魂の境を越えた交わりだった
わたしたちは一羽の大きな鳥になって
暁に輝く大河の遥か上空を
風を切り 大きく弧を描きながら
深く埋もれたまま錆びて膨れた散弾
思考に敷かれた玩具の電車の閉鎖回路 ....
もう二度と歌は歌わない
そう決めたのは
合唱コンクールの練習の時
隣の子がクスッと笑ったから
以来本当に僕は歌を歌わなかった
音楽の時間は口パクで通したし
歌のテストの日はズル休みをした
....
少年は決意した
高校生になったら
皆の前で
自分の言葉でしゃべると
そのために
今の学校からは誰も受けない高校を
選ぶのだと
例え面接があろうとも
はっきりものを言うと
緘黙していた ....
肉体だけが失われた
魂だけになった人々のすむ世界は
遠くて
案外近い、のではないか
たとえば
風の吹いてくる方角に向かい立ち
乾いてゆく眼球の映す景色が
そのまばたきのたびに
一枚 ....
徹夜明けで深い眠りのはずが
妻の巨大な鼾に起こされた
鬼の居ぬ間の洗濯…
そんな言葉が鼻先をよぎる
買い物ブギなぼくは
一日のうち5%程度はスーパーで過ごしたいのだけれど
鉄拳宰相はそれを ....
流れ星を数える夜は
一人寂しく冷たい黒
おやすみのあとの秘め事は
誰にも気付かれない
空の星を金平糖にして
食べていることも
誰も気付かない
約束したのだ
海のクラゲと
星がいな ....
空の色が無くなり
銀盆のような
アルミニウムの月が昇っていた
少し戸惑いながら
東の空を眺めていたら
雲霞のような
鳥の群れが
北の方角を目指している
不思議ではないのだけれど
ぼく ....
沈潜
水流から飛び立つ鳥達
冷えて透明に波打つ大気に
勢いよく流れ込み同化して
鳴いては耳を澄まし
耳を澄ましては鳴く
大気のコトバ、律動しながら響き
鳥達は従う、向かうべき方角 ....
一等星か
人工衛星か
わからないから
嫌なんだ
この時代は
虚像が眩しすぎて
たどり着きたい未来を間違える
俺達は
まるで
月に向かって飛ぶ
命知らずの虫みたい
例えば、それは記念日の夕食の
テーブルにある蝋燭が照らす淡い瞬間
ワインで少し赤くなった顔が綻ぶ瞬間
例えば、それは久しぶりに家族で行く海外旅行の
澄み渡る天の青を仰ぎみる瞬間
遠くに見える ....
ゾウさんのお鼻は
不思議な鼻だ
バナナをつまんでお口に入れる
水を吸い上げシャワーする
敵をひっぱたく武器になり
ああ きょうは
少年ゾウのまたの間から
鼻を入れおちんちんをいらって ....
狡猾であり
幼稚でもある
すべては悲しく美しい
そう
狡猾であり
幼稚なのだ
幾日も
幾年もかけて
日が沈む
その終末の真っ赤な空を
眺めては小さな飴を頬張るように
感慨に ....
きみの右目から1センチ
ちょこんと座るちいさなほくろ
きみの瞳はまぶしすぎて
見つめ合うことなんてできそうにない
いつも逸らした視線の先で
そっと目が合うちいさなほくろ
ぼくを ....
151122
7号のクリスマスケーキを注文する
7号は当店の標準品ではありませんから
1ケ月前までに願いますと言われ
うーむと呻る
電話口では顔が見えない
見えなくて良か ....
ヨラさんは小児麻痺だった
ヨラさんはよく笑った
ヨラさんはそのたび涎を机に垂らした
ヨラさんは頭が良くてクラスでいつも1番だった
僕はヨラさんを笑わせるのが好きだった
僕はヨラさんの涎を ....
冬庭は音符を奏でる
花の終わった残骸は
案外気難しく
やっと植木鉢から引き抜けば
無数にめぐらせた白い根は
持てるかぎりの土をかかえこんでいる
ああ うたはここからも
うまれてきてい ....
針を指先に刺して、
血の花を咲かせるように、
ことばを呼ぼう。
浮かんでは消えていく気配が、
幻聴によく似た囁きに呼応する。
....
臨界に旅立った母は、すこし痩せたみたいだ
もう、帰りたい。という
ここには団欒がない。という
距てるものは何もないのに
働きすぎたのだろうか
午後十時二分の、電動歯ブラシは
....
母から聞いた遠い日の思い出話です
貧しい農家だった父と母は
農耕馬に馬橇を引かせ
町の市場へ暮れの買い物に行きました
正月のための食材を買い
家族の冬のビタミン源として
おそらく当 ....
存在の不安を癒すはずの
名も知れず 闇から生まれ闇に去る運命の
生者よりも はるかに数多い死者を看取った
神が それを許したのか?
大好きな町が 罪のない血に染まった
夜が真 ....
均衡は崩れている
もうとっくに
地面の空の裂け目から
鮮血に染まった手を伸ばす人、人、人
同情でも訓戒でもなく
ただ助けを求めて
〇
独り冷え切った身体を震わせ
汚れて ....
秋と冬の境目の
限りなく冬に寄り添う秋だから
ならべてみたくもなる
あったかいものをしこたまに
{ルビ炬燵=こたつ} 湯たんぽ 綿入れ{ルビ袢纏=はんてん}
焼き芋 甘酒 鍋料理
{ルビ熱 ....
111520
たまらない貯金箱を作った
材料に凝って、指物師も厳選
手作り品なので原価が2万円となった
流通経費と当方の利益を15パーセント上乗せしたら
一個 ....
あなた方の死骸を埋めると 私が芽を出して育っていく
アイ、の呪いはコトバと声を包んで あなた方を肥やしにどんどん伸びる
声が子守歌に変わる夜
初めて骸の種となったあなた方に 向き合う ....
波間を縫うように
飛んでゆくトビウオになれたなら
ぼくはどんなに幸せだろう
七海を越えてゆく君たちの喜びが
ぼくを透明にしてゆくんだ
やがては鳥に進化してゆく君たちと
ぼくは一緒になり
....
〈
夜の森に
一人分け入り
いつしか
方向感覚を失い
冷えていく身体
噴き出す脂汗
空気もんわり動かず
渦巻き出す暗闇
意識 拡散し
存在感覚 失い
....
精神科で診察を待っていると
世界の涯てまで来ちまったなぁと思う
しゃがんで煙草を吸う少女
無気力な眼で空を見つめるおばさん
この風景の中に私もいる
悲しんでも悲しんでも
時間はもとに戻 ....
換気扇がぶっ壊れて
機関車みたいな音がする
台所であなたと目を合わせたら
困ったような笑顔がどこかへ旅立つ
暮らした年月を
思い出させるすべての劣化
年をとったわね
夜
....
真夏の鳥取砂丘には
ただ一本の樹さえなく
にぎわう人と数頭のらくだの黒い影を
その茶色の肌にゆらしていた
運動靴を履いてきたけれど
砂に足をとられて歩きにくい
切れる息
額から滴る汗 ....
薄紅に染められた唇で
君の白さは穢されている
それを嬉しがる君がいて
散る散る花びらの多さに
紛れた君の横顔を
探したけれども見つからない
はかなくて白くてそれでいて
美しかった ....
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