目の見えない人が歩く
前にいる友の背中に手をあてて
目の見える僕も歩く
いつも前にいる 風の背中 に手をあてて
そうでもしないと
ささいなことで気ばかり{ルビ焦=あせ} ....
誤解していた
満たされたはずの 海が
遠くひいていくような
それは
あなたの意味が乾いていく
雑踏の中で
あるいは
読みかけの本
ぱたんと 閉じて
私の中にある
....
散文的であるかも知れない
晴れ間を見つける
こころはいつも
古くはならない
あたらしくもならない
それが空なら
繰り返すものごとに
少しだけ優しくなれそうな
そんな気が ....
夕暮れの残照に透きとおる
樹々の枝葉のように拡がった
私の末梢
手のひらの静脈
幾度となく
訪問する季節を測り
文字にして書き写し
そしてこの夜の連なりへ
伸ばされた白い片腕から
一 ....
何度も塗りかさねた
漆の重箱をデリケートにひらいて
広がるのは非日常の香り
静謐であるもラグジュアリー
つみかさねた格式で
心の隅まで満たされる
そんな ....
喫茶店の中は
小さなロッジを思わせた
ランプの橙色の明かりは
それでもやはり薄暗くて
カウンター席の後ろでは
まだしまわれていないストーブ
季節に似合わなくても
この店には似合ってい ....
朝
君は 泣いて
朝
戸を閉めて
二人はもう一度夜を創造する
血 を ながして
朝
ひ か り
二人が生んだ夜を
野蛮な 夜を 漂白する ....
ペーパー
{引用=
深い紙の淵におちて
死ぬのは こわい
あんまり、静かだから。}
指
{引用=
白い紙面に落ちた
指は何を思うのだろう
静かに目をつぶって
目をつぶって} ....
東京と東京のあいだは
やはり
びっしり東京だった
銀色のパチンコ玉で{ルビ犇=ひしめ}いていて
覗き込めば
ひとつ、ひとつ
{ルビ歪=ゆが}んだ顔を映す
冷たい光の反射に
じっと身 ....
あれが彼です
と称されるところのわたし
火を燃やしているわたしが
彼ですのね
夜明けとの距離を埋めている燃焼
遮断する
いくつかの人影
少し離れたところにテント
もっと離れたところに村 ....
手すりのない屋上で
そらをとりもどす、わたしがいる
{ルビ限界線=ちへい}に浮かぶ遠い筋雲の
気流の音に耳をすます
わたしがいる
まぶたの裏に
真昼の月を新月と焼き付け
まぼろしではない ....
ちっちゃいころ
わたしのおへやはピアノでいっぱい
わたしのすわるばしょなどなくて
ピアノばっかりおおきなおかお
ひきたいうたなどひとつもないのに
なのにいまは
わたしのこころはピア ....
重工業集積地域を有する日本海に面した地方都市を、分断するように突き抜ける主要幹線道路国道8号線。その通りにある大型電機店の二階、超高画質薄型液晶テレビの前で私は見知らぬ年若いロシア人と隣り合って同じ画 ....
冬の雨が上がって
しっとりと潤った空気に
小さな蕾が目覚め始める
春と呼ぶにはあまりに早く
陽射が弱々しく届いて
蕾の外側だけがほんのり白く染まる
冷酷な北風には
他愛もない出来 ....
町も風もかなしく震えるので、
ろうそくの火のように、
さびしいやさしさで、
生きものは尖ってゆく、
のだと思う
生きものは、
風の群れ、
消え入りそうなほど、
ほそく、とがって、
....
夜が更けていきますね
送電線を伝わって
ふらりふらりと麦畑を行けば
ほら
電線が囁いている
星屑をまとった天使たちが
口笛を吹きながら散歩しているんだ
軍用ブルドーザーに破壊されたガ ....
白い海触崖の上
見渡す限りさえぎるもののない
広大な草原の真中にいて
両手を広げ
はたはたと
羽ばたく鳥のまねをしてみたり
帆のように風をはらみ
さらに白い空の彼方へと
消え入りたいと ....
あと二回満月に逢えば
わたし、ひとりと眠る
僅かに欠けた月を眺め
煩雑な世界に目を瞑り
生きて死ぬことだけを考えた
それからカァテンレェスを畳んで
大洋に堕ちる一滴の雨粒のように
短 ....
準備なんてしないでいいよ
きっと突然に現れるから
準備なんてする暇も無いさ
きっと突然に現れるから
44口径も要らない
もっともっと小さな鉄砲で
たった一人のヘルタースケルター
白黒 ....
ある朝に、新宿駅東口で待っている
(白くうずくまっている 無音の質量を
回転している(絶叫をとおりこした)声が
雨 のおくへと響いていく
来るのかしら
(いつ?)
遠くはるか遠く
....
あたしのスカートの
端っこを切ったのは あなたでしょう?
羽をばたばたさせて 空に浮かぶ
髪が伸びたので あたしは飛べるようになった
まっさらな夜を
あなたの匂いをたよりに飛んで
....
そこに
ひめられたもの を
ちから
と よぶ
だいちの ち
わたしの ち
ちえの ち
ち に ひめられたもの
ち から
うまれでるもの
....
おかもと君は
わたしの初めての人に
なってもいいと思ってたのに
夢ばかり語って
てんこーして行ってしまった
手紙を書くよと言ったきり
年賀状もこなかった
おかもと君の夢は
とほうも ....
痛む胸の真ん中で
紅い小鳥が叫ぶので
今夜もうるさくて眠れやしない
不規則なリズムで
小躍りしている
僕は起き上がって
小鳥を宥める
あと少しだけ時間をくれ
....
落ちては昇り
また落ちてゆく
雪は少しだけ
雪でいられる
傾きが降り
ひとときが降る
音は音のまま
姿を散らす
ひとり離れ
ひとり着き
ふたりにならぬ足跡の ....
月の 蜂つぼ
ねかせられた
宿のない小石
そらんじた沈黙
からかうような
漆黒の 隙間
吹き矢に痺れる
鈴の壊れそうな
苦みになく小声
外堀の端に 蝶が あら ....
さようなら
冬の中では決心も幾分
凛としている
さようならを投函しようと思うのでした
さようならを投函しようと思うのでしたが
ポストの投函口は
市の条例とかで封鎖されてしまい
更には ....
改札口の向こうで
ピアノに蟻が集っている
きっと甘いんだろう
ハモニカを忘れてきた駅員が
時刻表に小さな落書をする
間もなく秋が来るのに
量が足りてないのだ
まだ君と僕とが出 ....
窓を揺らす透明を
娘たちの時間はすぎて
雪のなかの双つの道
どこまでも淡く
双つの道
青に添う手
剥がれる陽
いとおしさ 望みのなさ
左の目にだけ降りそそぐ
....
幼い頃に広かった幼稚園の庭。大人になって訪れると
不思議なほど狭くなっていた。密かに憧れていた保母
さんは、ふたりめの赤ちゃんをだっこして。お腹の太
ったおばちゃんになっていた。
年を重 ....
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