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Introduction :


 冬の風がもうひたひたと吹きつけています。そんな季節になったのかと、なんだか意外な思いのように感じながら、書き始めています。いま、コンタクト・レンズでは ....
自転車のライトが照らす粉雪や

冬の夜は汚れっちまった悲しみに

冬日とて洗濯物は疾く乾き

漱石忌わがはいはまだ猫になれず

傘をさす日も遠くて傘買う冬の日

師走路の道の半ばに ....
手袋を持ってポケットに手を突っ込むの

冬空がゴッホの絵のごと渦巻いて

小雪に現実の時間が追いすがり

玄冬や一歩踏み出す勇気はなく

強風で息もできずに冬駆ける

天邪鬼綿虫と ....
初雪の山並み煙る北の峯

粉雪はぱらぱらぱらと肩に降り

初雪にまたひとたびのイリュージョン

冬ジャケットの汚れて洗濯もできず

湯冷めして体{ルビ顫=ふる}える午前午後三時

 ....
*1つのティーカップ1


 整理するとこういうことになる。

 まず、彼女は交通事故にあった(それは君の元ルームメイトから後で聞いた)。そして、幸いに怪我は軽症で済んだのだが、君は ....
*レモネード1


 初対面の君とあんなにも長く話し込んでしまったことが、僕にとっては意外だった。でも、案外芸術家というのは皆そういうものなのかもしれない。自分以外は皆お客さん、そういう ....
    このせまい場所をそっと歩いて下さい
    豊饒な広い土地も
    このエメラルドの光が囲む
    この胸ほど広くはない
        ――エミリー・ディキンスン  


 ....
7.コーダ


 その数日後、葉子は数カ月ぶりに弟に連絡を取った。あの日起こった出来事については、自分の幻覚か幻想か分からなかったので、話さなかった。ただ、自分の気持ちだけを素直に話すこ ....
4.退屈な仕事


 結局、葉子が次に就いたのはやはり退屈な仕事だった。中学校の非常勤講師。それを選び取るのにも数カ月かかった。弟は姉が再び音楽の仕事に就けることを喜んだ。ただし、葉子に ....
    憂鬱のかげのしげる
    この暗い家屋の内部に
    ひそかにしのび入り
    ひそかに壁をさぐり行き
    手もて風琴の鍵盤に觸れるはたれですか。
        ――萩原 ....
*夜明け


 ニュース屋が言ったように、一面識もない人間の生死のことなど、他人が分かるものなのだろうか。そう考えながら、Lは夜の間も歩き続けていた。S市の繁華街はそれほど広くはない、い ....
*精神病院


 今から1年ほど前、Lは精神病院に入院していた。そこでは何もかもがおかしかったし、何もかもがおかしいことが正常だった。

 人というのは、その置かれている環境にすぐに ....
    ……小曲は終わった。
    木枯のような音が一しきり過ぎていった。
    そのあとはまたもとの静けさのなかで音楽が鳴り響いていった。
        ――梶井基次郎「器楽的幻覚」
 ....
新嘗祭歴史の重み深くして

熊穴に入るわたしも休もうか

冬の海名付けるならばマドレーヌ

曇り日がいや増しにする寒さかな

天に上る白鳥のごとこころ消ゆ
神秘色冬の月には魔力が宿り

木星とともに歩むは冬の月

冬の雨降られる前に買い出しへ

小春日の道の遠きは定めとて

白鳥は魂を乗せて夜の空へ

風邪を引き辛い時季にも幸福はあり
愚痴などは言わぬと決めて冬の月

姦しや冬寒の月は上弦で

冬ざれの野には野の想いがあり

乾かない髪に触れて確かめる冬

冬苺口にほおばる我と父

狐火を追いかけてなお過去の時
足元に電気膝掛けなお震え


手足荒る冬場のきつい水仕事


風凍る空の晴れ間は眩しくて


山茶花の香りだになく時は過ぎ


宙天は神秘の趣き冬の宵


木枯らしの吹く ....
枯芒今日も見たよ幽霊を


{ルビ天=あま}冴ゆる我は天使を空に見し


寒さに負けじとの思いが我を推す


たま風や遠い亡霊を訪ねおり


燗酒をあおる父の背は寂し


 ....
父の祈り母に添いたる秋の夜

秋を見て父を見てただ心静けき

送りまぜ今日はかくやと嘆きおり

父の背に後の月を見し夕間暮れ

十六夜の月は空にはとどまらず
数珠玉を見ずとも秋は深行けり

紅葉葉の落ちるはいずこ思い出か

栗を刈る季節をひとつ通り過ぎ

三日月にぶら下がるのはネックレス

眠りのなか秋の色にわたしも染む
雁の使はるか果てまで独り言ちて

蓑虫のなつかしさかな手を伸べて

愛らしや鶏頭の声千の風

渡り鳥今はまだ季節に遠く

悲しみの扉を開けて秋静か

玩具箱固い扉に秋深く
青き時宵闇に秋葉溶け込んで

身に染むや孤独の病時経ちて

泣きたくて秋の夜には涙の雨

秋の朝しらじらと明け身震いし

柿の実や生らずになってもう幾年

葡萄の実母の位牌にささげ ....
ふと迷いふと振り返り秋の宵

秋高し目の奥にあるおとぎの国

歳時記をめくって今日も秋は澄む

菊の花人それぞれに花それぞれ

思い出を遠くに手繰る秋の初風

ましら酒自然の奥深さ ....
ひよどりの姿を見ては振り向いて

痛みを越えセイタカアワダチソウを見る

眠れぬ夜アメリーの乳房と人は言い

あとは打つだけの稲田で緘黙し

秋の田や眠れぬ夜に沈みゆく

流れ星星 ....
暮れなずむ秋の夕べに星一つ

露と消え悩みもどこかへ流されて

あけびの実今は亡き母とともに

名月を見ずとも時は過ぎにけり

雨また雨と見るうちに変わる秋の色

望月の過去は思い ....
新しい{ルビ朝=あした}は秋に降り立ちて

思わずとも秋澄む庭に小鳥たち

とがりとがり音立ててなお秋の宵

誓いとはいかなる意味ぞ身に染むる

秋深くつるべ落としの夕暮れに

齟 ....
思い出を遠くに越えて曼殊沙華

ふり帰る道もなくまた秋に落つ

秋遍路憧れという迷い路に

馬肥ゆる秋とは言えど痩身にて

夢見がち秋の蝶に明日を追い

めくるめく思いを秋明菊に寄 ....
悲しくて此の花咲くや秋桜

悲しみや月代を追う人の群れ

泣いてもなお明日には咲く秋桜

爽やかにコーヒーを飲み黙考す

信頼は秋の夕べに訪れて

きりぎりす泣いても良いよ過去は過 ....
雨が降ってきた。
それがどんな〆の雨なのか分からず、
わたしはただ空を見つめていた。

遠い、はるかに遠い場所に、
雨雲は鎮座していて、
わたしに声を聴かせようとするのだった。

雨の ....
 ホロウ・シカエルボクさんの詩について。氏の詩は長いです。そして起承転結もはっきりしていない。そのことが氏の不人気につながっていると思うのですが、ここは忍耐力を身に着けて、氏の詩を最後まで読んでみるべ ....
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