アイソニアの騎士の苛立ちはもっともだった。ヨランですら、いらいらしていた。
だが、オーマル・リケイディアの言葉には、
「強い者は強い、弱い者は弱い」といった、冷めた響きがあった。
彼女は何がしか ....
二〇二一年十月一日 「世界SF全集 第31巻 短篇集 古典篇」


『世界SF全集 第31巻 短篇集 古典篇』が到着した。非常に良い状態だった。満足。 https://pic.twitter ....
いくつもの閃光が、エビ・グレイムの目から放たれた。
それは、ヨランたちが立っている大地に、火柱を生む。そして、衝撃。
──衝撃波は、盗賊ヨラン、アイソニアの騎士、そしてエイミノアを薙ぎ払った。
 ....
だが、アイソニアの騎士はぶつくさと一人ごちていた。
「エインスベル……世界の救い。そこに立ちはだかる『魔女』という言辞……」
それは、エインスンベルのあるべき姿と、厭うべき姿とを、
重ね合わせた ....
「過ち? それは奇妙な言葉です。あなたがたはすでに、ダルザジアの群れを追い払いました。
 それは、このハーレスケイドにとっても良きことです。
 わたし、オーマルは、この世界の代表として感謝いたしま ....
わたしたちは歩く
可笑しなことはないのに
となりできみが時々ちいさく笑う
(なにか間違っている?)
でも訊くことなんかできない

わたしたちは黙って歩く
おおむねすべてのひとたちは
 ....
読者にはまず、このことを思い出していただきたい。すなわち、
ハーレスケイドは時間が止まった世界である、と。
ここ、ハーレスケイドで何万年の時間を過ごそうと、
現世であるアースレジェでは、何秒の時 ....
アイソニアの騎士、そしてエイミノアも、オーマルの前に控えた。
彼らの振る舞いが、今後の彼らのハーレスケイドでの探索にも、
影響を及ぼすと考えたからである。──それは賢明な判断だった。
アイソニア ....
読者は迷うかもしれないが、ここは再びハーレスケイドである。
盗賊ヨランと、アイソニアの騎士、そして、エインスベルの従卒であるエイミノアは、
眠れぬ夜の、そして翌朝を向かえていた。
あくびとともに ....
うすぐもり
ベランダから
なにを見ているんだろう



それとも

ひとだけに
不自由がはびこる

気づくと
いつ死んだかわからない
カタツムリの
はりつめたよ ....
傾いた沈黙を落下していた
喉が黒くなるまで回りながら
部屋と丘を繋ぐのはひかりの澱
落ち葉の形をした唇が震えながら捕まえる

どんな苦労を積んでここまで無口になったのか
愛する人との別れを ....
 

罪の震える夜でした

街はしじまでその路地に

猫がみゃぁ〜と泣きました

星も降らない秋の鈴

どこで鳴るのか胸の奥

今夜こんなに光る月

罪は震えて紅葉色

 ....
「迷いは良い。お前は死すべき存在だ……」と、エインスベルは言った。
右の手には、クォータースタッフを携えている。
魔導士にしてはあるべからざる、戦闘的なあり様だ。
フランキスは、その右を、その左 ....
──「お前は誰か?」と、言った者があった。
フランキスは慄然とする。それは、エイソスか? それとも彼の侍従か?
いずれにしても、「わたしは誤った」と、フラン騎士は思った。
祭祀クーラスから言い使 ....
再び時と所は変わって、ここはエイソス邸の前である。
フランキス・ユーランディアは、エイソス邸の塀の影に隠れていた。
(わたしは、祭祀クーラス様の辞令を受け賜った。
 この国のため、祭祀クーラス様 ....
どこかにそれがあるんだよ、きみが欲しくてたまらないときには
決まってきれいに隠れてしまうそいつ、油断大敵
見つけようなんて間違っても考えちゃいけない
探せば探すほどどこにあるのかわからな ....
「くよくよ悩んでいても仕方がないぞ、ヨラン」
一行の誰よりも早く、己を取り戻したのは、アイソニアの騎士だった。
さすがに、彼は状況を読み取る能力に優れていた。この時も、である。
「明日になれば、 ....
ヨランの殊勝な答えに、オーマルは静かに頷いた。
(さて、ここでいくら時間稼ぎをしても、仕方がない。
 エインスベル様の処刑は、数日の後に迫っているし、
 ここ、ハーレスケイドでは、時というものが ....
「あの方」……とは、ヨランの推測によれば、一人の魔導士のことを指している。
しかし、その人物がここで登場してくるということは、ヨランの予想外だった。
(この女は……何者なのだ?)と、ヨランも考える ....
「あなたは、エインスベルという者の命が大事だと、おっしゃいましたか?」
アイソニアの騎士の胸に刺さるような言葉を、オーマルは発した。
「そう……。そうだ。エインスベルの処刑は、数日の後に迫っている ....
「対価? それは何なのだ?」──威厳と自信を取り戻したかのように、
アイソニアの騎士が言った。彼は今、アースランテの千人隊長という、
身分などかなぐり捨てたようであった。彼はただ、エインスベルの一 ....
「間一髪でしたね、騎士様」ダルザジアを退けた後に、ヨランは言った。
「ふむん。単なる偶然だ。お前はそんな武器をどこに隠していた?」
「背嚢にです」アイソニアの騎士に対して、ヨランは軽く答える。
 ....
おしよせる 一切の祈りを
ものともせず 飛んでいく
あおい飛蝗たち

届かないと知りながら
対岸へ跳ねた
少女だった 絶望だった
永久みたいな 夏も暮れかかり

ソーダの飛沫にも ....
「こんなものがあれば、魔法など必要ないではないか!」忌々しく、アイソニアの騎士が呟く。
その傍らで、エイミノアは言葉を失ったままだ。そして、ヨラン。
「この世界には、剣や魔法のみがあるのではありま ....
ヨランたちが見たもの、それは甲虫ダルザジアの群れだった。
盗賊ヨランですら、このような大規模なダルザジアの群れを見たことはない。
「危険です、騎士様! エイミノア様、あなたにも見えますね?」
「 ....
そのころ、ドワーフたるヨランたち一行は、ハーレスケイドでの旅を続けていた。
右手には、虹が見える。ヨランたちが今登っている岩場からは、
荘厳な滝が見えていた。その高さは、何十マルテあったであろうか ....
二〇二一年九月一日 「加藤思何理さん」


 加藤思何理さんから、詩集『おだやかな洪水』を送っていただいた。おしゃれなつくりの詩集だ。さまざまな方向性をもった詩篇が並んでいる。物語性をもった詩篇 ....
翼が
溶けてゆく
悲しみに泣く天使は

今が
どれだけ大切なときなのか
わかっているのだろうか

泣いているときではないと
わかっているのだろうか

ほんとうのことを
 ....
フランキス・ユーランディアは、普段から青白い顔に汗を滲ませた。
「クーラス様。わたしは命に従うでしょう。しかし、このことはあなた様の今後、
 言い換えれば、クールラントの未来にも影響を及ぼすことで ....
「別のこと? 一体それは何でありましょうか?」フランキスは強張りながら言った。
祭祀クーラスは、今では為政者の顔として、面持ちを崩さないでいる。
「お前には、ある種の間者のような役割を果たしてもら ....
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