現実と
取引なんてしないよ
誰も
何も
売り渡したりしない
魔物、吸血鬼、魔法使い
みんな
ここに居ていいよ
私の胸の中に
満月の夜、月はやさしく犬を見ていた
犬は不思議そうに眼をあけ、すっくと立ち
濡れた鼻をしながらあたりを一瞥した
犬は初秋の虫の音を
一心不乱に聞いていたのだが
ふと月明かりに、自らの何かが微 ....
覗く子が目高の空を暗くする
見上げた夕暮れの青空が
迫り来る夜の黒に飲み込まれてゆく光景
その時僕が感じたのは
何も恐怖だけでは無かった筈なのに
自分が抱いた感情さえ
忘れている
こんなにも忘却が悲し ....
産まれたばかりで
まだ間もない
黒猫を拾う夢を見た
朝を迎える港で
潮騒が聴こえる
僕はその秋まで
確かに遠い港の桟橋にいた
すでに真夏が
終わる記憶のなかで
南太平洋の海風が
....
そこにやさしさのふくまれることのは
さわる、よりもっとかるくふうわりと
かくさんしてゆくかそうくうかんから
ふとすくわれるたれかのこえきゅうに
うすさむいあさにはんらんするきせつ
ひたひたと ....
最強の日には
誰も私を
夢から起こせない
日常に起きるすべてが
嘘みたいに葬られて
私は夢から目覚めない
だれもかれもが魔法の産物で
そして私は気にしない
いいじゃ ....
苦しいだけよりは
少しばかりの笑顔で 取り繕うと
あなたは 眉を 動かす
連動するように
ワタクシの 唇が
歪な角度で Uの字を 描く
ここから出してと
叫んで いるのね ....
人は生きているうちにいったいどれほどのことが出来るのだろう
この星にはたくさんの人がいる
人によって生きられる時間は短い
短かったり 長かったり
この限られた時間の中 ....
叫び声に満ちた夜だ
すべての距離が叫んでいる
だがこの叫びは全て
私自身の黙された叫びだった
闇がつぶれている
渦を巻いている
夜の風景ばかりが
激しく身をよじるが
私はも ....
雨なら外を見たくない
優しい人なら会いたくない
時に多すぎる感情を
いい香りの紅茶で飲み干して
心の中に吹く風は
ふうっと長い息にして吐く
なんでもない
なんでもないよ
....
真実というの、
多面体について推測することを
誰かを信じたり信じない
曖昧さを拭い去って
女の果実は甘く
夜を抱けば朝が焦がれる
水槽で泳ぐ
海を知らない魚にとっての、
す ....
青く高い空の中を白く密度の濃い雲が滑っていました
雲は太陽と道路に熱された空気の上に悠々と浮かんでいるのでした
熱い空気を切り裂くように少女が走っていきました
スニーカーの着地したアスファル ....
語れ、あなたも
最後には死ぬ者として
あなたの語りたいことを語れ
語れ
しかし自らを否定するな
されど他者を矮小化するな
あなたの語りたいことにも
また意味を与えよ
それに陰り ....
まとわりつく夏の汗
行水で流せば
あとはキンキンに冷やした至福の一杯
ハーバーから出て行く
ヨットの数がたちまちに増えていく春
その背泳ぎのような船の航行に
季節の匂いがする
昼ごはんを食べ終えたマチコが
海を見たいといった
ぼくは灰皿を取り替える
ウ ....
フィットネスクラブの一室に設けられた部屋に
ペンギンの赤ちゃんが預けられていて
胸の高鳴りが抑えられなくなり
まなみはいつの間にか
赤ちゃんペンギンの紙オムツをといていた
前つんのめりに ....
僕らは梯子が欲しかった
やがて起こるだろう戦争に
発狂しないよう
小さな子供を昇らせる
剃刀に
血を走らせながら
三億年の未遂を窓から開け放つ
きまって麗子はバルコニーに ....
滑らかな立方体のような冬の
空気の底に
淀んだ温もりを保つ夜が
一つの過去として納められている
スピーカーの周囲をゆっくりと
対流する誰かの声
契約が済むと
少し古い建物の
少し古 ....
いくつもの川が
ひとつの海にそそぐ
ぼくたちは
いくつもの川のようなものだ
ひとつの海にそそぐのだ
そこは罪
そこは花
罪はつぐなわれる
花はかれてしま ....
かなしい雨
細糸の雫を見つめる双生の水晶体
いつか止むのだろうか
あの鈴の音が空へ駆け上がったなら
乾きは喉に集約され
無上の必然を照らし出す
許されること その贖罪を見据えなければ
無 ....
レガ子に初めて乗った日
何だか 高級車だなって 感じた
昔は 軽自動車が 当たり前だったから
ぶつかったなら 木端微塵になることも
実感するまでは 分からなかったんだし
乗用車までの ....
わたしにおまえを見るのはやめてくれ
制服のシャツに
くだけた調子の喋り方に
やさしくなるのは嘘でしかないね
知らないよ
おまえはわたしを知らないよ
道をたずねて2分だし
SNSと ....
そんなに遠くを
探すまでもなくて
最初にわかることだから
これは天空を見つめるばかりの
きっと自分のかたちをした
青空の欠片みたいだろう
何かを好きになると云うことは
朝早くおはよう ....
暗い残暑が滴ってくる
百日紅の花から
蝉時雨から
空を斑に彩る不穏な雲たちから
遠雷から
幾重にも重なる過去の記憶から……
暗い残暑が滴ってくる
そうして私の底に
暗い染み ....
ぼんやりと公園を歩く
私は暑さの中で
木陰で涼んでいる人を見る
そんな私が今日もいた
今日は来なかった
友達は 疲れているらしかった
というよりも
もう ずいぶん会っていない
私は ....
のばした爪に 皮をゆだねても
みかんは 指を求めていないのです
力ですか 許しですか
欲しいものを求めていますか
甘い実にも捨てる場所がある
どうしても受け入れられない
どこか ままな ....
「誰も彼も 渡ってくれば良いのです」
遺影写真に並ぶ祖父と祖母と父の目が
私をじっと睨み続ける
肉体の私を憎み後頭部の私の影に 三寸釘を打ち付けて
今日も十字路に磔にする
....
きょうは お父さんの
人差しゆびに つかまって
公園へ お散歩
お父さんの
目がいつもより やさしいので
靴を鳴らして うたを歌う
ときどき見上げる
お父さんの その瞳 ....
裁きを待つ場所で
命を絶つことを
約束して
罪を贖う人間がいる
その人間による
真実の死によってでさえ
本当に世界の均衡なんて
保たれることは
ないのだろう
断頭台までの足跡は
た ....
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