薔薇をあなたに
五月の薔薇をあなたにあげたくて
私はひとり庭をさまよっている

ハーブの花畑を通って
クレマチスの花園へ
キングサリのアーチをくぐったら
そこはもう薔薇迷宮
色とりどり ....
人の耳にはピチピチなんて
明るい音ではねる鰯の水揚げ


にぎわう港から鰯そのものへ視線をうつせば
全身でわななく声が 流線形のまま突き刺さる


何万もの銀の鱗が震えている

 ....
電話のあなたの声がしゅるしゅるとしぼんでゆく
タイムリミットは15分

「ウルトラマンのカラータイマーみたいね」

3分の5倍あると思っても
沈んでいくあなたを掬いあげられないまま
電話 ....
そらまめ そらまめ


ぎゅっと つまってる 大地のちから

ぎゅぎゅっと つまってる パパの汗

ぎゅうぎゅう つまってる ママの愛

ぎゅうっと  ....
 
 
カレーを注文した
一皿では足りないから
二皿注文した

けれど
食べる人が一人足りない
君が足りない

一皿のカレーを残して
私は店を去って行った

あの日
私一人 ....
投げかけてしまうのは
簡単なことだけど
それでおしまいじゃないって
みんな、知っている

自分の足で立つことが
どれだけ大切かなんて
色んな人が色んな言葉で
語ってきたこと

それ ....
目覚めのひと呼吸が
かなしかった日は
ふい、と
砂漠に連れて行かれるようだ


そこは盛り上がった砂地/育ちかけたトマト/の/墓標が整列/黄色い花が手向けられている/生ぬるい南風が/背中/ ....
平穏な毎日の中で思い出す
都合のいいきみは
なんだかアニメのようにチカチカして
曲がり角で衝突するために 疾走してみるのだが
ぶつかるのは壁ばかり
たかがメインカメラをやられただけだと強がり ....
扇風機を起こしたら
「もうそんな時期なの?
 早くない?」
と言われた


きっと、これから
毎年、一日ずつ
早まるでしょう


そのうちいつか
一年中
働いてもらわなければ ....
さざなみを抜けたところに
その発現は在った



羅針盤に映るものは

葉脈のかたちをした
画一的な思考かも知れず


飽和した感性かも知れなかった



美しき花の影よ



僕はそこに
都 ....
駅東端の改札を抜け昔ながらの踏切を渡ると
南口商店街の低い軒先を飛び交うツバメ達に出逢った

桜は散ったばかりだと思ってたのに
あっという間に日傘手放せない季節となってしまったんだよね

 ....
踊りあかすは

月のミラーボールの下で

なんだかんだと言い訳や

愚痴が増えてきたけど

一晩踊りゃそんなの

場外ホームランだよ

だけど早くしないと朝日が登る

時間 ....
 著者は第16回詩と思想新人賞を受賞した橋爪さち子氏である。
すでに二冊の詩集を出されていて、もうベテランの域に入っていると言ってもいい詩人が新人賞を受賞したのは、
そこに新鮮な感動と発見があるか ....
しなびたような風にはたはたと
力なく揺れている黄色い旗

近くの小学校からだろう
校内アナウンスが外に漏れ聞こえる
時折キンとした音が混じりながら

光化学スモッグ注意報が発令されました ....
寄せる波に向かって
心の潮「A/アー/(ラ)」の音を放つ


わたしと海はパラレル


返す波からは原始の抑揚
「G/ゲ-/(ソ)」の音がかえってくる

海は ....
ぱしゃり、と水音をたてて
あなたは私を抱きしめる
二人きりのぬるま湯に浸っていると
まるで双子のようだと思った



「交わることのなかった二人が
一瞬だけ出会 ....
ふいに春風が吹き

桜ふかれそして舞い

その花びらに巻かれ

いつしか春は過ぎてゆく

大人になったら分かると思っていた

自分の存在は今もわからないまま

残酷なように秒針 ....
私の小鳥が死んだ
何度か獣医さんに診てもらったりしたけど
これが胸騒ぎなのだろうか
部屋の錠を開けるのももどかしく逆光に沈む鳥かごへ駆け寄れば
初夏の陽射しのなかで彼は小さな亡骸と化していた
 ....
少年誌の山を崩し
初めて手にしたビニ本をめくることで
成人女性の身体には
モザイクという器官があるのを突き止めた
未知の感情に駆られ 求めた場所は
服を着ていたり
声すらかけられなかったり ....
皮膚の下に
いつも消えない断絶がある
電気が切れて、30分は
花嫁の
夢に用意した砂の中で
炎症している水を「見つけて

逃げてゆく
赤いキャップ、海の貝がら
いま此処には無い
心 ....
野良猫を叱るために
名前をつけた
せっかく咲いた花の匂いを
ふるびたさかなの骨で
台無しにしたからね
眠れるはずの夜は
色が薄くて
もう愛想が尽きた
昨日歩いた川べりで
 ....



ちゃぶ台をひっくり返す
それって池田屋階段落ちのカタストロフィなのか
それとも寺内貫太郎の癇癪玉が破裂したのに似ているだけなのか
亡くなった父親がちゃぶ台をひっくり返したのに一度だ ....
 
春が死んでいた
花びらもない
あたたかな光もない
ゼニゴケの群生する
庭の片隅で

地軸の傾きと公転は
果てしなく続き
生きていく、ということは
傲慢な恥ずかしさの
小さな積 ....
半世紀も祈り続けて
鳩が太っていく
公園の木は
故郷から引き離された子供のように
ぽつん、ぽつんと育って

生きていこうとする力に
種類なんか無くて
他人の生き様を非難できない
太っ ....
ぼくたちはきっと
忘れるために生きているんだね

呼吸の数だけ物語があって
さめてしまった二酸化炭素から
秘密の木箱に片付ける
時々開けて眺めては
過ぎた呼吸を試してみる

そんなこ ....
実家の外に片付けられていた
三十年近く前 他界した祖母の鉢植えの鉢達
捨てようと思っているが
欲しいか と母に聞かれ
年々 花作りに目覚めていく夫へ
古いものだが 洗って綺麗にすれば
買わ ....
   龍のみち
  風のかたち




  青より高く 
  のぼってく




  うろこ きらり
  こころ ひらり




  わたしも翔んで
   空をつか ....
予報どおりに
夜半から雨
街灯に照らされた水滴の連なりは、
白く
夜の一部をかたちにしてみせる
舗道の片隅ムスカリは
秘密を蓄え
雨に味方する
さわ、わ
さわさわ風に
雨糸揺れて
 ....
あさってが明日になって、
明日がきのうになってゆく
雲がごうごうと音をたてて流れる

ぱたぱたと急ぎ足に雨、が
足もとに水溜りを創っていく
あの透明感と少年、
紫陽花の色が変わり始める
 ....
せっかく森を着せてあげたのだから
木漏れ日のように微笑みなさい
せっかく草原を着せてあげたのだから
そよ風のような声で話しなさい

あなたはアミメキリンであり
トムソンガゼルであり
 ....
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