月下美人のつぼみは
僕から君へと宛てた
詩集の挿絵に
描かれていて
本当は籍を入れる時は
月蝕の夜になっていた
かもしれない
まるで仮眠でも
取るように
くれないに染まる月蝕は
....
駐車場に車を止めて目をやると
2階の窓が明るい
携帯で電話
これからすることがあるので
今日はちょっと
すぐに窓は黒くフェイドアウト
駐車場に取 ....
誰かが外から力をねじ込んだ
固く ギリ ギリ と
{ルビ蜷局=とぐろ}を巻いて震える はらわた
突き上げるような衝動!
目を見開き
歯をむき出して
喧しくシンバルを鳴らし
── 鳴らし ....
もうそろそろだと
祖母は言う
おかいこさんのからだが透けはじめると
そのうち糸をはきだして
楕円のおうちで
別者に生まれ変わるのだと
その不思議な虫は
一日中
桑の葉を食べている ....
Lサイズの西日が
Sサイズの町を照らす頃
Mサイズの犬が
SSサイズの猫と
キッズサイズの路地へ入り
LLサイズの夕食を済ませ
フリーサイズの庭で眠るのです。
....
私たちが
自分を創り終えるのは
いつなのだろう
たとえば、
どこかの建物の一室で
最後の息を一つ吸い
そして、吐き
その胸の鼓動が
ついに沈黙する時
あな ....
前略 わたしはぼちぼちです
あなたはいかがですか 草々
追伸 ぼちぼちだといいな
寝ても覚めても
迸る感情
君の事を想いつつ
朝日が昇る
まだ形状の定まらない
流体の太陽
金床に流し込み
躊躇の槌で打ちつける
超高温の金属は
赫灼と輝き
理性 ....
大人になっても子どもの姿
{ルビ蓑蛾=みのが}の雌は{ルビ蓑=みの}の中
雄が訪ねて来るのをじっと待つ
翅も持たずに交尾をし
卵を産んで死んで往く
大人になっても幼いこころ
美しく濃い ....
秋風のなかに
ほんのわずかに残された
夏の粒子が
午過ぎには
この洗濯物を乾かすだろう
通夜、葬儀の放送が
朝のスピーカーから流れて
犬が遠吠えを繰り返す
香典の額を算段して
....
ピンぼけばかりの写真集につつまれる
なにも通らない道を舗装している
ちっちゃな 魂さんへ
ある日 もう一度 お母さんが見たいと思った
それはわたしだった?
わらって ついてくるのは
可愛い 犬です
もう一度 もう一度
わらって
ついてくる
....
秋の向こうに{ルビ欹=そばだ}てながら静かに燃える木の葉ほど
老いの門口 艶やかに {ルビ靡=なび}くことができようか
ひとによりけり だが
誰も自分が想うほど 美しくも醜くもなく
ま ....
薄明かりの中
今日の一日がはじまる
何のことはない
いつも通りだ
いつも通り目が覚め
いつも通りトイレに行き
いつも通り猫と挨拶をして
いつも通り顔を洗い
いつも通り歯を磨き
いつも ....
【あたらしい一日】
ところで
どこともなく金木犀の香りがして
新しい季節の梢で すずむしが
昨日より すこしスローな音色の 今日を謳う
ところてんしきに
としごろてきに ....
乳房をなぞった手のひらが
首にしばらくとどまっていることには気付いている
思想も愛も何も無い
自尊心に勝つ為の殺人予告?
迷惑なんですけれど。
キモいから触らないで。 ....
荒んだ気分に吹かれているのも
快速電車の乗り心地です
時に青白い猫が追い越して行くのも新鮮
手放しで夜道を直進するも悪くない
見通しは甘くありません
集会に行くのだとばかり思っていたら
対 ....
新米を握る母の手は
燃え始めたかえでのように色づき
かぐわしい湯気を蹴散らしながら
踊ってみせる
熱いうちに握らないと
美味しくないのよと
まつわりつく子に言いながら
端をほんのわず ....
オバケ同士で驚きあっている
苦行に明け暮れサラリーマンは電車の棚で蛹になった
無関心という制服に包まれたシュークリーム並の少年たちが
耳におしゃぶりを挿したまま喃語と一緒に痰を吐きまくるから
ユニクロを着た老人たちの血圧は ....
強烈な風雨を受けて
折れてしまった月下美人の葉を
何気なく水に差しておいたら
根が出た
その後も根は伸び続け
葉のくぼみに蕾をふたつつけた
さすがに花を咲かせることはなく
....
大切な約束をしたことを
いいかげんなわたしは
いつのまにか
忘れてしまった
むきだしのアセチレンランプの猥雑さざめく夜市
腹を見せて死んだ金魚は
臭う間も与えられずに すばやく棄てられる
....
たとえ
風化した夢の流砂に足を捕られ
概念の骸に
躓いても
滴る汗や粘る唾液
ではなく
目尻に薄く滲む涙に
遠く虹を映し
地の底に匿された
泉を探し
彷徨う一頭の駱駝が
貴方であ ....
もう一度
巡り会えると思っていた
例えば
白い窓枠の廃校舎
花壇
の隅に埋めた
解剖のフナ
誰かが拾ってきた小鳥
教室で飼っていた金魚
アコーディオンを弾いていた先生
転校していっ ....
一日の終わりに感謝が募る
愚痴の可愛さは勝手に元の圏外に戻る
感謝は勝る 何よりも勝る
意図にせよ能動の自然にせよ
一日の終わりに感謝は募る
感謝はべきではなく完璧の地球色の空
....
手を振り返さなければ乗れた終電
わたしはピアノなのだろうか
誰かが
わたしの蓋が開けたら 喜ぶだろう日に
開け放たれたの
なのに あなたったら こころが ふらっとにのっちゃって
わたしをメゾピアノにもさせないで
わた ....
そっと今も
地球に隠されている
新しい一日には
夜明けの太陽から
陽射しが煌めいて
鳥たちが
鳴き始める約束の朝
窓を開ける
君の微笑みに
旧来の知人から
感謝の手紙が届い ....
七色に輝く水しぶきを浴びて
キャッキャと走り回るあなたを
私だけのファインダーに
永遠に閉じ込めておきたくて
夢中でシャッターを押したのに
あなたのぶれた指先や
揺れるスカートのレースしか ....
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