彼は今迄何度も転んで来た。
愛に{ルビ躓=つまず}き、夢に躓き、
恋人の前に躓き、友の前に躓き、
鏡に映る、自らの{ルビ滑稽=こっけい}な顔に躓き、
振り返れば、背後に伸びる
長い日 ....
詩は生きるよろこびをうたう
もちろん死をうたうこともある
生を語るに死を考えぬはずはないから
踏み出せない一歩を踏み出すため
渇かない涙を一時でも乾かすため
ときによろこびを高らかにうた ....
初夏の雫を集めた、里芋の
透明な葉脈の裏側で
夏風の子が
小さな産声をあげる
まだ、うまく飛べない
棚田の{ルビ畦=あぜ}に沿って
緩やかな曲線を描くと
早苗に浮かぶ蛙が
水かきを ....
休憩の一時間に
自転車でぐんぐん漕いで
交差点をみっつ渡る危険な感じ
一年前の夏の日に
ロビーで仕事をさぼっていた君は
日焼けした横っ腹をぺろりと見せた
もう その頃には
恋人同 ....
性欲の対象にするということは
そんなにおぞましいことでしょうか
あなたをいとおしむ気持ちが
口淫へと私を導き
ただあなたの精神が天の高みへと
達することだけを
祈っておりました。
そ ....
振り分ける少女の、
想
名前もない
痛む、芯も
未完成な少女の主題は
誰にも知られない、それだけの行く末
本を開けば文字に溺れた
さかなに、なりたかった
揺らぎ揺らすからだの線
....
金属にぬくもりがないのなら
肉体を使おうか
地下道に
ヌルヌルと体液が染み出していく
酒の匂いを掻き消すべく
朝の振動音が体液と共振する
芋虫
戯れる森の雫が、
ひとびとの拍手のなかで、静かに横たわる。
あなたの流れる姿が、
森の節目に、厳かに薫り立つ。
標高をあげている森は、
巧みに感度を敷きつめて、
わずかに彩色を動かしな ....
どこまでも続いていた
白い砂浜と打ち寄せる波
柔らかい春の日差しと頬に触れた潮風
逃げるように訪れた街で
あなたをただ忘れたくて
海岸沿いのまっすぐな道を
すれ違う家族連れ
手を取り ....
女は宛ら 一室の部屋だ
好きな男好みに 設(しつら)えられた
日々模様替えする 夜々配置換えする
九十九を過ぎた婆さえも 「あれまあ不思議!」と云うような
女は部屋の 一室である
想い人あら ....
(誰かが泣く夜の 月は足跡だらけ)
夕立の30分後の車の下の
猫 濡れねずみで
のの字にくるまり
もうすぐ月のやって来る夜
あの子の心根から
零れ落ちましたよ リン と ....
そのとき奇跡を初めて信じた
この世に無駄ないのちの誕生はひとつも無いのだ
あっ、食べたね
その肉はさっきね、
やわらかく やわらかく揚げたんだよ
ああ
カリカリのドッグ ....
今日の空はぬかるむ
沈むように空に立って
私は天空へ
憤りを捨てに行く
光る
ざわめく
お前を
連れ出す
打たれる
二人で
稲妻
はぜる
当たるぜ
俺たち
そんな
ひどい
あたった
ためしが
ないのよ
宝くじ
....
カメラだけじゃない
コンタクトだけじゃない
音楽も
映画も
あれこれも
なにもかも
使い捨て
使い 捨て
果て 捨て
顔だけすげかえた
有象無象の大多数
精神はありや
....
打ち捨てられてそこにある
朽ちたピアノ
横たわる私
ぽろんぽろんと
雨音と共に
雫が鍵盤を叩く
音色が世界を包むとき
雷が悲しみを切り裂く
思いはどこへ
姿なき君の手をとり
ぬかる ....
君の目線で私を見たい
一体、『私』は君の瞳にどう映っていたの
朝のおはよう
冗談に笑う声
細めた目元
私にはそれが
特別だと思っていたのに
西日とも言えな ....
ひとりごとを呟きながら
誰もいない部屋に戻り
今日会った人のことを思い
誰かの気持ちを推し量って
どうでもいい話を熱心に聞いて
そんな日々を繰り返して
グラスに浮かべた氷が ....
昨日にくらべれば
歳をとっている
でも今の自分は
今もっとも若い
風化していく切なさ
生きることの過酷
明日も必ず訪れる
胸に刻まれた孤独
産まれてき ....
覚えていますか あの国道を
場所のことではなく
名前のことではなく
もう二度と通ることのない
あの
国道のことです
向日葵の頃には
とても眩しいものでした
容赦のない陽 ....
揺れる洗濯物 少しほつれたシャツが今日は眩しい
こうして並んで空を見上げる喜びを 心から幸せに思う
時計を見る余裕なんてなかった 君と向き合っていたから
色鉛筆って懐かしい響きだよねって そ ....
青々と
広がる蓮葉には
明け方の雨の
ひとつぶ、ふたつぶ
みつぶ、よつぶが
それは見事な玉を作り
ころころと
風にゆれながら
まるで生まれたての
宝石のよう
真っすぐのびた
....
さびしくなったら
花咲く野辺へゆこう
ごらん
{ルビ凌霄花=のうぜんかつら}に蝶がぶらさがる
* 逢う魔が時 *
逢う魔が時に
夜が浸透してゆく
何も起こしてはならぬ
何も触れてはならぬ
何も感じてはならぬ
まなざし以外は
重ねてはならぬ
流されてはならぬ
逢 ....
{ルビ異花=ことはな}の{ルビ雲夜=くもよ}にしんわりんと咲き
翼よ
きみはなぜ
はたたくのか
熱く青くはためくからだ
その空間を根幹となし
風の性霊を動力とするためか
花 ....
じゃあ あたしは何なのよ
そう言う沢子の声を
尻を掻きながら聞いている
ジャガリコはとても美味しい
でも沢子なんて女はいない
じゃあ あたしは何なのよ
そう呟いている自分
そう呟いて ....
泳ぎにいこう
真夜中の海へ
知ってしまったきみ
何年も
物心ついたころから
その肩に背負いつづけ
世界が広がれば
重みもひろがり
いつしか
道にうつぶせに
たおれて ....
君の操る必殺技を
よく知らなかったので
不用意に踏み込んで
吹き飛ばされてしまった
それと同じような時代、なのかもしれない
人は満水になると、河へ
誰の肩にも当たらないように夢 ....
はじめて海を知ったのは
函館山の東側、岩だらけの海岸でした
あちらこちらに見える対岸の
私との間は早波で仕切られ
たくさんの潜水艦が行き来しているのだと
おじいちゃんに教わりました
次 ....
今日と明日継ぎ目の時に迷い込む空疎な羽ばたき地下室の夜に
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