昭和十九年七月二十九日、ビルマ國ニテ戦死。
仏壇の片隅に置かれた位牌の主を
私は知らない。
毎年お盆になると
固く絞った白いタオルで先祖の位牌を磨き
家族みんなで迎え火を焚く。
....
あたしたちはむかし
旅をしていた
ジョナサンみたいに
求めるもののある旅だ
いつか終わるとは思っていた旅を
いよいよ終えたとき
わたしたちのどちらもそれに気がつかなかった
世界は ....
コンビニのドアが開き
ひらひら舞い出たモンシロチョウ
誰も見てはいない
光は雨みたいに激しく額を打ち鳴らし
影はつま先から滾々と湧き出している
こんな日だ
わけもなく後ろから刺され ....
おかあさん、あなたのいない夏がまた来たよ
そうしていま選挙の時期です
口癖のように歌のように
あなたはいつも
社会貢献できてわたしの人生は幸せよ。
そう、甘ったるく高い声で
誰にも有無を言 ....
ごめんなさいを言うように
雨粒がボンネットの上にたどりつく
別に謝る必要はないよ
アーティスト名を手繰りながら
探す曲がみつからない
もしかしたら
入れ忘れたのかもしれない
カフ ....
「愛情不足だったから
棘だらけになった」
――サボテンが?
自分の間合いで生きればいいさ
手前勝手になれなれしくするやつは
痛い目に合わせてやればいい
傷ついたなんて言う ....
スーパーカップを平らげて
もう一個食べられそうな
そんな午後
二歳児がゆくどこまでも
小石を拾いながら
もう何に怒っていたかも忘れて
落ち着くための珈琲も忘れて
時にバンボを ....
嘘をつくたびに身長高くなる酸素薄くて息が苦しい
六月の歩行
脳は油漬けのツナ缶だ
余分な油分を切らないと会話すらできない
スーパーの
しんせんな野菜とおじさんの動作は甲殻類の一種
れたすを手ではかるように
わたしの頭の重さ
見直してく ....
鏡の前の裸を殺す。
ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる、
揉みほぐし、
パンを捏ねる。
肉体パン。
じゃがいもの塊。
括れも曲線もわずかにしかない、
皮膚のしたにまとわりつく、
べっとりとした臭 ....
トッポギ
(突然六本木に行くこと。)
韓国のお餅ではない。
うっちゃり
(うっかりぽっちゃりしてしまうこと。)
相撲の決まり手ではない。
ネット用語はどんどん進化しているよ ....
腹痛を誰かに八つ当たりしたいけれど
この部屋には他に誰もいなくって
八つ当たりできる心当たりもなくって
外へ出かけることもできなくって
身を捩らせ
冷や汗をかき
呻き声を上げ
恐れ慄き
....
十八歳はまだ子供だが
大人が思っているよりは遥かに大人だ
たぶん
若者が政治に関心を持つのは良いことだろう
だが若者を自分の陣営に引き込むための諸々の画策は
わずかばかりの党員予備軍を生 ....
足音は足跡から乖離する
帯びた意味を秘めたまま
けむりのように漠然と白い
地球を見上げる朝に
ちぎられた円環のビーズ
偶然が描いたあなたの星座を
子猫がシャッフルする
無邪気さと予感の熱 ....
呼吸を阻害されて、コンビニで売られている愛を、残らずレンジでチンして放課後食べる。季節が人工的に作られたものだってことぐらい、街路樹を見ればわかる。吹き抜ける風はいつだって戦争の味がする。かわいいもの ....
《xの証言》
至近距離で放つ放たれ
る言葉は殺傷能力が高
過ぎるので厳しく禁ず
るべきだと言ってみる
言ってみないとならな
いなんて定まる定めら
れた方法論は捨ててし
まえこれはな ....
気休めな水に放てば金魚らはひと夏きりの命を泳ぐ
六月に不似合いなほど晴れていて昨日の雨がわたしを映す
透明な花瓶の中で紫陽花の茎の模様が屈折してる
雨か汗滴り落ちて黒く染み黒いTシャ ....
わたしの愛しいお月さま
借り物の光で身を装いながら
あなたは女王のように天を渡って往く
わたしの愛しいお月さま
ちょっと見わからないが肌は荒れ
あっちもこっちも傷だらけ
わ ....
夢に置いて行かれた大人たち
ライバルに置いて行かれないように
綺麗に並んだ椅子を奪い合う
口寂しくて火を付ける煙草の
先端は丸く風船のようで
西日が差し込む窓辺の側に
夕陽と炎の赤いパ ....
僕の体が
小さかった頃は
ジャングルジムの
窓を潜り抜ける
トンネルは
光だと思っていた
ジャングルジムから
二人が生まれて
絡み合う夜は
窓に鍵を掛け
トンネルは熱だと
思 ....
俺は仲間に大きい顔をしたくて
道のタンポポを千切って吹いてみる
....
立入禁止のスイートルームで
締切間近の原稿を書くと
昨日まで普通に見ていた空が
今日は灰色の壁に塗り変わる
バゲットとチーズとワイン片手に
イマジネーションの旅を始めても
憧れ ....
雨が降るのは拒めないが
雨降りに何をするかは選ぶことができる
濡れたくなければ家から出ないことだ
出かけるのなら傘を差せばいい
傘がなければ濡れるしかないが
傘を差しても多少は濡れる
濡れ ....
僕の部屋は詩と光で満たされ
君という音楽が遠くから流れてくる
部屋干しのジーンズがぶら下がり
台所には洗い物が山積みなんだ
愛用のマックもコーヒーやスナック菓子の砕片で
薄汚れてはい ....
寄る辺のない心持で湖岸に一人立ち尽くす。
微妙な色彩で空に浮かぶ雲のように時間だけが過ぎ去ってゆく。
確かなものは目の前の現実だけというのはあまりに寂しい。
まるで見向きもされなくな ....
貴女の母国の言葉を教えてください
いつまでも話していたいから
貴女の好きな花を教えてください
部屋いっぱいに飾り付けてみたいから
貴女の好きな小径を教えてください
ときどき散歩に誘っ ....
嫌なことだらけ
だけど
いいねと思える表現以外は許されず
まるで
社会の足を引っ張るなと
溜めさせられ続け
生きることなどナンセンスと歌えば
母に叱責を受け
....
かすかに聞こえる
なつかしい声は
わたしでない誰かを呼んでいる
昔飼っていた犬や
死なせた金魚
履かないままくたびれた靴
そんなのたちを
呼んでいる
待っている
のは
....
(この夢に栞を挟んでおけるならまた会えるのに)おはよう小鳥
きょうはたのしいお祭りだ
夜の恐ろしさを鎮めた神社へ行くと
本殿へとつづく参道の両脇に
LED提灯が吊るされて
ステテコに腹巻のおじさんや
派手なアロハを着たおにいちゃん、
ポニーテイルの ....
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