晩夏の草むらに足を踏み入れると
かわいた空気がひび割れて
よれた、真っ白いシーツが敷かれ
見たことのない男が横たわっている
あばらの上には、何本もの{ルビ径=みち}があり
そのどれもが、わた ....
――外国産と思しき、
ずいぶんと安っぽっちい杉板の木枠に
金槌で小ちゃな無数の鋲を打ち込み、
皺なく「ぴぃーん」と
白い亜麻布を張った
自分で拵えた七百号の白いキャンバスへ
左官が使うみた ....
ノスタルジックな夕陽に
息を吹きかける
(あかね、
呟いては繊細に笑い
凝りすぎた肩をぐるりと回す
過去の残像より
今の空のほうが余程親切で
おーいおーいと ....
桔梗の匂いです
ほんのりぼかした地平線は
花のうねりが続いています
その上をすべる
乳白色 あおい月
輪郭はまだうすい
夜はさらさら
風はさやさや
月は花の ....
すべてにけりをつけて
ゆっくり回りだす世界に
打寄せる思い出
消えるわけじゃない
最後にゆっくり
涙をこらえて踊る
涙色の照明に照らされ
「またね」
言葉に隠された
「さようなら」
....
生首を抱えて逃げる 君はさしずめメデューサ
目を見てはいけない 目を合わせてはいけない
簡単に囚われてしまうから ね?
でもどうしてだろう 君の抱えているその首の顔
どこからどう見たって君 ....
僕は嘘を吐かないよ、
あなたはいつだかそうおっしゃいました
ああ、そうです、そうでした
私はすっかり忘れていました
人間なんてあてにならないものだということを、
心はどんどん季節を変 ....
あるお腹が空いた日
しょうがなく戸棚を開けた
何もなかった
幸せすら
見当たらなかった
あるお腹が空いた日
雨粒を一掴み口に入れた
なんの感情もなかった
ただ
冷たくなった雨 ....
青いテレビ画面に 手を突っ込んで
すましたニュースキャスターを握りつぶした
気を紛らわせるために 野良犬を呼んで
お酒を飲まして 初めての夜を捧げた
尻尾を振り乱し 飛び ....
夜な夜な
開けてみる
夜な夜な
取り出してみては
様々なシチュエーションを想像しては
あるいは
過去の思い出に浸ってみては
ほくそ笑み
ついに ....
今日は静かな雨
君と焚き火をしよう
やさしいぬくもりでは
凍えてしまう夜だから
黒松の薪なら
煙は雲まで届くだろう
そしたら湿り気の凝集で
雨が雲から
絞り出される
だから焚き火 ....
いつ果てるとも知れぬ 有刺鉄線
歩哨は立つ
何を見つめ
補給しょう
サイロの上の刈り込まれた 芝は緑だった
その 小高い岡
盛り土のいかめしい こぶ
サイロに開口部があって
時 ....
ひなごおり の よ
しずむつち はしゃいだ
わたりふね にがして
そろりと りょうて
あたたかく ないた
つめにかけた おまもり
しろいくも の ひも
桔梗のむらさきを聴く、と
夜の二歩手前が
どこまでもやわらかな鎖で
約束と小指を繋ぐ
硝子の鉢に浮かんで
むらさきは、鳴る
秋ですね と
ただそれだけを告げるために
桔 ....
乾いてゆく風があった
薄れてゆく光もあった
綺麗にされた夏だった
目の前に拡がる
どこか懐かしい景色に
なぜかふるい歌を思い出し
海に腕をさし入れる
かなしみが群れているのは
きっ ....
都市は
石と風のコントラスト
開けきった 窓から
円形の空のしりぞき
視線は永遠を求め
白い雲を追う
近くに目を落とせば
中層住宅・オフィスビル
ガラスが日に輝き
祝祭の ....
ざらついた空気が
ばちっと音を立ててめくれてく
あたしの心は
そのたびに
へばりついた電気の糸を放電する
ねえ
夢時計の針が曲がってるよ
なんだか昨日の方を向いているような気がする
....
もっと上手に生きられたらって
泣いた夜も
毎日少しずつ違う朝は迎えにきた
からん、と錆びた音がした
気がする
頭を撫でてくれる手が好きで
これが欲しいああして欲しいって ....
朝、ぼくの季節は二十五歳で
ざらざらとした空を
東から西へ
たとえそれが夢だとしても
渡って、どんなにボタンを押しても押しても/押しても
改行できないでいます
ぼくが、ベーコン ....
パソコンの電源を落とした
画面の暗い鏡に
カーテンを閉めた隙間から
入る一筋の日射し
うっすらと照らす
ぼやけた私の白い頬
暗い鏡に映る自画像の
背後の壁に
風にたなびく ....
言葉が流れて澱んで溜まってく
まるで壊れた雨どいから雨が漏れていくように
雨が降ると体のあちこちの古傷が痛んで
時々心臓辺りも何だか嫌な思い出に傷んでくるようだ
雨は嫌いじゃない
....
秋が空気を包みはじめている
なんだか最近いつも二人でいる
コーヒーにミルクしか入れない
薄いこげ茶って秋っぽい色
髪、伸ばしているの
首筋が寒いから
風が落ち葉を舞い上げて
ほっ ....
眠りの先にある風景を知らない
手にしたジャックナイフでは
届かない、刃先
夢をおぼえている、というあなたは
きっと眠ってはいない
暗闇の向こう、世界で起こっていること
肌の外の全て ....
あの角を曲がると
地平線の見える公園
二人が若い頃
いつも待ち合わせした
白いベンチ
あの頃語った夢と
想像した未来
ちょっぴり違っていても
私は幸せ
あの時私は…
遠 ....
天気図を六時五十二分に見て
今日を定めてる
諸天に感謝の目配せを
東向きの窓から
空を見上げたなら
一日は 地球の自転に同期している
沈香をくゆらせて
勤行・唱題が体を目覚め ....
1枚めには
あなたに会える喜びを
風に吹かれて待っている
2枚めには
悲しみが潜んでいる
私のことを忘れないでいて
3枚めには
胸いっぱいの愛を
あなただけにあげるの
そ ....
胸は
すぐに
いっぱいになります
それゆえわたしは
多くを連れて
行けません
あなたを
はじめて呼んだ日に
こころの底から呼んだ日に
海は向こうになりました
永 ....
過保護な獣は病みやすく
保護なき獣は
{ルビ傷=いた}みやすい
野に{ルビ棲=す}む者よ
たがいの{ルビ荒=すさ}びが
見えないか
涼しさ寒さは紙一重
闇夜も夢も
紙一重
....
好きではない
むしろ嫌いかもしれない
それでも、
作られたものまでをも
嫌いにはなれない
あたしの言い分
あなたの言い分
我慢させてたのは、あたし
我慢してたのは、あなた
折れるなら・・・あたし かしら。
ただし、現状をかえることが難しいなら
ど ....
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