駆け抜ける想念とは裏腹に
書き抜けぬ言の葉裏の蝸牛
雪の積もったノートには
あと数羽カラスの行方が不明です
時の刃の上をゆっくりと滑る私たち
やがて「私」「あなた」という二つの断面へ
....
畳の下の
床下の
深い土に掘る穴の底
沈めた箱に
堅く蓋をして
重しを載せる
あの人の上に
土をかけ
床板を
畳を
元通りに載せて
二度と
覗いたりしない
その上 ....
揺れる心地よさに
居眠りしていたわけではないが
通過してしまった駅があったという
ぼくを待っていた人に気付かず
遠ざかった町
乗車駅の ....
きみが霜の降りた髪に
はらりと留まる薄紅の色に酔う
積もった時間は
古い層から固まりゆく
春を迎える度に
漆のように重ねてきた
嵐が吹き荒れた季節
その黒髪の一本まで
この手の ....
君の言葉が泳ぐのは
淀みのない海流
北上しながら溺れるのは
空と
水平線とのあり得ない接点
君が脱ぎ捨てたいのは
どこまでも纏いつく
垢じみた毛皮
切り捨てたいのは
画布に滲 ....
ぼやけた視界に
おもわず無いめがねを指であげる仕草を
いくども繰り返すのも
ひとつの
刑罰のようだ
熱風と鋭い日射し
首の後ろの筋肉がじわじわと緊張している
またも無 ....
彼はいつも身の回りに星座を連れている
折に触れその星々の配置を
巧みに操りながら
蒼を帯びた眼差しの閃きで
ほんのわずか歪んだ口もとの微笑みで
しなやかな指さきのひとふ ....
それは地球環境と生命保存の本能の間で 気の遠くなうような長い年月をかけて作り上げられた習性。長い飛行距離とエネルギー消費の少ない飛行のできる翼と飛び方は 遙かな祖先からの経験の継承と あまたの選 ....
カレーライスは悲しんでいる。
君はそのことを知っているか。
玉葱のせいなんかじゃないし
自分が辛すぎるからでもない。
ラッキョに嫌われたわけでも
ラッシーに悟られたわけでも
スパイス疲 ....
生き物は死ぬために生まれてきたんじゃない
そう思わなきゃ
津波でなくなったひとたちの無念や恐怖を
ぼくはうまく受け容れることができなかったよ
自分にコントロールできないことは気 ....
【区別】
女と男
障害者と健常者
労働者と経営者
1×ー1とー1×1
老人と若者
貧しい者と富める者
【差別】
男と女
健常者と障害者 ....
なにかに取りつかれたように
テレビの画面を見つめつづけて
何も伝わってこない低級な映像を
ハンストみたいな気持ちで眺める
罰を受けているのかも知れない
ふとそんな気にさせる巧妙な仕組み
....
南の空気を孕んだ
雨が止んで
少しずつ
本当に
少しずつだけれども
春は
近づいて来ている
三寒四温
四つ進んで、三歩下がりながらも
春は、確実に近づいてくる
私の街に ....
沈黙の扉を閉じて
飛翔を願う鳥を幽閉したまま
坂道を登ってきた
目の前の足元だけ見つめて
振り返れば
私の後ろに従うはずの
長いようで短かった上り坂は
春霧に沈んで消えていた
....
知りたかった
僕を
取り巻く
空気の中に
今
どれだけの
水の粒子が
溶けているのか
手と手
心と心
乾燥地帯で
ぶつかるたびに
静電気が起き
そこに生まれるのは
青白 ....
膝 様様。
私の日に日に重くなる体重を支えて頂き感謝申し上げます
妊婦が一番感謝しているのは 膝 様様です
よっこらせが呼吸なのです
それでも努力は怠っていませんよ
毎日きちん ....
小鉢で泳ぐ白魚を掬いとり
生きたままを飲み込むという
珍しい食べ方で
食材を頂きました
口の中の足掻きも
喉をすぎる嚥下も
滞りなくすんで
食道を無事通過し
もう胃に入ったのですか ....
地平線の彼方も
ここと同じ地面が続いているだけって
ことは分かっていても
認めたくない自分がいる
夢とか希望とか
そんな言葉で未来を飾ってみても
今日の続きでしかない
明日に期待して ....
思考が止まる時私の頭上を時間だけが空回りしている
時間は止まっても自らの時間のみがストップするだけ
時は確実に先へ先へ前へ前へと自動的に移行している
時間は待ってはくれずお構いなく私を追い越 ....
レタス売場では
皆
外側の葉を剥く
そして次の外側の葉を剥く
そしてまた次の葉も
そのまた次の葉も
わたしはレタスが食べたかった
わたしはレタスを買いたかった
でも皆は
レタ ....
なんか そっけないなあ
いま
なに考えてるの?
あたしのこと…
じゃないよね
「ねえねえ
こんなふうに
まとわりついたら
うざったいよね」
ってたずねたら
それまで
‘うーっ ....
捨て猫あいさつしない
(こニャニャちは なんて言わないニャ)
ビール缶から雨水こぼれた
(つらつら ぽたん )
扇風機の首が折れる
(ブウーン ゴキッ )
....
もう誰も飼ってないのに猫は自分の首輪をはずせない
猫がいる 怒りもせずに泣きもせず人のいない村で猫が生きている
今日の肉体は
昨日の肉体より
確実に
死へ近づいているのに
今日の傷は
昨日の傷よりも
命をうたっている
ふしぎな
からくり
はがれていった
皮の下から
赤く湿った
細胞が ....
飛べ
たとえ行き先が分からなくとも
着地地点が見えなくても
いまここに求めるものがないのなら
飛べ
逃げるんじゃない
避けるんじゃない
新たに挑戦するために
飛べ
....
線路沿いの黄色が日に日に
仲間を呼んで
背伸びをうんとして
集まって
つげる どうにも麗しい春
まるで園児たちの黄色の帽子のよう
元気だけを呼び覚ます
どうし ....
九官鳥の鳴き声知っているかい
真似しすぎて
とうとう自分の声を忘れてしまった
めすをよんでも相手にされない
そんな人も居たな
人まねしていて自分の姿を失った
そんな人になるには
白紙 ....
ゆっくりと
頁をめくる
それは
何かを
惜しむような
誰かを
見送るような
こころもちで
結末を
知ってしまえば
この手の中の
物語が終わってしまうから
桜は咲いて散る
....
【修羅】
へいわ とか
あい とかが
こわれることは
いとも かんたん だ
三年前の みぞうが
かんたんだ わすれるな と きいてくる
あんなに頻繁に目にした ゛みぞう゛ ....
ゴジラになってどうするのと
聞かれたけれど応えずに
ゴジラになった
この足がほしかった
この腕力もほしかった
壊れてゆけ
ただそれだけを願い東京を歩く
おもしろいほどにあっけなく潰れてゆ ....
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