あの日脱ぎ捨てた古い自分が
心の隅でそのままになっている
糸の切れた人形のように
死よりも冷たい生者の顔で
ポンペイのように時の塵に埋れ
欲望の形に空洞化した遺骸あるいは
まだ温も ....
全体の形が カッチリしているので
スイカも お行儀の 良い形で
君臨して いるのでしょう
今 流行の
四角スイカを
堅苦しい瞳で 眺める
真夏のサンタクロース
雪のよう ....
読んだ人間が
不幸になるだなんてことを
書かれた手紙ほど
不幸なものがあるか
あの娘に
告白した手紙は
あの娘と
あの娘の周辺に群がる
ドブス集団によって
無惨にも
お笑いの対 ....
口裂け女の胸を揉んで逃げた
いろいろとさみしくてキリンでいる
誰も知らない部屋で
息を殺している
見ていた
遠い 街を
隣町まで行く
車に轢かれそうで少し怖かった気がする
ラーメン屋の前を 通り過ぎながら
自転車で こいでいく
....
信じるということは黙っていること
だからかな
月はいつも無口だ
ひたひたと夜に歩いていると
しらずしらずに素直になる
だれもがなにも言わないで
暗い夜に白くなり
明日がこっそり訪 ....
王女の名を持って生まれ
運命のいたずら
雑草の間に
根を下ろすことを余儀なくされても
小公女のように気高く
品位を忘れぬ立ち居振る舞い
汚れない肌
たとえ
嵐になぎ倒され
獣に踏みに ....
石ころのように
蹴飛ばされた
君の命が
川の流れに
ぼしゃりと飛び込み
揺らめく水の底を
ゆっくりと転がって
手の届かない
透明な棺桶の奥から
空を見上げ ....
いつもすでに記憶だった夏の日に
俺は裸体を晒した少年少女達と
沖合を鳥が群がる海を見たかったが
だれひとり気付かぬうちに
海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた
熱気だけが渦巻く無音の嵐に ....
わずかに赤を含んだ
初秋のねこじゃらしが
風にそよぐ
そよがれて
よみがえってくる
植物ではなくて
あいつらのしっぽだった記憶が
猫が
ねこじゃらしの横を
素通りできないわけは
....
履歴書にはポジティブシンキングと書いた
午後六時十五分頃の
日に焼けた街のことをきみは歌いたかった
八月……
その燻すんだ終わりにむけて
けれどもきみの細い首で
ネックレスが曲がっている
飴色 ....
雨にとけてしまいそうなウチ
それでも傘に入れてくれるん?
いっしょに流されてくれるん?
闇に揺らめく蝋燭の火をじっとみつめて
僕は問う
――どうすれば夢は叶う?
ふいに背後を行き過ぎる謎の影は
声無き声で囁いた
――その階段を一つずつ上るのみさ
....
1 青淵
朝霧を裂いて中空の鉄橋を渡る
電車に積み込まれた多くの人は
もう知らないだろうけれど
遙かに下を流れているこの川に
大勢の人が落ちた
所々にある澱んだ淵に
もぐった ....
遠い日
私をすこやかに育てなおしてくれた人よ
今
あなたの真似事をしています
背負ってしまった陰を呑み込んで
人知れず水鳥の如く足掻きながら
あなたは
微笑むことを忘れません ....
純金のモビルスーツや鱗雲
中指の折れた手でグー
言葉って、抱きしめられない
口づけたり、切りつけたりできない
だけど、君に会いたい
針先ほどの穴に
空が吸い込まれていく
風も太陽も巻き込んで
言葉って、食べられない
....
会社の帰りがけに車を左折させる
道から少し離れてある実家の林檎畑が見えてくる
減反した田んぼに育てた林檎の木
今はこの世にいないはずだが 父の幻がいる
畑が物陰になり見えなくなると
右側の田 ....
あなたが泣くのなら
そのとなりで
わたしも
黙って泣こう
そう思わずに
い ....
いろんな恋の末に
じゃがいもが
えらんだ相手は
いつも隣りにいた
にんじんで
....
去年のあなたの誕生日に贈ったのは
らくだ色の毛布でした
なににしようかさんざん迷ったすえに
一日の大半を布団のなかで過ごすあなたに
....
上諏訪のひんやりとした
澄んだ朝の空気に
俺って少し
思い上がっていたんじゃないかと
自分を見つめ直した
代官山のカリスマ美容師(無免許)
これが下諏訪だったら
こうはならなかったと思う ....
荒れ果てた夜を
隠された夜を
打ちのめされた夜を
くずおれた夜を
バラードがレクイエムのように
人気のない街角に流れて
霧に濡れた路上で
二度と開くことのな ....
まったくかまわないよ
世界が
思ったのと違ってても
新聞をめくると
新聞のにおいがする
あなたをめくると
あなたのあじがわかる
あなたがもし
いなかったら
かまうけど
肖像画の視線にパリの焦燥と倦怠を感じる。
日々の疲れが重くのしかかるように絵画の中の瞼がその眼光を弱めてゆく。
彼女の視線の先に映っているであろう私の顔はいつしか歪み、
誰に語る訳でもなしに ....
にぎりしめていたこぶし
ノックすることも許さず
かたくなに
閉じられていた小部屋から
誰にもうちあけたことのないまま
幾重にも折りたたまれていた
願いが
決意のように
ひらく
....
ふと箸を落としてしまい
屈みこむと、床に米粒が続いていて
点々と拾いながら進んでいく
客間へ、座敷へ、縁側へ
いつしか古い蔵の脇を通り
門から出て、人通りの少ない裏道のほうへ
白く輝く米粒 ....
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