4.退屈な仕事
結局、葉子が次に就いたのはやはり退屈な仕事だった。中学校の非常勤講師。それを選び取るのにも数カ月かかった。弟は姉が再び音楽の仕事に就けることを喜んだ。ただし、葉子に ....
憂鬱のかげのしげる
この暗い家屋の内部に
ひそかにしのび入り
ひそかに壁をさぐり行き
手もて風琴の鍵盤に觸れるはたれですか。
――萩原 ....
ほとり ほとりと
冬の 路
ぽつり ぽつりと
{ルビ詩=うた} {ルビ謳=うた}い
ほろり ほろりと
{ルビ啼=なき}き 濡れて
おーい おーいと
友を 呼ぶ
枯れ ....
あのラーマが販売を終了する
ラーマとは、インド神話最大の英雄の一人で
タイの現国王もラーマ10世なのだが、
販売を終了するのはマーガリンの名前だ
ボクたちは、あたりまえのように
毎朝パン ....
行きゆきて
独り旅路の
白い道
蝉しぐれ
岩の清水を
手にすくう
笠あおぎ
入道雲に
息をつく
雑然とした卓に
ちょっと戯れに挿した
寒椿の 紅い沈まり
眠れないのです
時は重たいものですね
全て寝静まっているのに
音があるのです
秒針が刻む
藍 ....
お下がりの大きな自転車は
不躾な轍を踏んでいた
5時のサイレンが鳴る頃には
納屋の隅の方から
古い天気予報が発掘された
曇りと雨の日には
ばってんが付けられていたけど
晴れの日は見たこと ....
*夜明け
ニュース屋が言ったように、一面識もない人間の生死のことなど、他人が分かるものなのだろうか。そう考えながら、Lは夜の間も歩き続けていた。S市の繁華街はそれほど広くはない、い ....
*精神病院
今から1年ほど前、Lは精神病院に入院していた。そこでは何もかもがおかしかったし、何もかもがおかしいことが正常だった。
人というのは、その置かれている環境にすぐに ....
……小曲は終わった。
木枯のような音が一しきり過ぎていった。
そのあとはまたもとの静けさのなかで音楽が鳴り響いていった。
――梶井基次郎「器楽的幻覚」
....
思惟のふちから
言葉が崩落してゆくとき
僕は君の夜を抱き
君は僕の夜を抱く
その暗い球体の中に
守るべきすべてが
あるかのように
たとえばそこに
紅い薔薇
暗さの中では
も ....
色づくからすうり
いつのまにか冬
たねを取り出して綿に包み
マッチ箱に入れて待って
ほら黒いたねが黄金色に
祖母から教えてもらったあの秘密は
どこへいった
もう1回試してみたいな ....
はたせなかったやくそくが
はたされないまま
はてまで
つくられたみち
はたして
はたされないものを
はたすことが
やくそくだったのかも
わからないまま
はてまで
初出 日本we ....
白と黒の、うっとりと時の踊り場で寛いでいるかのような、冬
雪は未だ、ここに居てもいいのかどうなのか、
わからないでいるように見えたりする、初冬
暗い雪の夜道を歩いてみれば、小首をかしげた四つ足獣 ....
いまは無い
おでんの屋台
何処いった
焼き鳥の
匂いが誘う
帰り道
チャルメラは
スピード上げて
走り去る
もつ煮込み
野菜だらけで
吐息つく
コンビニに
行 ....
私は{ルビ開襟=かいきん}シャツを着て
路地を左に曲がり
ズボンのポケットから白いハンカチを取り出して
首筋を拭ぐった
家の山茶花の垣根から
{ルビ割烹着=かっぽうぎ}を着た妻がアイロン ....
お供えのような小さな菓子を買う
あまくてすぐに溶けてしまう
ころんとしたなまえの。
傘を開くとボンと音がして、腕に吊った菓子箱が少し跳ねる。
タカタカタカと安定したそぶりで行き ....
止まらない
人類の負の動力源は
一握りの
山脈より
大洋より
強い者たちの
掲げる道理なのだろうか
連日報道される中東紛争
はためく旗の下、
生きねば ....
梅雨入りが今年は早いかもしれず長くなるとも言う予報士
梅雨だけに咲いた紫陽花今見頃ただ正確で表現豊か
同じ場所交通事故が多発して改善される動きにならず
蛍見て綺麗と思わず口に出す森の ....
リアルだね
生きてる日々
見せ続けること
痛々しくも
ういういしくも
月の夜だった。
海は鱗を散らして輝いていた。
波打ち際で、骨が鳴いていた。
「帰りたいよう、帰りたいよう、海に帰りたいよう。」
と、そいつは、死んだ魚の骨だ ....
17時回ったスーパーの精肉コーナー
陳列棚に、値下げされた鶏もも肉少量パックが
取り残され上目遣いで
私を誘惑する
手が伸びる けれども
チキンライスを食べたいわけじゃない
....
絹のように 第一印象だけ冷たいおとこだった
くるみこまれて にげだす理由もなぜか無くて
けれんもぺてんも要らぬ はじめての人間関係
粉薬みたくあまにがい心臓で駆けぬけたもんだ
さあ 幕引きです ....
延暦寺西塔の居士林、
森閑とした闇に包まれ坐る道場
打ち鳴らされる警策で
突如 目を見開くと
秋霖
湿った杉の並木が
生い茂り
霧のなかに太い幹の影を映して
....
安心したから眠いのだ
女から意気地なしとなじられて
意気地を振るう場面があったか
育児も振るわないってわけ
慢心したから責められる
暖かいから眠いのだ
蚊が飛んどる ....
アルコールが沁みてくマゼンタの脳みそ
いつでも充血 娯楽室
歌姫がねだるタロットのゆくえは
縁と¥とに欠けている
お嬢さんはつっぱしってく、ほら
かまびすしい夕焼け空を 飛行機雲と併走して
まずしい国
ゆたかな国
お金がまずしい国
心がゆたかな国
心がまずしい国
お金かゆたかな国
愛している人がいる国
美しい秘境をかくす国
山岳が虹を掲げる国
大河が祈り ....
何とも言えない感覚
どのように表現すればいいのか
師走という言葉
白いイメージ
寒いイメージ
師走という言葉が大きくて
それに翻弄されているかのよう
旅行して気分を変えたい
....
朝ぼらけかすみし山の冬木立
鼓膜に残る響き息の跡
ときはかねときあかねさす井戸端の
夕餉の支度暮れのにおいは
山の中静かに凍る湖が
数億年の冬眠を守る
暖冬に明日、明後日と大 ....
天竺の行者は言った
無量大数よりも大きな数字を
ガンジスの砂を感じながら
無数を解いた
今もスーパーコンピュータで円周率を計算しているが
果ては無い
無駄なのだ
この宇宙の果てに ....
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