降りしきる雨が
風を呼んだ土曜日
葉桜は揺れ
泥の上に、さくら模様
母は出かける支度
黄色い傘の用意をする
「どこ、行くんや?」と、尋ねたら
「さぁちゃんの小学校や」
咲子は中 ....
架空の手紙を書きました
咲いて間もなく突風に打たれ
瑞々しく散った桜のように
泣くでもなく微笑むでもなく
同じ景色の縛りの中で
そこはかとない諦念の香りに包まれて往く
ひとつのイメージへ
....
座ったときの
長さが
一体なにを証明するのか
わからないまま
――座って見る景色はほんの少し懐かしいけれど
――座ってみる景色は背伸びする必要がないから
私は
計られ続けてきたけれど
....
私がどれほどのものでもないと認めることから、始めなければならない。それはとても恐ろしく重く苦しい作業ではあるのだが。
お気に入りのおもちゃだから容易に捨てられないだけで、おもちゃの方では案外、私 ....
桃の花が咲き 蜂が盛んに飛び交っている
林檎畑の中に二本ある 出荷しない桃の木
嫁いだのに 実を選るのは担当だと言われ
なんで私がと思いながらもなんとなく親しみ
桃ちゃん と呼んで会うのが楽 ....
今日は
晴れてくれて
窓は全開
ほのかな潮と
草のにおい
洗濯物から漂う柔軟剤の香料も清々しく
戸締まりする気になれなくて
遠くの小型飛行機のエンジン音を聞きながら
まったりと
やじ ....
ふにふにヘッドに ぷにぷにボディー
世界平和は無理だけど
守ってみせるぜ 家内安全 どすこいどすこい
眠られずまるでわたくし自身とはぐれてしまつたやうな真夜中
自分の産んだ子どもが
ある日突然、宇宙人みたいになっちゃって、
不登校とか摂食障害とか思春期病とか
病名をつけちゃったりして、
片っぱしから本なんか読んでみちゃったり、
病 ....
もうすぐ
月とスピカがすれ違う
昔から
すれ違う月とスピカに願をかける癖
月の女神アルテミスと
子のスピカの女神アストラエア
親子の女神が楽しく出会うタイミングで
上機嫌 ....
「本日は晴天なり、本日は晴天なり
只今、マイクのテスト中
本日は晴天なあり」
朝礼が始まる
五月の風は希望に満ちて
教師たちは
民主主義の権化であった
JFKが暗殺された
生き ....
用の美から外れた私は
フルーツサンドイッチを頬張る
血肉にはあまりならないが
構わない
用の美から外れた私は
生き抜くと定めたことからも
やっと少し外れた
新緑の下
鼻唄を歌う ....
痛みのない世界の
封を切れば風は青白くふいて
ビルの合間を見つけては
切先をくねらせる
光がこぼれるまで
誰も空を見つめないから
ちいさな浄罪として
足元に種をまいても
温度はなく
....
1
動物園の規則正しい給餌や
健康で安全なゲージに
拘束されることを嫌って
自然界へ飛び出す鳥がいる
自然界で生命維持するには
喰われることのすくないけものでも
ストレス ....
ムダイと読む
ムにアクセントをいれ、ダイは平たく流す
もちろん鯛の仲間ではないから泳ぎだすことはないが
イメージとしては泳ぎだしてしまうかもしれない
そのときは腹筋に力を入れ深呼吸して連れ戻す ....
生産工場などで適用されてきた
トヨタ生産方式を
日々の生活に適用したらどうなるのか
ジャストインタイムで
買いだめなどはなるべくせず
必要なものを現在の必要に応じて調達する
無在庫主義 ....
洗いすぎて
ごわりとした
ネルの小さなパジャマ
ふたつめのボタンだけ
なぜか赤い糸で
不器用にくくられている
夜泣きのたびに
私にしがみついた
熱を帯びた袖
黄色いライオンの模様
....
やわらかい命たち
やわらかいその時代
ほのかな湿りと肉体に
都会の青空
ごちゃごちゃ煤けてとけていた
自由だった
悲しみつきぬけていた
ていねいだった
....
埃っぽい飛行場を飛び立ったら
もう、さいなら、ってな気持ちや
任務なんやからな
二階級特進の恩給が
後は、なんとかしてくれるやろ
しやけど
あの勲章どっさりつけた
偉そうなおっさんら ....
空は真珠色 ある春の日の午さがり
風もなく うっとりとあたたかい
こんなとき この散歩道を行き交う人たちの
心臓はみな
真っ赤なチューリップの花に変わるのである
....
夕暮れが近づいて物悲しくなっていく
独り歩くこの道がとても寂しく感じる
広い道の人混みも細長い裏路地も同じ
ひしひしと心に沁み込んでくるものは
不条理と儚さ故の虚無感が唸っている
夕 ....
吾妻橋一九七二年六月
つぶれるはずのビアホールで
神保町の石屋の伜と
一八の僕はたらふくビールを飲み交わし
ぐでんぐでんの千鳥足
売り飛ばされたはず(?)のビヤホールは
そのまま生き残 ....
もくれんの
白いたまごが
割れると
たちどころに
小鳥が生まれ
空にむかって
さえずりをはじめる
風が吹けば
はばたく真似事もする
翼は
永遠に無垢なまま
飛び立つことをしないま ....
冬が去ったとは言え
霧に覆われ風にさらされる離島礼文
ようやく萌え始めた草の緑に
きりっとしまった白い袋
鎌倉武士の母衣が花開く
かつては
ニシン漁の男たちが
往来を始める島の ....
古本を読む中野さん
手垢の主を想う中野さん
空想する中野さん
罪悪感、既視感、微かな飢餓感と
言葉を失った持ち主の幻影を脳裡に垣間見た中野さん
古本を読む中野さん
何故こんな良本が中古品と ....
もしおなかに
お月さまの赤ちゃんがいたら
おなかはあかあく光るんだろう
もしおなかに
時間がいたら
そこが人類の突端なんだろう
もしおなかに
駅前マッサージが ....
気まぐれな嵐は
ときおり吹き荒れて
数え切れないほど
散り始める
桜の花びらが
舞い落ちては
ゆったりと流れる
どこかの運河の水面を
どこまでも薄紅色に
染めるように
この春は過ぎ ....
蛇口から
ゆっくりと
こぼれて
おちる
透明で
ふくよかな
水の
躍動よ
掌を
舟 ....
【昼間の星】
こんにちは 昼間の星々
雲の姿は無いというのに、私たちには お互いの姿すら見えない
腐りやすい私たちのこの身体よりも もっと高い深みに
あなたと私の心 ....
―あのね〜、お母さん!
今日ね、お弁当の時間にね、
ちーちゃんが一人で笑い出したの。
だから「どうして笑っているの?」って訊いたら
「分からない」って。
それでもちーち ....
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