がいこつつづり
田中修子

おかあさん、あなたのいない夏がまた来たよ
そうしていま選挙の時期です
口癖のように歌のように
あなたはいつも
社会貢献できてわたしの人生は幸せよ。
そう、甘ったるく高い声で
誰にも有無を言わさないように
偉大なものに盲目に繰り返し
わたし、かなしかったの。

おかあさんわたしのひりひりが治るまえに
あっけなく死んでしまった
駅前のスーパーに買い出しにゆくと
街頭宣伝が活発です
わたしをみるたびに党員のひとが
**子さんの娘さん。
ところころわたしを呼ぶのです
わたしの名を呼べあんたらドあほか。
となじりたいのに、おかあさん、わたしは微笑って。

だれかがわたしの傷をふさぐことはできないのだと
数人目の彼がおかあさんのようにわたしを怒鳴るようになり
つくづくしみました
わたしはいまひとりで
老いた犬と、ぜんまいをまく朝顔と暮らしています
大きく政治が動き
理想が燃えあがるいま、そのうしろでおかあさんを懐かしみ
わたしの心はまるで火葬場の真っ白な骨のよう
それでもわたしは笑うのです、そうして柔らかな言葉を連ね。

誰かに好かれたい詩を書こうと揺れるとき
おかあさんあなたに削られつくして
わずかに残った魂をまたはかりうりするような
そういうのはやめるのよ、これから魂をうんでゆくの
わたしは今日の
真っ白な雲をまき散らした
真っ青な空をえがき
洗濯もの乾かす端からからりとして気持ちいい
そんな静謐な日々を綴っていく。


自由詩 がいこつつづり Copyright 田中修子 2016-07-02 16:34:23
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