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乳の出なくなった母豚が
子豚を育ててくれるという、
やさしいニンゲンに預けた
彼らは 何もできない痩せた子豚を
段ボールの中で育てた
しかし 相変わらず豚は、豚
ただ ....
先祖代々の墓石の隙間を潜って 緑の節目が
石塔の地下から 企みを生やす
萎れたシキビや花筒の中で息絶えた小菊を
嘲笑うかのように石塔の狭間を一本の青竹が
墓場の敷地すら貫き
天 ....
{引用=コトバだけで世界をつないでいく、そんな嘘くさい指切りをして
あなたの色つきの夢の先に、私はいない。
コトバだけで生きる人は 骨の分量の重さを 世界と言い、
あなたは、夕陽を溺れ ....
夜間にバタンバタンと 階下で扉を
開けたり閉めたりを繰り返す父の扉
私が玄関の扉を開けっぱなしにして遠方に去ってから
ずっと開いていた 扉
帰省する毎に 小さく細く白く可愛く寂れて ....
母を乗せたのぼりの電車
母を乗せたのぼりのタクシー
ペースメーカーの電池は音もなく 擦り切れて
障碍者手帳と交付されたタクシーの補助券は
どんどんなくなり
彼女はもう どこにも行 ....
言葉が厚いナイロンシートの
壁にぶつかって流線形に歪む
喋るのは得意ですが独りです
世界は四角く私たちは丸いと
思っていたのに傾いた地軸に
逆らえない街の人と通じない
回転しなが ....
子供をたくさん産んだ 女友達
男を連れた 同級生
女が皆で ぼくの、ママになりたがる
オマエハ、デキノ、ワルイ、コ、ダカラ
(だったら、見なきゃいいのに
オマエハ ....
何も持たなかったはずなのに 多分荷物は重くて
何を詰め込んだかわからないのに 大切で
手放せないまま 逃げるように出てきた都会
何をしたかったのか 私の頭の標識は
真っ白に作り上げ ....
家の敷居や襖の線や開閉ドアを隔てて 深い河が流れている
隣の部屋なのに、もう渡る舟の手掛かりはなくしたままだ
河の底から 十二年前に口を交わした孫の燥ぎ声が
時々聞こえてくるのが楽しみで ....
メガネをかけた店員が私を緑のサツマイモだと言った
もう一人の店員は私のことを赤いキュウリだと言った
どの棚にも私の居場所はなく、
北海道の男爵やクイーンが
同じ棚には並びたくない、と言 ....
パーティーには 有名な中華料理店が選ばれた
難しくて名前が覚えられないメニューたち
箸で触るだけで肉汁が溢れ出すシューマイ
自宅に独り私を待つ母に
到底食べさせてやれない、そのシューマイ
....
突然の地震で硝子戸から こけしや人形のたちが落ちて
首と胴体が切り離されて 頭がどこまでも転がっていった
電子レンジがガガガガと 上手く喋れなくなり
冷蔵庫は大鼾をかいて 安眠した
....
「誰も彼も 渡ってくれば良いのです」
遺影写真に並ぶ祖父と祖母と父の目が
私をじっと睨み続ける
肉体の私を憎み後頭部の私の影に 三寸釘を打ち付けて
今日も十字路に磔にする
....
ユニットバスの水平さの隅で
私は猫の目になる前の棒っ切れ
コンドームたちの密会を
五秒の使用と三分で決定させる
男と女の待ち合わせ
不在の子の存在を 赤い視線で映してみせて ....
大都会へ行けば行くほど大きな看板がある
当たり前だよね
こんなゴミゴミした場所で 目的地のホテルに行くには
デカイ看板でもないと無理
大きなホテル程 大きな看板が名乗りをあげて
....
西日のツンと熱さが刺さる土の上に
父の遺骨は 埋められた
真新しい俗名の墓石は それぞれの線香の煙に巻かれながら
親族が帰るまで夕暮れの空を 独りで支えなければ 誰一人として
家に帰る ....
想いを切り刻んで 記憶は泣く
スマートホンもデジタルカメラも 人の目に映らなかった頃
思い出を自販機で買い取った彼女の空は
空白のまま歳月を渡る
数年前傍にいたはずの笑顔は カラカラに ....
手垢にまみれたコトバたちを 洗濯機に放り投げて洗い流す
駅前で叫んでいた主義主張たちを アイスノンにして頭で溶かす
空っぽの冷蔵庫から 私が居そうな卵を見受けて目玉焼きにする
フライパンか ....
ダンボールがズタズタに切り裂かれて
ベッドの下に押し込んであった
当然だよね
片付けておいてね、って言ったの、
私だもん
田舎から都会での 新しい暮らしに馴染むために ....