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闇に飲まれる海を
歩いてくる人々がいる
靴を履かずに
埋立地から町へ
明かりへ







事故の影響で
ダイヤは一斉に狂った
側溝に流れ込む雨は
こんなはずではなか ....
藪にピアノが捨ててある
埋もれているがそれは確かで
おぼろげに形がわかる
鳴ったりはしない
棺のようで気味が悪い







腹の裂けた猫が
中身をこぼしながら歩いていく ....
カーブミラーに映されている神社は
かつても
これからも
一度も存在しない







残された靴を
一室に全て保管してあるという
棚には老若男女の区別なく
薄墨色をした ....
風はプールを波立たせた
濁った水底には幾人もの女が沈み
ゆったりと回遊している
着物の裾を触れ合わせながら
言葉も交わさずに







青いゴムホースで縛られた家
血管 ....
闇の中で燃える火よ。泣き疲れた女、マラルメよ。軌道の果てに行き着くことはないと正しく異なるステップで奏でた草花。夢から夢へと遍歴する、酩酊ののちの酩酊、燃え尽きたページをめくる骨の手の群れ。ぼくらは死 .... 死んだ人ばかりの町で悪口を言いながら酒を飲む。その後は近くのダムから流れてくるせせらぎに沿って歩き、誰もいない土産物屋を覗いて、峠にへばりついている古い駅に辿り着く。そこまでは一言も喋らなかった。駅舎 .... ある者は言う。魂は半円であると。またある者は言う。魂は円の端と端を切り落とした二片を繋ぎ合わせた、ちょうどハンバーガーのようにひしゃげた歪な形であって、別の巨大な真円によって、その内側に生えた桃色の柔 .... 浴衣を着て歩いていたのだ
電柱を何本かやり過ごして
花も歌もないままに通っていくと
いたるところに空き地がひらけ
荒地野菊の群生や
廃屋を匿している竹藪が現れ
わけもなくただただ悲しいだけ ....
思い違いをしているのではないか

君は寝床に身を横たえているのではなく
もういつの時代に作られたのかも
さだかではない古い古い風呂桶の中に
身ぐるみ剥がされたままの素裸で
(しかも生温い蒟 ....
                    昨日の雨は
                    東の街に冷たい胞子を降らせた



夜の公園の砂場
無数の傘が突き刺さっていて
引き抜こうとし ....
わたしがわたしのことを考えていると
障子がすーっと開いて誰かが入ってくる
いつか夢で会った人のような気がする
上から下まで赤い服を着ているので
目も眩むような思いで
何も言えないでいると消え ....
踊りを踊るには
こうするんだよ
といって
知らない男が窓から入ってくる
ひょろ長い腕が床にまで垂れ下がって
体がやけに白くすべっこい
黒い薄衣のようなものを羽織っていて
その下はまったく ....
木の高いところに骨がかかっていて
鳥が面白くなさそうについばんでいる
手にしたほうきでつついて落とすと
地面に落ちたそれは乾いて白い

夜中に夢から覚めて
台所で水を飲んで寝に戻る
さっ ....
包丁がなまってまったく切れず
庭に出て塀でごりごり研いできたところだ
落ち葉や新聞紙で試すとよく切れる
刃先をゆっくりと撫でてみたい気もして
それはぐっとこらえて
あらためて台所に戻ると
 ....
もう少し眠っていてもいいと
誰かが低い声で囁くのが
薄暗い夢の中でもわかる
本当にもう少しここで
眠っていてもいいのですか
念を押して訊ねてみると
その人は猫を撫でるような声で
眠ってい ....
嘘か猫のようであろうとして
そのどちらにも失敗してしまった
こうなってしまってはもう
人さらいになるしかないと
人さらいの家に教えを請いに来たのだが
玄関から庭まですうすうと
透明な空気が ....
突き刺さりの星だ
海までの距離をはかりかねて
人間が足を踏み入れたことのない
地上の浜辺に行き着く
袖を垂らしている木々
鳥の見回り時
沖への呼び声が耳元で鳴るのも
呼び声と言えるのか
 ....
なにかの牙が落ちている
(もちろんわたしのものではない)
足先で蹴るところころ転がる
道に尖った白い牙が
矢印のようにあらぬ方向を指して
陽射しの中で輝いて見える
犬かなにかの牙だと思うが ....
突然、まな板になってしまったらどうすればいいか
このことを知っている人は意外に少ない
まずはその職務につくことを神に報告するため
東に向かって三礼
簡単でもいいから供物を用意するとよい
そし ....
本能寺から来た人がまんじゅうを食べている
わたしはお茶を出そうか迷っている
なぜといってあの本能寺から来たのだから
些細なことが失礼にあたるかもしれなくて
しかしお茶くらいは出そうかと
腰を ....
暗闇に漂う一本の手首のことを考える
指はすべて揃っていて
爪には土と苔がこびりついている
どこか山蜘蛛のようでもあり
それは実際に一匹の生きた蜘蛛である
をかめとは彼女である
嫌われ者の彼女である
しだの葉陰から覗く
首の長い女である
わかめではない
をかめである

をかめは畑を荒らす
今日もあちこち荒らす
ばきばきと全身の骨を鳴らし ....
そろばん屋の戸をくぐる
奥に小さな番台が設けられていて
主人がそろばんを弾いている
わたしがそろばんを見に来た旨を告げると
主人は顔も上げずに
今時そろばんでもないでしょう
とぶっきらぼう ....
卑怯者が来るので座布団を新調した
それからお茶とお菓子、万が一に備えて酒も
しかし指定の時刻を過ぎても現れなくて
もうそろそろ外が暗くなってくる
冬の日は早い
次第に天気も崩れてきて
風に ....
湯たんぽを使うようになって
夢の中にまでそれが付いて回るようになった
野末のだだっ広い大座敷や
寂れた遊園地のおばけやしき
はたまた性交の場面の片隅に
それは寄り添うようにいて
まだら色の ....
剥がしてしまった
と思った時にはもう手遅れで
たらたらとこぼれさってしまう
葡萄の汁が点々と畳を汚し
部屋中をさまよい歩いて
どこにも行き場がない
指先を口に持っていき
吸いつづければい ....
朝、おにぎりを握る
水に手をつけて塩をすりこんで
ほどよくめしを手にとる
手のひらに熱が伝わり
熱を握っていく
この世で握られたすべてのおにぎり
すべての人が感じた熱さを思う
炭化してい ....
角を捨てるのなら山がよい
季節の巡りごとに生え変わる角を
ひとまとめに籠に上げて持っていく
このあたりは古い窯場だから
埋もれて見え隠れする陶片を拾いに
屑拾いがうろついているのもちょうどい ....
わたしが桂馬をくすねてきたせいで
あの人たちは困っているにちがいない
そう思うと笑みがこぼれてくる
桂馬ひとつがないせいで
互いが互いに疑心暗鬼になり
それがために命を奪い合えばいいのだ
 ....
夕方過ぎに家を出て
魚を買って戻る途中に
なにか気がかりがあるように思う
何だったか思い出そうとして
何のことだったかわからなくて
吹きつけてくる風が
二の腕のあたりにうすら寒い
手提げ ....
ただのみきやさんの春日線香さんおすすめリスト(71)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
通り魔たち_5- 春日線香自由詩4*19-11-16
通り魔たち_4- 春日線香自由詩419-11-4
通り魔たち_2- 春日線香自由詩319-10-24
通り魔たち- 春日線香自由詩319-10-19
月―Mallarmé- 春日線香自由詩318-9-25
高原にて- 春日線香自由詩318-8-8
魂の形- 春日線香自由詩218-7-30
荒野へ- 春日線香自由詩218-6-28
思い違い- 春日線香自由詩1217-12-28
街に降る- 春日線香自由詩3*17-9-23
赤い服- 春日線香自由詩217-7-16
踊りを踊るには- 春日線香自由詩317-6-2
水鳥の夢- 春日線香自由詩917-5-27
なまくら- 春日線香自由詩516-11-17
漬物- 春日線香自由詩716-10-25
鏡の中には誰もいない- 春日線香自由詩416-9-3
脳の浜- 春日線香自由詩216-8-3
春の牙- 春日線香自由詩416-3-5
まな板- 春日線香自由詩416-2-20
本能寺- 春日線香自由詩116-2-15
蜘蛛- 春日線香自由詩416-2-10
をかめ- 春日線香自由詩116-1-9
そろばん屋- 春日線香自由詩416-1-2
卑怯者- 春日線香自由詩415-12-28
湯たんぽ- 春日線香自由詩415-12-16
生爪- 春日線香自由詩415-11-8
おにぎり- 春日線香自由詩515-10-17
角埋山- 春日線香自由詩515-10-16
桂馬- 春日線香自由詩215-10-9
気がかり- 春日線香自由詩415-10-6

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