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高度文明
交差点の真ん中で一人の男が倒れた
風邪などによる体調不良ではなく
とりわけ身体に障害をもっていたわけでもなかった
彼は早い段階から
交差点に一台の車が走ってくるのに気がついていた
....
豊かさの中で
ぼくたちは泣いている
ほしいと思ったものが
いつでも手に入るから
いつでも捨ててしまう
持つべきものがなくとも
誰かが持ってきてくれる
便利さだけでは
豊かに ....
太陽が沈んでゆく
そこが西の空だ
そして今日は下弦の月
だからすぐには
月を見ることができない
真夜中までじっと待て
そうしたら
太陽が沈んだ反対側を見ろ
今日の理科で習ったばかり ....
標識は目的地を見失った
曲がり角や道路が増え
地名が変わり
自分の指している方向が
正確な方向なのか
その道が近道なのか
遠回りなのかさえ
わからなくなってしまった
標識の近くには
....
夏から手紙が来た
こっちはもう夏だぞ
ここだって夏なんだよ
手紙に向かって言い返す
今年も広い夏になっているぞ
そういえば都会の夏は狭苦しい
こっちにくる時は
....
その日の夏が始まる
トンボが空をすいすいと
気持ちよさ気に飛んでいる
空は泳げることを
初めて知った
昨日も見たというのに
その日の夏が折り返す
繁る木々の葉がさわさわと
軽いリズ ....
人は
一人では孤独にはなれない
もし人間が
最初から自分だけだとしたら
孤独という感情が生まれることは
ないのだろう
孤独になれるのは
多くの他人の鼓動と呼吸とを
ぶつけあい
....
空が滲んでいる
夏の午後の昼下がり
遠くからだんだんと自分の方へ
その暗闇が近づいてくる
あっという間に
滲んだのは空だけではなくなった
明確だった単語や熟語の中を
その雲は浸透してくる ....
風が立ち止まった
蚊取り線香の煙が
まっすぐに天井へと昇ってゆく
一匹のハエが
ぼくの前を通り過ぎる
振り払おうとしても
もう飛べない
風は今も立ち止まっている
夏の夜が固まってゆく
....
立っているだけで
汗が落ちてくる夏の
その夜
星が飛んでいた
短い夜の間だけ
羽ばたいていた
月へ向かおうとする星
大地へ降りようとする星
それぞれの運命に従って
音もなく
飛んで ....
夜の夏がほのかに飛んで
闇の中に夢を描く
この世界に音は必要としない
ただわずかばかりの光だけが
飛びさえするだけで
夜の夏は十分なのだから
夜の夏が静かに飛んで
闇の中に夢を灯す
....
夜明けとともに
目的もなくふらふらと
外を歩いてみる
そこの夏は冷たかった
葉の上の雫に触れ
その一瞬にしかない冷たさは
手のひらの中で
やがて消えてゆく
川のせせらぎの音も
....
暴風で倒れたトウモロコシ畑の
その隣で新しい工場が建て始められ
太い鉄骨がまっすぐに立てられた
まだ収穫されていないままの
その実を背中にした
作業員の目は悲しそうだった
鉄骨は太陽の光を ....
大人になんてなりたくないと
思った時から
ずっと星を探していた
将来への自信と
可能性への期待に満ち溢れて
星は必ず見つかるものと
全ての人に全ての星があると
それが当然だと思っていた
....
夏が黄色くなってゆく
太陽の色に近づいている
夏をぎっしりとつめて
鮮やかな黄色になってゆく
黄色くなってゆく夏は
水に中に落ち
ぷかぷかと気持ちよさそうに
泳いでいる
近くで ....
森の中で
がばっと大きな口が開いていた
大きな口は
緑色の歯をいつも見せていた
晴れた青い空の中で
流れてきた白い雲を
一気に飲み込んだ
歯が揺れている
近くまで寄ってゆくと
自分が ....
これから向かう家庭教師先の
国語のテキストを
電車の中で読んでいた
その内容はあまりにも悲しかった
戦争で両親を失い
家もなく食べるものも満足いかない
それでも生きようとする
子 ....
家族で豪華な料理を
食べに行った
お父さんとお母さんは
とても満足そうだったけど
ぼくは
おしゃべりしながら
家族みんなで分担して作った
カレーライスの方が
美味しいと思った
家 ....
あの夏はもう過ぎてしまった
まだ子どもの頃
特に待ち合わせをしなくても
いつもの公園に集まって
そこから林に探検へ
入ってはいけないような場所に
金網をよじ登る
そうすることが夏だった
....
ぼくたちの先生はいつも
ぼくたちにはできないことばかり
言っていて
ぼくたちができないと
何をしてんだと
いつも怒ってた
隣のクラスは
優しくて人気のある先生
楽しそうに過ごしてる ....
梅雨の合い間に晴れた空
光が大地に降り注ぎ
静かな時の始まりか
風も涼しく穏やかに
白雲浮かぶ青い空
豊かな緑浮き立たせ
夢見る時の始まりか
心鎮まる和やかに
畑の作物採りに行 ....
よく見てごらん
雨がまっすぐに降ってくるだろ
時折り銀色に光るのが
あれが雨の涙さ
空の悲しみが見えるだろ
よく聞いてごらん
雨が小さく跳ねるだろ
時折り痛そうな音がするのが
あれ ....
夏の氷は透き通っていた
四角いその宝石を
水の中へと入れると
しゅわぁという音が聞こえた
それをじっと見つめる
自分の中に固まっていた何かと
同じようだった
さようなら
この氷の最 ....
夏の朝
とうもろこし畑の中に溶けてみた
一直線に並んだ黄緑の
甘い匂いが夏だった
気づけば夏の中に溶けていた
黄色の穂先から見上げる青空は
水を見ているようだった
土から湧き出る水蒸気が ....
あの時
「ごめんなさい」と言えなくて
けれどもその後
勇気を出して言いにいったけど
君はもう帰ってしまった
あの時
「ありがとう」と言えなくて
けれどもその後
がんばって言おうとし ....
みんなが川で遊んでいた
川の回りに落ちている
材木とか箱とかを拾ってきては
川に流して競争していた
次の日も
みんなは昨日と同じように
草むらの中で下を向いて歩いては
水に浮かぶもの ....
輪ゴムのように生きろ
小さい頃から父に
ずっと言われ続けてきた
その父も祖父から
ずっと言われ続けてきたらしい
輪ゴムのような生き方って
どんな生き方なんだろう
伸びたり縮んだり
....
隣の席で
難解な数学の問題を
すらすらと解く彼が嫌いだった
無能な自分を見ていた
何でこんな複雑なものを
考え込むことなしに
さばいて見せるのだろう
その姿勢がどこか傲慢で
さらに彼を ....
夜になっても暑さが残る
冷房のない自分の部屋で
ロウソクが一本転がっている
なぜそこにあるのか
何一つとして思い出せない
よくわからないまま
火をつけてみる
小皿に固定して電気を消した
....
狭い部屋なので
多くのものを置けない
だから
多くのものが載っている本を
たくさん買おう
そう思って
まずは大きな本棚を買ってきた
本屋に行って
買えるだけの本を買ってきた
本棚 ....
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