
それは鯨ではない
おたまじゃくしだ
スケッチをするぼくの背後で
だれかの声がした
骨になって眠りつづける
博物館の鯨
宙に繋ぎとめられたまま
白い夢はなかなか
目覚めることができな ....
川へと行く人たちに混ざれば
わたしたちの足取りは浮かび上がり
闇はますます闇に
わたしたちは手に提灯を提げて
川へと向かう
夏の夜は重なり
昨年の夏も、一昨年の夏も
隣どおし
自分 ....
「ほんとうは何処にある?」
探しても見つからない
探し続けるためには
生きねばならない
だから仕事につき
いつしか妻をめとり
まもなく子が産まれ
ようやく家を借り
中古車を譲り受け
....
私は折り畳み傘が好きだ
しゅっぽと傘を広げるとき
そうっとわくわくする
それはマジックのようで
手を広げれば花束や
白い鳩が出てきそうな予感がする
それはまた魔法のようで
手を広 ....
夏の夜には
哲学者がやってくる
重たく湿った空気を裂いて
纏わり付いた夏の残滓を背負いながら
のっそのっそとやってくる
窓の格子がぼんやりと
月の明かりで光っていた
乳母車を引く質量の響 ....
あした を はちどりがついばむように
きたい を もりがふきなでてくように
みらい を 嗅いでみたい
めをつぶって
はなで
おおきく
おおきく
いきをすって
あかはらとほおじろ ....
バスの座席に身を沈めると
自分の居場所を見つけた気がした
乗客は疎ら
誰もが無言で
窓の外を見つめている
赤いテールランプの川
灰色のまま濃くなる空に
星のように瞬いてとび去る
....
あたまの声は
なかまの声だ
あたまの痛みは
あなたの痛みだ
☆
抒情を排し
饒舌さを避け
なにものでもない
言葉の羅列
☆
僕たる僕の
僕 ....
無影灯の下で
(あるいは 河原で 砂漠で)
鶯色の神々にかこまれ
(あるいは 烏色の悪魔に)
無防備に横たわる
切り裂かれる皮膚
晒し出される内臓
(生きものの命を掴んだ少 ....
黄砂の舞う交差点
目を細めて上空を窺う
直立不動の小学生の左手には
やや大きめのファーストミットが
反対側の信号機の下
サイドスローの怪人が
華麗なステップで卵を
直立不動の小学生に ....
まっしろなカップに
夜が満ちる
からっぽなわたしは
真っ暗な部屋で
夜を見つめてすごす
安堵のなか
ごくり ....
雪が腕を広げ手のひらを広げ囲うように降り続いている病気にならない生き方を選べば
お爺のように息を止め時々息継ぎをするようにお酒を飲めばよかった目を閉じると頭の南側で日照りだった畑が病のように花を咲か ....
胸に枕を敷いてうつぶせになって寝転んでいた。
そして自分の指を見ていた。
あんまり近すぎてぼやけた指だった。
あんなことのあったあとだ。
しばらくこうやって気を静めていよう。
....
冬の道のあちこちに
手袋の片方がよく落ちている
ポケットから
ものを取り出す時に落ちたのか
自転車の前かごから滑り落ちたのか
私も長年愛用していた
手袋の片っぽを失くしてしまった
....
酒浸りの毎日が厭きてくると、突然思い立って詩なんぞを書き始めるようになつた。
詩を書くことにしたのは、既に日々欠乏しつつある己の体力と得体の知れない精神と何とか帳尻が合うかも知れないと言う甘 ....
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