ふうっと
息をつくと
こびりついていた何かが
テーブルの端まで
遠のいた
そおっと
見渡すと
微かに青みがかった指先が
木の葉を鳴らすのが
見えた
自由になった
意識 ....
<枯葉はシャベルで集められる
思い出も未練もおなじこと
そして北風はそれらを運び去る
忘却の冷たい夜のなかへと>
(「枯葉」 ジャック・プレヴェール 高畑勲訳 ....
巨峰よりも
マスカットが好きだ
好きで好きでたまらない
一年に一度だけの
食べる恋人
なんといっても ぶどう狩りで
ぶどう園へ行き
熟したてのマ ....
化石した
遠い遠い
昼下がり
わたしは
人を離れ
故郷を離れ
海へ向かった
知らなかった
心さえ向けば
海とわたしとは
一本道なのだ
そんなことすら
知らないほど
....
夕べのそらの木の下で
かぜふくしげみにひざをかかえた
おれの顔のちいさい一人がすわっている
きまじめな面つきの
むかしのテレビドラマのような
ひどく地味なふうていで
(なあに 貧しいだけさ ....
秋の
夕べ
芝生
虫の
ねいろ
隠す
笑い
声の
渦に
とまる
赤蜻蛉に
かぜ
虹の
噴水
ながめ
公園の ....
心を研ぎ澄まし
硬く
固く
堅い
爆弾のような石 / 意思 を
ここに置いてみよう
少し離れて見ていると
バンッと
爆発しないかな
丸い石
角張った石
欠けた石
....
春は花で彩られ
夏は太陽で焼けつき
秋が九月の雨ではじまる
酷暑で疲れた体に
適度な気温と湿り気が
気持ちよい
夏の暑さで狂った自律神経が
正常に戻っ ....
いつぽんの川がながれてゐる。
川べりの道は夏枯れた草に覆はれてゐる。
川はゆつたりと蛇行して その先はうつすらと 野のはてにきえ
太古の記憶へとつづいてゐる と村びとたち ....
赤い線が
皮膚の上に浮かび上がる
今朝
バラのとげが作った傷が
今
わたしのからだの中の
赤いこびとたちが
あたふたと
いっせいに傷をめざして
走っていることだろう
猫を飼 ....
(記憶の夜空に浮かぶ
(過去の星星は
(幾億光年という長い歳月を経た
(客観性の強い光を帯びて――
つい先日 北海道全域が地震と停電に襲われた
ぼくの住むこの赤い夕陽の市(まち)でさ ....
君がまた
髪を風になびかせていたから
僕は
君の手首をつかみ
あの部屋で
僕らは
洗面器に温かいお湯を張り
冷たくなった両手をつけ
....
三日前、一度だけ会った新聞記者が
病で世を去った
一年前、後輩の記者も
突然倒れて世を去っていた
彼の妻とは友達で
今朝、上野の珈琲店にいた僕は
スマートフォンでメッセージを、送信した
....
羽が落ちている
本体は見当たらないから
誰かが食べてしまったんだろう
羽は食べてもおいしくないだろうし
さしたる栄養もなさそうな
だけど
錆ひとつない
無垢な部品
ない、みたいに軽 ....
うねる雲を見ていたら
わたしは私でなくなっていた
わたしは流出して溶けてしまい
涼風とともに雲をかき混ぜていた
わたしのみていた きれいなそらを だれもがみていたわけではない と
おしえてくれた ひと がいる
お金もなく居場所もなくからだ しかなく
ゆびさきはかじかんでいて いつもうまれてしまったこと ....
街が明かりを失った夜
星々は本当の輝きを見せた
どんなに悲しい理由でも
それは純粋に美しかった
便利さと引き替えに
手放してしまったものが
便利さを失った時に
わたしたちを慰めてくれた
....
私の
主語を探している
大風の通り過ぎた日の
夜半の
灯りの絶えた
あはれなる街を歩けば
たれかそこに居て
ついて来ないか、と
私を誘う気がしてならない
夜に旅する
物の怪 ....
うつくしいひとたちに遇ひ
うつくしいはなしを聴きました
空はたかく 澄んでゐました
かなしみはもう とほくにありました
よろこびは すぐそばに そして
手のとどか ....
夢かわいい
夢ごこち
夢うつつ
夢うらない
夢は売らない
夢見がちのガール健在
今朝、夢に父が出てきました冷蔵庫貸してって言ってました私はコタツ探してました妹が二畳くらいの部屋に座って ....
彼の郵便受けに「人間合格」の通知が届いた
差出人の名前はなかった
太宰治の「人間失格」なら知っていたけれど
人間合格っていったい何だ?
その封書を開いてみると
便箋一枚に手書きで書かれて ....
鳥の船が沖をゆく 夏の朝
雲の峰が溶け やがて海になる
{引用=(二〇一八・八・一〇)}
白いりんごをのせた皿に薄陽がさしてゐる。
月をたべた少女が硝子の洗面器にそれをもどした。
日が暮れる。わづかに年老いてゆく。
適当に引っ張り出したTシャツから
今は使っていない柔軟剤の匂いがする
どうせ乾いていく通り雨の先
住宅街の暗闇でこっそりと線香花火に火をつけて
笑い合っているうちにぽとりと落ちた
光の ....
髪と髪が触れ
影になる
風のなかの粉
砕けて光る
ざわめきを登りつめたところに
廃線の花 水に浮く葉
ひとつひとつの滴に残る
まばたきの水紋
打 ....
地上で最後に咲いた花には
目がありました
かつて生存したあらゆるものが死滅し
文明の残骸さえ塵になった地上で
とうとう最後のいのちになった花は
青黒い雨に打たれながら
薄汚れた白い花弁 ....
「ゆきふってる!」
子供の声がして顔を上げた。
降ってるわけがないね、まだ夏の終わり。それでも、ずっとスマホの画面に目を落としてたことに気づけたから、ときどきは顔を上げます電車はいつだって曇天きり ....
苦みが味覚でもっとも
秀でたものだと知ったとき
ひとは少し大人になれる
そして気がつく
生に於いても
それは同じではないかと
例えば
苦難 苦労 苦悩などが
それにあてはまると ....
何かしてもらったら
ありがとうと言いなさい
自分が悪いと思ったら
素直にごめんなさと言いなさい
自分が嫌だと思うことを
人にはしないようにしなさい
挨拶をされたら
微笑んで礼を返しな ....
「錯乱」
しをかくひとは
胸や、胴体に肢体、に
まっくらな、まっくらな
あなが、ありまして
のぞきこむのが
すきなのです
のぞくとき、
のぞきかえされていて、
くらいあなから ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225