四つの脚をたて
温度の低い床に
椅子が停泊している
いつまでも出航しないのは
その方法を忘れてしまったから
ではなく
航行すべき海が
椅子の内に広がっているからだ
水が溢れ出さ ....
重い空気の層を
深く静かに潜っていく
透明なダイバー
海草のように
太陽の光を反射して
揺れるブラインド
妻が突然
勢いよく窓を開けると
マシンガンのように
降り注ぐ光の粒
撃 ....
ぼくは詩人
飾った言葉も
無垢な言葉も
言い表せない時もある
今日もまた
朝の散歩をしていると
白い蝶に出会いました
ふわりふわり
その飛ぶ姿を目で追う
ぱたぱた ....
本ばかり読んでいて勉強というものをまるでしなかったので、学校の成績は芳しくなかった。テストの成績は悪くなく、進学校にも行けないことはない、と言われたのだけれど、いかにせん、遅刻と欠席の回数が多すぎ、 ....
森の寝息が聞こえる夜
小さな生きものの見る夢は
無塵の砂丘にしみこむ雨の
蒼く芽ぶいた花の種
明日を知ることが堅く閉ざされている
明日を知ることの恐れを知っている
....
ぼくは詩人
自由とはその人の心が広いほど
広いものかもしれない
今日もまた
朝の散歩をしていると
1人の女性に出会いました
朝からお酒を飲んでいる
着ている服もヨレヨレで ....
影ン絵 つる 日の
下弦夜 つむ 火の
島 戸に 夕 かぜ
しまいを 往く つげ
傍ら 飛ぶ 身を
語らせぬ シャおん
かけせいて ほとに
かえせみに ほとる
つみ こ ....
限りあるものに呼ばれ
窓をあけ また
窓をあけ
どこまでもつづく
不透明の向こうの
限りあるものに呼ばれ
暮れる色は
知らぬ色
誰かが色につけた名は
そのままその ....
深夜の浜辺で
青白い顔をした青年は
{ルビ焚=た}き火の前で{ルビ膝=ひざ}を抱えている
肩を並べていた親しい友は
すでに家路に着いた
胸の内に引き裂かれた恋心
誰の手に ....
さかさまの本には
さかさまがたくさん書かれていて
さかさまに読むのに適している
でも目はひとつしかないので
ときどきふたつになるときだけ読む
そのほうがもっとぐるぐるするから
....
何かを考えるだけの血が
脳まで登ってこない
ほっこりとした二重まぶたの少女の絵を
どうしても描けないでいる
日光のなかの
なかば乱れほどけた金色
灰紫の瞳は
別の時間のた ....
散る散る ちるらん
花びらの
風に任せた行く先は
夏の匂いの西方か
揺り揺る ゆるらん
水面に降りて
さざめく海に恋がるるか
思えば君に逢うた日の
宵は海辺に砂嵐
さらさ ....
大理石の{ルビ初心=うぶ}な冷たさに
灰色の空のもと青い花が咲いている
わたしは、
結果の過程であります
いま見ている景色
いま聞いている音色
いま今は
すくなくともわたし、
うた ....
誓いの しるしは
むすばれた
手でなく たがいを
うちつらぬいた
星のきずあと
かわいいものは
みな食べられて
腹のなかでうたをうたう
とぅあららら ら
なんにも持たずにひとりのものは
なんにも持たずにひとりに生まれ
なんにも持たないうたをうた ....
夢のつづきを上映なさる、
あめ色に半透明な
翅のスクリーンに
隙もなく並べられた円卓が。
潤む瞳、
凸レンズ式の
灰皿におとした視線に煙り
鉛の筆跡で笑えず。
夕べは、霧の森で ....
かくしたの。
たまごかくして、
おいたの。
とんがり帽子に、
かくしたの。
帽子の中には、
にわとりさんがいて、
たまご暖めて、
いるの。 ....
明るい朝の日差しのなかで。
痙攣する手が手渡そうとする綿毛のたんぽぽ。
飛び立ってゆく綿毛、綿毛、
白いこどもたち。
白いのは綿毛ではなく世界ではなく私の視界でありより正しく言うならば ....
ただ一度
抱き締められた
その腕は
遠い日の
引き潮のように
わたしを
つれていってしまいました
ここにいる
わたしは
こい を
しているのですか
こい を
してい ....
眩む手にあふるる翳り冬と春
けだものよ応えぬ瞳応える背
降り止まぬ目に見えぬ雨降りやまぬ
花と骨つながるいのち星ひとつ
....
私が、いくら黒ずんだところで
霊を量れることはない
一度たりとも零さずに{ルビ口遊=くちずさ}むことなどありえない
月が、いくら青ざめたところで
距離に近づくことはない
離れるばかりで引 ....
私は歌人
自分というものは
他人がいてはじめて
わかるもの
今日は折りよく
朝の散歩をしていましたら
詩人に出会いました
毎日毎日
朝に散歩をしては
多くの人やものと ....
くるまって
まって一周するまで
くりかえす性
好き嫌いで見ちゃいない
忠実に実って
私種子を振動する
果物のコーナーで
ミカンやバナナ
リンゴキュウイイチジク
フルーツを物色 ....
亜光速で移動する阿藤快。
刀を振りかざし、
阿藤を追いかけるは、
阿刀田高。
その速度は、
もはや光速を超え、
時を遡り阿字本不生。
逃亡の果てに、 ....
「お土産は、何がいい?」と
聞かれたものですから
私、何とはなしに
「らっきょう」と答えたの
お父様とお母様が夕食後に奏でる
小気味良い音が好きなのです
ぽり ぽり ぽりり
....
ぼくは詩人
美しいものを感じる気持ちは
誰もが同じ
たとえ自分の世界が違っても
今日もまた
朝の散歩をしていると
歌人と数学者に出会いました
歌人は数学者に
短歌を数学 ....
花曇りの空に舞う胡蝶の
その透きとおった翅を
欲しいと思う
やわらかく笑う
ということを覚えたのは
いつの頃だったろう
新しいピンヒールが
足に馴染まなくて
ア ....
ほど近い、
雨音の届く、
屋根裏部屋で、
眠りは紡がれる。
了。
星の茂みの広がる{ルビ遠音=とおね}の空で
回音をのぼりつめて円頂で弾け
ふくらんでゆく
重い光で発散しながら
無重力して律動する心臓
瞬く今晩は
{ルビ青柳=あおやぎ}に迷蝶がさ ....
舗装された道の
ペイントされた、とまれ
踏みつけられた骨の色の
見上げる季節の樹香
舞い散ってへばりつく
美しいという名の死骸
立ち上がれない
ペイントされた、とまれ
月が ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192