#10
花
呼び鈴が鳴った。古アパートの玄関を振り返る。こちらが開けるのを待たずに硝子戸がガラガラと乱暴にひかれた。
女が一人立っていた。
赤子を背負っているようでねんねこ ....
#7
夏の雨
少年の夏の葉には蛇の抜け殻の模様がついている
彼があの時流した涙は自己嫌悪の錆びた味がした
乳飲み子の口に含んだ乳は黄色くて甘い 母からもらう最初の贅沢
一 ....
彼の内部には常に殺戮の音楽と黙考が混在していて、彼に付随する糸という概念はその両者の結合のための不可解な生命の観念であり、同時にそれまでの彼の存命の象徴であり、僕は彼の糸そのものとして、他者に与える恐 ....
そのスーパーのレジでは
いつも同じ人のレーンに並んでしまう
威勢のよいレジの人の前に立つと 急かされているような
責められているような気になるのだが
そのひとは一度も 私を責めたこと ....
弟はいつの間にか
僕の背を追い越していた
身長をたずねると
三メートル五十七センチ
と言って悲しそうにうつむく
明日になれば
弟は遠いところに連れて行かれる
多分頭のてっぺんも見えないく ....
一度で良いから
真珠の館に住んでみたい
というのは
我が家の小さな家蜘蛛が
梅雨時になると決まって呟く言葉だ
『真珠の館』
漂白された空から降ってくる雨粒は
....
階段の一段目にある
農村を踏まないように
慎重に飛び越える
出前の人が誤って
畑の上に器を落とした
突如あらわれた
ミステリーサークルにより
村の人々は大騒ぎしている
ことばにならないこと
ことばにするから
やさしい
かたちをもたないもの
かたちにするから
たのしい
なんでもあるようで
なんにもないせかいと
なんにもないようで
なんでも ....
あなたがいた
ある午後のことを
ただ
あおいビー玉と
して
ふと
体をわるものと認めたら大人になり
わるさがすでにこころに及んでいることに
気付くころには、あ、 ....
犀川の
芝生の土手に腰を下ろし
静かな流れをみつめていた
午後の日のきらめく水面には
空気が入ってふくらんだ
ビニール袋が浮いていた
近くで
ぴちゃりと魚が
跳ね ....
ちぎられたもの
砕かれたもの
ひとつひとつに触れる指が
それらの色に染まりゆくさま
色のないもうひとつの指に触れ
血のにじむまま触れ
あたためるさま
染まりゆくさま
....
#6
屋根裏の姫
廃屋となった古い旅館を安価で買取り、なにやら得をしたような気分で引越しをした。築100年の余を越え、廊下の椋の板も黒ずみ真ん中がへこむ。梁や柱の材も曲 ....
#5
一対の腕
それは決まって一対の腕で、上腕の真ん中あたりから唐突に存在していた
人のものより少し大きめの掌とごつごつした指と固い筋肉を持ち、
丁度そこに人が一人いるよう ....
#2
雨の魚
雨に濡れながら歩いていると
死んだ魚の匂いが漂ってくることがある
湿った空気が ねっとりとまつわりつき
地球が水の星だったことを思い出す
そんな時、あたし ....
青空が映った瞳は
力強い光の匂いがする
その目が捕らえるものは
枯れた幹でさえも
息吹きが聞こえてきそうで
夕焼けが映った瞳は
哀愁が漂い
声をかけることすらも
ためらいがちにさせ ....
思い立って十一時半に神楽坂につくと、さなえさんが表に出ていた。自転車をおりて、お久しぶりです、と挨拶すると、お茶?まんぢう?まんぢうはまだだよ、とさなえさんが言った。十二時開店らしい。中で待つ。忙しく ....
一番線のホームを
羊の群れが通過していく
海の近くに
美味しい牧草地があるのだ
その後を
羊飼いの少年が
列車でゆっくりと追う
夕暮れ近くになると
列車に羊を乗せて
牧舎へと帰る ....
大きなカエル
に
なるまえに
大きなおたまじゃくし
が
処分されました
ひとりの犬
も
処分されました
けっこう平気みたい
みんなけっこう
クールだね
ぼくはひとから無力だといわれたので
無力をぶきにしてみました
みんなが笑いました
無力をぶきにすると
ひとを笑わせられることをしりました
神さまありがとう
ぼくにともだちをくれて
あ、 ....
ほとんどの人は、もう
溺れているの
誰も気づいていないだけ
澄んだ指さきが
アルカディア、と答えて
空の一角をさす
新しい風景、新しい秩序
それは
見たことのない宇宙
(行け ....
Go straight on the street.
道には何もない
蜃気楼
ジーンズ
水がない
食物がない
地平線まで
同じ風景だ
ただひたすら
歩くのみ
ここは天国
....
海のにおいが、僕の頬を伝っています。
秋の御日様は雨上がりのコンクリートを照らしています。
途中、後輩(地頭江くん)がコチンコチンのオキアミを潰してくれました。
僕は今、十年ぶりに竿を垂れている ....
ごみばこを あさって
まだ つかえるもので
でっちあげる もっと
ぶざまに あさましく
いきるための うたを
採石場の跡地を
ヒトコブラクダが
ゆっくり歩く
かわいそうな気がして
コブをもうひとつ
描き足してあげた
耳の奥を覗くと
夜が明けるところだったので
慌てて帳面を閉じた
隣屋の塀にはびこる つたの青
さみだれに色 尚つやめきし
散歩にと さいそくにくる愛犬の
うったえる瞳に 重き腰あぐ
下町に生まれてから
高いビルに憧れていた
今になって見上げる景色は
華やいでいるのに
どこか淋しい
地方に引っ越して
久しぶりに来た東京
夜の地下鉄の
長い階段をおりてゆく ....
システム関連スレ3
[101]片野晃司[2007 06/06 07:15]
>ユーザー番号、ハンドル名
>文書番号、投稿者のユーザー番号、投稿日、タイトル
>ポイントを与え ....
みち子さん 私は忘れない
あなたの白無垢が 石炭色に染まった日を
あの日 あなたは
彼といっしょに 旭岳のてっぺんに たどりつき
おにぎりを広げたときよりも
もっと高い山の頂にいた
....
ぎんいろの折り紙で
鶴を折る
ぎんいろ
それは
わたし自身を惑わす窓辺の色合い
ぎんいろの街で
あなたとの足跡を探してしまう
例え人違いだったとしても
あなたに良く似た後姿に
....
架空の鋲 雨に打たれる
錆びついた工場の手すりや階段
タンクローリに描かれた落書き
めくれ上がったその名残
あるいはまた
背中を丸め 雨に濡れるままに
オンボロの自転車に乗って
工場 ....
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