わたしの影は
わたしの涙で
水色になりました
わたしがそっと足をつけると
ぴちゃっという音をたてます
わたしはくつをぬいで
服をぬいで
影のなかへ
沈んでいきます
....
夜が季節の名前ならば
今夜は惜春
雷雨が迫る黒雲
まだらに明るい空を映して
海が水銀のように揺れる
指先の温度が融点の
あなたという液体
わたしという液体
いつまでも
満たさ ....
風吹きすさぶ
いちめんたんぼ
古代からつづく広い空
一匹の虫は泳いでいる
とつぜんに
ふしぜんに
屹立し現れる
高層ビルの群れ
一匹の生物すら寄せつけぬ
冷たい石でかためられ ....
夕焼け空の中だった
買い物から帰る途中の道で
少年は子猫に向かって
石を投げていた
少年はすでに泣いていた
ぼくの家では猫は飼えないんだ
小さな声だった
ぼくが悪いんだ
お腹を ....
1
ひかりは、不思議な佇まいをしている。
向かい合うと、わたしを拒絶して、
鮮血のにおいを焚いて、
茨のような白い闇にいざなう。
反対に、背を向ければ、向けるほど、
やわ ....
ぞうさんみたいにやさしい目でいたい
くまさんみたいにふかふかでいたい
かめさんみたいにゆっくりでもいい
きりんさんみたいにながくいたい
そらいそげって
ムチ打たれたら
....
部活に疲れた放課後。
少し重く感じる鞄を左肩にかける。
ペットボトルのお茶で、からからに渇いた喉を潤すと、
いつもと違う道を歩いてみた。
最初に感じたのは、放課後になると、夏の匂いがするよ ....
僕らの靴で踏み荒らされて
黒くなった雪のような ――の送別
歩き辛いほど 積もったものも もうなくて
――だって やっぱりいないんだ
この感情にピリオドを告げる
机の上の花瓶
―― ....
みあげると
君はまた
頂上にいて
ぴかぴか光りながら
もう
そこからおりることしか
考えていない
君は
太陽の冠を
いともあっさりと
ぬぎすてる
なにがいいの?
風 ....
冷えた石段に腰かけ
振り返ると
木々の茂みの向こうに
{ルビ巨=おお}きなH型の下を{ルビ潜=くぐ}り
無数の小さい車が行き交う
横浜ベイブリッジ
( H型の四隅
....
君に会ったら言おうと思ってた
言葉がたくさんあったのに
なんでかなぁ
こうやって目の前にすると
一言も出てこないや
汚い戯れ言や
愛の賛美歌や
気の利いた言い訳や
原稿用紙30枚分ぐら ....
橙の陽に染まる
館の奥の
床に横たえられたわたしの
からだを眺めていて
窓を開けていて
風に踊ろうとするわたしの
ドレスが乱れないように
見張っていて
そこから
流れ出る血が乾き
....
1.I
それは私。
汚くて綺麗で
不恰好で可愛くて…
矛盾した心を抱えているけれど
ある意味では愚かしく
個性的で平凡な人間。
2.哀
それは哀しみ。
心が痛んで
辛くてあえい ....
空の曇った暗い日に
ざわめく森の木々に潜む
五月の怪しい緑の精は
幹から{ルビ朧=おぼろ}な顔を現し
無数の葉を天にひらく
わたしを囲む森に{ルビ佇=たたず}み
ベンチに ....
ロテイトザロリィタガァル
特に意味は無いメスドアップマイブレイン
むしゃくしゃしてやったら
無茶苦茶に殴られて滅茶苦茶痛かった
だからキスしてくれ激しく
優しさのあるキスなんて要らない
....
電車を降りると
点字ブロックが
花野に埋もれていた
あなたはここにある花の名を
一つとしてしらない
見えることもない
それでもその眼は
厳かなほどに瞬きをするから
見えているも ....
咲き咲き揺れる
曇天ごっこ
暁に増す墓の数
もう何も変わらない
死するために生まれた
虹の掛け橋への行進
雲は綿菓子ではなかった
谷底に眠る人魚の過労死骸
満員電車が3 ....
ぱらぱらと降っていた雨の間に
少しだけ見えた
澄んだあおいろ
絵の具屋さんには売っていませんでした
とぼとぼと帰る道
水たまりの中に
もう一度そのあおいろを
見つけました
とおい、とおーい世界に行きたい
そこでは 黒と白が等しく混在し
せめぎあい 増殖し そして消えゆく場所
混じった黒は白ではなく
溶けた白は黒ではない
マーブルとなり螺旋となり
私を見下ろす ....
昨日もまた
日めくりの暦が一枚消え
昨日を生きた
言葉たちが静かに眠る
昨日一番生きた言葉は
虹だった
雨が止む間際の
ほんのわずかな時間だけ
光の芸術は空へ浮かび
心に架かる
....
漆を塗り
さらに金箔を張った
豪華なわたしの部屋には
窓がありません
窓際無いのトットちゃん
トホホ
髪が伸びる
ゴムのように伸びる
オホホ
扉を窓にかえようよ! ....
もうどうせ間に合わないと知って
少年はランドセルを鳴らすのを止めた
土手に咲く花々の名を
どれひとつとして知らない
草笛はこんな風に鳴らせるけれども
ハチャメチャな人生
何がなんだか分からない
殴られ蹴とばされ
暴言を吐かれる
魂を悪魔に売ったあいつ
心のあり方が悪い
点取り虫で媚を売るあいつ
愛がない
人の幸せを考えない
....
言葉の中に
小さな石を見つけた
それはとても赤く
とても美しい色で
鳥を打ち落とした
猫も毛の衣替え
冬の厚毛は
飛ばされ
風にのり
夏の暑さを呼びに行く
疾走す十六の夏が跳ね上げる飛沫に眩み光に濡れて
夢よりも大事なものもきっと夢何追エバイイ遣る瀬ないまま
迷うのは間違っているからじゃない 信じたいのはたったそれだけ
傷つけるばかりの ....
飴玉を噛み砕くように
その{ルビ皹=ひび}のはいりかたのように
割れてしまうのは
誰で
何故なの
五月だ
熱くも冷たくもない
こんなふうにあるだけの季節に
遠いからうつくしい
空はそ ....
吾が母の夏草の如とうつくしく
吾が父と歩みしあれば
虚空には雨があがりて永き日の永久の患い
仰ぐれば雨があがりて
懸かるるは虹色の花振り返り田野をみれば倭が国のうつくしきこと ....
ずっとむかし
ひとも蛇のように脱皮したのよ
そう言いながら
そのひとは裸になりました
きょうは
わたしの水が澄んでいるから
涙の色がよく見えるとか
そんなことを
とつぜん言 ....
月に咲く花は
彩をもたないの
透明は何にも
染まりはしないから
儚げで
それでいて凛として
月の花は
誰にも見られずに
ひっそり咲き誇り
ひっそり散っていくの ....
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