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犬と歩いていた畦道
蓮華草の洪水、うららかな風
晩春の自然は生命を礼賛していた
突然、犬が強く引っ張る
そして、嬉しそうに吠える
畦道の行く手に
冬眠から覚めた蝮が横たわって
ぬらぬ ....
梅雨の晴れ間に、ひときわ
紫陽花は朝陽に輝いていた、その朝
報せの電話が真夜中に鳴った
冷静と言えば、聞こえはよいが
私の応対は驚くほど事務的であった
どこかに、安堵が潜んでいた
....
「ととん、ととん」
曇った夜空から
列車の走る音が聞こえる
大気の具合でこんな日がある
目の前に来た列車に
いい加減に乗り
いい加減に乗り継いで
私の旅は現在にある
飛び乗った ....
降りしきる雨が
風を呼んだ土曜日
葉桜は揺れ
泥の上に、さくら模様
母は出かける支度
黄色い傘の用意をする
「どこ、行くんや?」と、尋ねたら
「さぁちゃんの小学校や」
咲子は中 ....
「本日は晴天なり、本日は晴天なり
只今、マイクのテスト中
本日は晴天なあり」
朝礼が始まる
五月の風は希望に満ちて
教師たちは
民主主義の権化であった
JFKが暗殺された
生き ....
埃っぽい飛行場を飛び立ったら
もう、さいなら、ってな気持ちや
任務なんやからな
二階級特進の恩給が
後は、なんとかしてくれるやろ
しやけど
あの勲章どっさりつけた
偉そうなおっさんら ....
貯木場で死んだ友達を思い出した
遊んでいて転落し
浮かんだ材木の下に潜り込んでしまい
溺死したのだ
指の爪がいくつか剥がれていたそうだ
重い材木と材木の隙間を
懸命に広げようとしたのだ ....
コーヒー豆を煎っている
剥けてくる薄い皮を丁寧に
吹き飛ばしながら煎っている
誰かのためでもなく、自分のためでもない
ただ美味いコーヒーになるように
細心の注意を払っている
窓から ....
死ぬ場所をどうするか
出稼ぎ組の私にとっては重大な問題である
私は、どこで死ぬのか…
高度に進んだ医学界では
見つけた患者をベッドの上以外で
死なせるようなことは許されない
秋に、 ....
「土地と家の権利書を盗られた」
しまった場所を忘れたのだ
「炊いてあったご飯がなくなった」
自分が食ったのを忘れたのだ
忘却は、現在の妄想を生む
生きていたときには
あれだけ不満の ....
一度だけ
父と取っ組み合いになった
後にも先にも
希薄な親子にとっての真剣な対峙は
それっきりだった
生意気盛りの高校生
飛行機が好きだった私は
トリポリでB747が爆破されるのを見 ....
小学校の教師は
満州の寒さを語った
近所のおっさんは
突撃の仕方を語った
母親は
配給の乏しさを語った
父親は
出征の誉れを語った
街では
白い軍帽を被った脚のない人が
人通り ....
桜が散り始めた
昔、誰かがそこに植えたのだ
古びた板壁のペンキが剥げた営舎の
埃っぽい運動場の端に
左旋回だったのは
右利きだからかもしれない
春霞の海は穏やかで
座している私の ....
知らぬ間に妻が撮ってあった
私の写真が私を驚かす
知らぬ間に白髪頭の
頼りなげな初老の男が
否応なくしょぼくれた様子で
サンジェルマン大通の店のウインドウ越しに
チョコレイトやらマカロ ....
レールは、強い日差しに過熱している
煤けた少年が、レールの上を歩いて
線路脇には、赤いカンナが咲いている
熱いレールに耳を当てると、ことんことんと
走り去った列車の鼓動が遠ざかる
列 ....
苔むした三色ねじり棒が
時折脈動しながら回っている
脳天の禿げた主人は
「皮脂がいかんのですわ、皮脂が」
と、言いながら
頭髪の洗い方を指南するが
なぜ実践しなかったのだろう
と、不 ....
きみが霜の降りた髪に
はらりと留まる薄紅の色に酔う
積もった時間は
古い層から固まりゆく
春を迎える度に
漆のように重ねてきた
嵐が吹き荒れた季節
その黒髪の一本まで
この手の ....
沈黙の扉を閉じて
飛翔を願う鳥を幽閉したまま
坂道を登ってきた
目の前の足元だけ見つめて
振り返れば
私の後ろに従うはずの
長いようで短かった上り坂は
春霧に沈んで消えていた
....
私の春は
淋しさを引きずっている
軒下に忘れられた草履は
雨に濡れたまま
旅は何を残しただろうか
心の破片を握り締めた時の
右手のひらについた傷
流れた血は土が吸った
白樺の林 ....
私は部屋を作った
始めた頃の記憶さえ霞むほど
長い長い時間をかけて
がらんとした真っ白い部屋
いろんな場所に出かけて
美しいと思った光だけを集めたら
真夏の南中した太陽の光に似た
真 ....
再就職先の紹介をした知人に
立派な菓子折りをもらった
上用饅頭が詰まっているものと
内心ほくそ笑んだが
上品な包装を開けてみると
見事な上げ底であった
しかし
饅頭を取り除けた底 ....
北大路京介さんの山部 佳さんおすすめリスト
(21)
タイトル
投稿者
カテゴリ
Point
日付
畦道にて
-
山部 佳
自由詩
8*
14-6-2
紫陽花
-
山部 佳
自由詩
11
14-5-22
列車の音
-
山部 佳
自由詩
11
14-5-6
お迎え
-
山部 佳
自由詩
7
14-5-5
3_May
-
山部 佳
自由詩
5
14-5-3
自決
-
山部 佳
自由詩
10
14-5-1
沈没
-
山部 佳
自由詩
6
14-4-26
泣いた赤鬼
-
山部 佳
自由詩
9
14-4-24
死に場所
-
山部 佳
自由詩
4+
14-4-23
竹の秋
-
山部 佳
自由詩
6
14-4-21
亡父
-
山部 佳
自由詩
10
14-4-19
伝言
-
山部 佳
自由詩
8
14-4-15
遠景
-
山部 佳
自由詩
9
14-4-13
旅の写真
-
山部 佳
自由詩
4
14-4-11
1960
-
山部 佳
自由詩
3
14-3-27
理容店
-
山部 佳
自由詩
3
14-3-23
糟糠の妻
-
山部 佳
自由詩
5
14-3-14
春の坂道
-
山部 佳
自由詩
10
14-3-12
靄
-
山部 佳
自由詩
8
14-3-6
穏やかな日
-
山部 佳
自由詩
6
14-3-1
饅頭
-
山部 佳
自由詩
8
14-2-24
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