温かな 身体溶けて
消えてなくなる この形
その奥の 白いもの
最後に残る 形そのもの

硬ささえ いつか無くして
さらさらな 粉になって
小さな壺に 納まって
時々誰かが 拝みに来る ....
ひかりの葬列が瞳孔の砂浜に沈み、
溢れる夏が清涼な涙を流す。
新しく生まれた水彩画の冒頭を見つめながら、
わたしは、森の湧き水で掌を浸した
愁風の滴る夏の終わりを均等にまとめる。

青い寝 ....
休憩室の扉を開くと 
左右の靴のつま先が
{ルビ逆=さか}さに置かれていた 

ほんのささいなことで 
誰かとすれ違ってしまいそうで 

思わず僕は身をかがめ 
左右の靴を手にとって  ....
東の空に日が昇る早朝 
工事現場の低い土山の頂に 
クレーン車が一台
運転席には裸の王様が{ルビ居座=いすわ}っていた  

黄色と黒の{ルビ縞々=しましま}の 
柵に囲まれた小さい世界の ....
出勤のバスの中 
ぷ〜んと近づいた{ルビ蚊=か}を 
合わせた両手で{ルビ潰=つぶ}す 

指にこびりついた
ご遺体を
どこへやろうか 
置き場に少し困って 
床に落とした 

( ....
{引用=
                         

瞑目の底をたどって
あなたの曲線を手にする
幾夜を重ねたその痛みの行為に
暗譜されたさざなみ

レントよ ....
ひまはりは
駝鳥のやうな脚をして
太陽電池を支へてゐる
もう花びらは一つもないが
悲観などしてゐない


ぢりぢりと
ゆるぎない正義のいのちを
蓄電して
飽和に達すると
過去 現 ....
貴方の前に門があります
幸福に通じる門です

門扉の向こうからは楽しげな音楽や
悦びに満ちた歓声嬌声が聞こえます

貴方は開けますか?

俺は開けることが出来ませんでした
萎えた四肢 ....
遠い遠いところから密やかに膨らんで
大きく高く重くうねった黒い波のように

その哀しみは時々にやってくる

泣ける時にはタオルケットを
丸めて抱き締めながら
九つの頃と同じ声をあげて泣き ....
はじまりは
突然ではなくて
地面に染み込んでいく
雨の速さに似ている

背後に潜む
稲妻と雷鳴の予感
と、その準備に追われる頃
夏の気配はすでに
私の踵を浮かせ始めていた

色濃 ....
レモングラスの川べりから
青い星座を辿ってきたのですね

稲妻をたたえた雲は
あと少しで追いつくでしょう

細いボトルには少しのお酒が残っていて

薔薇の庭にぐるりと張り巡らされた柵
 ....
私は夢月の家に
棲むことになりました

夢月の親は
共働きでほとんど家におらず
独り暮らしの状態でした

ちなみに私の棲んでいたのは
『水槽』というもので
今では空っぽで
綺麗な水 ....
びいどろ瓶の海の中
蒼い泡がひしめきあって
じょあっと波を繰り返す

青藍 群青 紺碧の水
いろんな青がひしめきあって
じょあっと波を繰り返す

びいどろ瓶の海の中
ラムネの匂いを漂 ....
一匹の黒猫が地下の廃道を歩いていた
今はもう使われることのない遺跡の廃墟
ここはその下、網の目の様に入り組んだ迷路
所々崩れて光の差すところもあるが
ほとんどが真っ暗闇、不気味なところだ

 ....
わたしが遅めの初潮を迎えたとき
母がお祝いにとお赤飯を炊いてくれた
(今の子もそんなお祝いしてもらうのかな
膨らみ始めた胸の先が痛かったりして
ちょっとだけ…おとなになった気がした
それから ....
水平線上の街は
曖昧な輪郭線と
いつまでも ぎらぎらと揺らいで
浮かんでいる 何もない所で

水平線から
地平線へと
流れゆく太陽
魂は {ルビ何処=いずこ}より生まれるか?

留 ....
傲慢で欲張りな男がいた
金貸しをしているその男は
期限を延ばすことは絶対にしなかった
金が返って来なければ
代わりの品を取り上げた
女、子供の時もあった
男の借金の為に首を括った者もあった ....
机の上に三冊の本を並べる。 

一冊目を開くとそこは、
林の中の結核療養所。 
若いふたりは窓辺に佇み、 
夜闇に舞う粉雪をみつめていた。 

二冊目の本を開くとそこは、
森の中のらい ....
電車の中で、野菜ジュースを飲み終えて 
空になったペットボトルを、足元に置いた。 

駅に着いて、立ち上がると
すっかり忘れていたペットボトルを蹴飛ばして、
灰色の床をからから転がった。 
 ....
その{ルビ女=ひと}とは、ついに重なることはなかった。 
どんなに重なっても、何かが{ルビ逸=はぐ}れていた。 

( 左手の薬指に、指輪が光っていた 

求めるものは、柔らかきぬくもりであ ....
日常の軌道を{ルビ反=そ}れて、
行く当ての無いバスに乗る。 

車窓に薄く映るもう一つの世界の中で、
駅周辺を流れる人々の葬列。 

葬列の流れる行き先に、渦巻いている濁った泥沼。 
 ....
山麓の寂しい町に

月はかうかうと照つてゐた

すべての人が

月を見たわけではないけれど

みんな

ボールを胸に抱へるやうにして

眠つてゐた
薄い{ルビ翅=はね}
はばたいて
数日の 玉の緒
切れた先に 何が見える

揺らめいて 嗚呼
{ルビ水面=みなも}を舞う だが
{ルビ羽音=はおと}は聞こえない
その かすかな存在のゆ ....
陽ざかりに
影がゆれる
塀の上に
白樫が緑の枝をのばし


陽ざかりに
光がゆれる
そこに咲いている
荒地野菊の花


寡黙な額に
風が吹き


みつめる心も
そっと ....
浜辺で一匹の蟹が激昂している
なぜ蟹が怒っているのか
誰も知らない

近くでは干潟の干拓がはじまっている
クレーンの向こうは
大きな落日
その赤い夕日を抱え込んで
蟹は怒ってい ....
冥王星よ
君は一人じゃない

家族の中の冥王星
クラスの中の冥王星
会社の中の冥王星

合コンで冥王星
病院の待合室で冥王星
ファミレスで呼び出しボタンを押しても冥王星
mixiに ....
セミよ
そんなに急ぐな

さっきから
空を見上げてばかりじゃないか
お前の
自慢のその羽は
ただ
アスファルトを掻くばかり

セミよ
今なら見えるだろう
あれが星座だ
私も昔 ....
ぽつぽつと落ちてくる水滴が
汗と一緒に芝生に染み渡ってく

うなり声を上げて
宙を舞う砂


きらきら光る砂埃の向こうからは
止まることなく産声を上げるメロディー


この音は
 ....
一.

戦争を俺は知らないんだと はじめて思い知ったのは
キプロス島に ある朝突然逃げ帰った妻が いつか話した
占領の話 地下室の話 息を殺して
あいつが真似た マシンガンの ....
     ある日いきなりあらわれた
    「さぁわたしの手を取りなさい」
     それは白く細い手で
     燃えるようにあかい頬
     
     その手はとても ....
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