生命線をなぞる
左手のひとさし指でいちど君と
出会った気がした真昼に
やさしく訪れるように降る雨が
こころに刺さる氷柱を一欠片ずつ
溶かしていく夜に冬が泣く
何度も読んだ小説の
一行 ....
きみはどこに向かって
帰ってしまったの
それともまだ
帰り道のとちゅうなの
迷っているのなら
この手を見つけてほしい
ぜったいにぜったいに
離すもんか
きみのことをおも ....
絆っていうことばがあって
糸へんに はんぶん
半、はもともと
牛の意味で
こちらと、むこう
分けられた牛
それをつなぐ綱ということ
絆
それは縛る道具だ
だからこ ....
消えない泡が
夜の空を見つめ
やがて
もうひとつの夜になる
曇を見るたび痛む目に
雨は常に降りつづき
左側が
見えなくなってゆく
縦の紙を手に取る
....
だれも傷つけたくない
傷つきたくない
底にあるものをつきつめない
ふんわりでいい
うおーっていうのは、なくていい
ひとりのいいねで満たされる
新鋭的な、斬新な
研ぎ澄まされた感覚 ....
鉱のような
父の服がある
洗ったはずだが
そうは見えない
裏地に牙が
見え隠れしている
....
人の子に似た声の機械が
荒れ野に山と積まれていて
自分以外を呼びつづけている
舌先に燈る火のなかで
ひとりの鹿が会釈する
目を閉じた笑み 風の音
水のにおい
....
鏡に飛び散る
灯りの欠片
黒の駒 黒の盤
目から胸から
誘われる水
想い出したように
音は湧き上がり
忘れたいかたちに
曇は泣きはじめ
うたも光も ....
清浄機ゼロ距離放屁で激起動
尿道の痛みと放屁の描く軌跡
放屁から放を抜いたら屁屁屁の屁
仕事中放屁はいつも風のなか
大怪獣もでんぐりがえる放屁す ....
夏
崩したり 回したり 子供の 将棋は 人生ゲーム
行水は 生まれた時から 温泉気分に
川遊び 魚と戯れ すべって ガブ飲み
大鰻 仲間と 捕まえ 魚屋へ つっかえされて 料理 初 ....
カウンターのお客と会話中 背後の壁にゴキブリ君
とつさに背中で隠す 板長
飲食中 トイレに向かうお客に ありがとうございましたー!
何! 俺に早く帰れか? まずい!
玉子焼きのオーダー ....
髪と髪が触れ
影になる
風のなかの粉
砕けて光る
ざわめきを登りつめたところに
廃線の花 水に浮く葉
ひとつひとつの滴に残る
まばたきの水紋
打 ....
女将が オーダーを 伝票なし 口頭で、 追いかけるように ホールの娘が 同じ注文
いよいよ開幕
小骨を つけたまま 刺身に、 セットと盛り合わせを 間違い 親子で もめている
鯖焼きひと ....
*
私がひとり降りた夜
バスは静かに荒く息を吐き出しながら
また次の者を乗せ降ろしして
それ自体 拍動しながら
もう 見えなくなっていく
のこされた私は
安堵を荷物に 歩き出す
....
美しい桜は子供たちだ
しかしカメラのメモリーには
扉ばかりが写って居て
警察を呆れさせる
俺の胸の皮膚が突き破られたのだ
二回も破談になるお見合いに
猫もあきれたのだ
昔とは違う
たっ ....
うなじから首から目から羽を吹き血を吹きながら辿る足跡
蜘蛛は蜘蛛何も残さず何も見ず虫を喰みただ夏に凍える
ふところの火を手に結び手をひらき何も無い日をかき分 ....
パズルの誤算は予想できない
「車の入れ替えパズル」があって
極めて世俗的な
ラッキーな蚋(ブヨ)が
やって来て私は吉央と名付ける
父が風呂で吐くのは
相変わらずだが
私が玄関の戸締りを
....
ひとりで ずっと待っていた
帰省先で亡くなった男性が住んでいたアパートの
部屋の畳は思っていたよりきれいだったが
乾拭きをして ちょんと座って
ひとりで 届くのを待っていた
荷 ....
いちごみるくのいちごとみるくをぱっくり分離した色の
花は散っていったけど
四月のバリアに張り付いて流れていったけど
またね
ありがちなころがる嘘につまずきたくて、
だけどおとなの ....
もうすぐ日がめくれ
いくつか数えた頃
かの女はバラをたくさん落としてきたが
もうプロポーズされることがなくなったからと
時ごと綿毛に包んで
夏の来ない春に明け渡そうとしている
....
ときはふらりとたちよって
触れるだけ触れて 去っていく
かなしみに火傷
体ごと持っていかれそうになる そのときに
飲まれては 足掻いて
手をさしのべるのはだれ
ふくふく小さ ....
ゆっくり育つ息子が
五歳にして
歩き始めたので
日曜日の公園へ連れてゆく
小さな影は、{ルビ日向=ひなた}にのびて
ひょこひょこ歩き
地べたに尻餅をついては
砂を、払ってやる
....
コの行列
撃鉄におされて
くるしいや
僕はあと何番目?
友達は何列うしろ?
パチン
パチン
規則正しく一歩一歩
われわれは進んでいくのである
おい ....
1 ある青年
この強力なバーナーから騰がる炎の熱を蓄えた
おおきな{ルビ布袋=ふたい}で空にのぼるのだ
「トーキョーだかニッポンだか知りませんが
ぼくには十世紀まえの遺跡です」
点在 ....
緑の宙に貼り付いた羽
暗い曇をくぐる曇
二番目の指で涙をこすり
終わらぬ宴の後を追う
くちびるとねじれ
溶け合う朝と みずいろの水
ひるがえる ひるがえる
火と灰 ....
繊細な感覚を奏でる音楽は
砂浜を横切る風の音に似ている
ヒュー、ビュー
それは脆く、脆く、脆く、儚く
吐き気が出るような血の色をしている
真っ赤な
無色透明な
想い出はそこの土の上に ....
祖父は生きている
話しかけても反応はない
2018年1月31日の夜
病床の窓から見えている
皆既月食の様子を
リアルタイムで
語り聞かせている
復員してから今日まで
誰にも明かされ ....
( 通過します 流れます )
月の音
しずかに
越えて
角から変わってゆく
白が舞って
瞳が生まれる
また生まれかわって
チャームがふりかえったり
いまの形
どんな温 ....
空飛ぶ家の 群れのなかに棲み
扉から一歩を踏み出せずに
眼下にひろがる風と原
飛び交う家々を見つめていた
街 クレーター 街
人と原は円く分けられ
薄い緑に吹かれて ....
キーツが本の中から語る
細い川の流れが、視える
道を歩くわたしの影にも
細い川の流れが、視える
時代も国も
異なる二人の間を
結ぶ
ときの川のせせらぎに
耳を澄まして歩けば
....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192