砂漠の真ん中に
ペンギンの死体があった
穏やかな光の祝福を受けて
左右非対称に腐れていた
耳をすませば
崩れる音も聞こえた
老いた男はか細い腕で
窓を閉めた
風で砂が入るのを嫌っ ....
小指をなくしてしまったのと
あなたは淋しそうに言う
けれどあなたの手には
たしかに五本の指が
すらりとあって
僕からみると
ほかの指より少し短いその指は
いちばん右といちばん ....
殺んのかコラッと言ったものが殺られた
バーテンダーが殺られるべくして殺られた
抗争が殺られるまで始まった
沖縄の青い魚がモリで射抜かれた
太陽が昼を殺った
事務所が爆 ....
・
小さい頃
コーヒーとは
空色ののみものだと思っていた
すくなくとも
母親が眠れない夜にいつも作ってくれた
ミルクコーヒーは
曇りの日にふと覗く
青空の色をしていた
それなのに ....
るいるいと
つみかさなり
荒涼をうめつくす石
これは誰かの
さいぼうであるか
それらの石が記憶の
かけらであるとしたら
この場所に吹く風も
意味を孕むであろうが
ただ過去を予 ....
北の大地にも春が届きました。
桜色の風が丘を翔けて
始業のベルに学生は駆けて
もったいない
足をとめて
桜と串団子
北の大地にも春が届きました。
新緑鮮やか皐月の丘は
どこを見ても"桜"です。
人々の行き交う夕暮れの通りに
古びた本が
不思議と誰にも蹴飛ばされず
墓石のように立っていた
蹴飛ばされないのではなく
本のからだが透けているのだ
聴いている
時 ....
傷口をいじれば
いつまでたっても治らない
そう知りながら
この手は気づくと触れている
もう忘れていたあの日の傷跡を
いじり過ぎた浅黒い影が
遠い過去の空白に
うっすら ....
本のページをめくる
あなたの指が
風のようだと思った
あなたの中で
長い物語ははじまり
長い物語はおわる
本を閉じると
あなたはすっかり年老いて
物語のドアから出てゆく ....
言葉の近くで
酸素を見ています
午後に置き忘れた椅子から
ずり落ちているあれは
靴の始まり
裏側を覗くと
もう誰もいません
+
金歯の中に広がる曇り空を
....
長さが
ちょうどいいので
いつもその道を歩いた
長さは長さ以上に
距離ではなく時間だったから
帰る家もなつかしい
廊下の床がゆるんで音が鳴るのは
散歩と人の長さが
同じ距離に ....
ほどけてしまいそうな
女の子のからだから
春をとり出してならべる
つみぶかい瞳が
まだそこにおよいでいる
名前の知らない五月の旗
活字から顔をあげて
だれをみる
外をみた
窓 ....
この世には
古式ゆかしい
甘酸っぱい
そんな秘密があるようだ
夜を眠らずに
真摯の闇に歩けば
それはきっとわかる
自然と知れるもの
わたしは切ない恋をした
うすピンクのパンジ ....
ええ
主人のことは愛していましたよ
もちろん子供たちのことも
なぜこのような事になったかなんて
説明できないわ
(直接的な方法ほど
恨みが深いなんていいますが)
私が包丁を選んだ ....
水飛沫が飛び、
小屋から突き出た銃口が火を吹く。
猟師は手ぶらで家路に着く。水鳥はゆっくりと
水面の夕日を濁す、夕方。
線路を走る列車が、陸橋をがたがた揺らし
ボルトが緩みつつある。壊れつつ ....
凍りつく寸前の
ずしり
それは
深い深いみずうみの
4℃
絶対温度で横たわる
好きです、って
告げたら最後
深みで眠れ
ことばよ
声よ
・
眼を閉じるとそこは
金木犀の香る秋のベンチで
横には
もう何度も思い出しているから
びりびりの紙のようになってしまった
いつかの君が
黙って座って煙草をすっている
周囲がいやに ....
またもや不意打ちに
なげこまれたアクシデント
水面がざわざわ騒ぎだす
バリケードをはりめぐらせたつもりが
いつもほんの一瞬のスキをついて
とびこんでくる
ズン と重く腹にしずん ....
逃げ去った陶酔も何もかも、
瞳孔が閉じるのを感じた
冷たい空気を、感じた
奴は走る
息を切らし、
爆発しそうな心臓を抱え、
深い夜を、
たったひとりで、
(――そこでならなにが ....
昨日の僕はくたびれて
仕事の後の休憩室で熟睡し
帰りのバスを待つ
怠け者の朝
ベンチに腰掛け
一冊の本を開く
昔々、見知らぬ地へ流された
無一文の身で額に汗して畑を耕 ....
凡庸なひとりの人の内側に
身を隠す「豆粒の人」は
いつも光を帯びている
脳裏に取り付けられた
あるスイッチが押され
心の宇宙に指令は下り
凡庸なひとりの人の内から
....
田舎の駅の階段を
せーらー服の少女は軽やかに上り
ひらひたと舞うすかーとのふくらみに
地上と逆さの重力が働いて
自ずと顎が上がってく
まったくいくつになっても
男って奴ぁい ....
指をすりつぶす音が水になる。椅子にはびっしり僕の名前が書いてある。妄想のわりにはよく動く左足だ。下半身を覆う毛布の毛束は鱗のようで、撫でると白くなり、逆に撫でるともとの緑になる。君は社会の群れを見たこ ....
昨日きみとすれ違ったので
掌サイズのレモンをしぼった
種がとび出して地面を弾いた
今日うっかりきみに
話しかけてしまったので
直径一メートルのレモンに乗った
種がごろんと落ちて地面に寝 ....
いいですか
すべてのニワトリは
自分で殻を割って
生まれてきたんですよ
と叱られた思い出
いまなら言える
僕はニワトリじゃない
*
あまりの暇にたえかねて ....
クソの上に座っちまったんだよ、
それで頭に来て、岩に隠れちまったんだよ。
豊葦原の{ルビ千五百秋=ち い ほ あき}の瑞穂の{ルビ地=くに}の、
お天道様は岩戸に隠れちまったんだとよ。
た ....
きみがあること
そのものが
時間であるようにして、
呼んでいる、差し出されたきみの時刻に、彼女は
故郷にいて、
彼方が
電話をかけてくる、夜はかつて
退いていったようにして、受け ....
野菜をたくさん載せて市場へと向かうトラックが横切っていく。水路には水草が揺れている。私は派出所へ向かい、被害届を出すところだ。この国では太陽が物を盗む。私の場合、被害としては最悪のケースで、家が盗ま ....
上智大学の門をすこし越えたところで、堤沿いの歩道は紫陽花が覆いかぶさってきて、誰もそちら側を歩きません。そこから先は、みんな上智大学側の歩道を歩いています。そもそも上智側のほうが広いので。でも、私は右 ....
自転車で坂道を駆け下りて
夕暮れ前の公園を抜けていく
誰もいない遊園、鉄のにおい
藤の花がぱらぱらと
わたしの背後で落ちていった
同じかたちの宇宙が隣町にもあって
昔はよく友達に会いに ....
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