私は父親の顔を知らない。
けれど私の顔は、父親にそっくりだと
ある日酷く私を殴った後、母が吐き捨てるように言った。
腫れて赤くなった頬を氷で冷やしながら
私は鏡を覗いていた ....
雪が僅かに消え残った海岸に
揺れているのは去年のススキだ
長く厳しい冬の間
雪に埋もれて立ち続けていた
ススキはいつ倒れるのだろう
既に枯れているのに
命の抜けた穂を振って
いつまで風に ....
るる、と呼べば
りら、と響く
それは歌
スノードロップが
白い鈴を鳴らしている
水仙が
黄色い笛を吹いている
{引用=合唱団の申し込みは
春色のポストへ出してください
....
みつめる
みつめる
じっとみつめる
そうすると
何かが
語りかけてくる
種を手放したあとの
たんぽぽが
茎に残された
小さな瞳で
私をじっとみつめる
世界には
なんと
....
――再び発つ、と書いて「再発」という――
*
「人間はふたたび起きあがるようにできているのさ」
いつも眼帯をしてる{ルビ達磨=だるま}診療所のヤブ医者は
片っぽうの目で ....
うっすら目が開く
窓の外は光で満ちている
部屋の中で春の匂いでいっぱい
蛹が孵化するように起きて
あんまり心地良いので二度寝
お昼過ぎ
町は活気で満ちている
生活の音が聴こえてくる
....
風は確かに冷たいのに
午後の陽のぬくもりが
耳に触れた
除雪作業が終わった後の雪道は
目を開けていられないほど
強い白さだ
瞼の隙間で青空も霞む
静けさをカラスが横切っていく
....
僕たちは公平に接しているか
子供だというだけであるいはステイタスであなどったりはしていないか
フェアには美しいという意味もある
美しいものはおそらく作為もなく公平なのだ
ともす ....
桜に出迎えられると
晴れがましい気持ちになる
今日の新入生という
気持ちになる
薄い白は
希望の色か
あおいそらにすけて
今日もわたしはがんばろうとおもう
{画像=130125214730.jpg}
フェイク
と
するか
味わって
別
と
するか
似せながら
全く別を目指すのは ....
今夜もまた誰かの悲しみが裂けてしまった
梟の眼が光る孤独の森
冬の尖った爪が人の夢を引っ掻く
日が昇れば
何も聞こえなかったように
白い雪の舞い
光が冬の仮面となり舞踏会
....
あっちにとっちら
こっちにとっちら
あてもないのにとっちらとっちら
お金もないのにとっちらけ
何かに期待して
誰かに出会うつまづきダイビング
ころがるこころが
....
中学時代休み時間に
座布団を手に巻いてボクシングの真似事をして遊んでいた
遊びとはいえけっこう幼い意地をかけて遊んでいたが
伊藤くんにはどうやっても勝てなかった
陸上部で細身で動体視力 ....
つぎの約束をしよう
どんなに小さなことでもいい
それで明日が約束されるわけでも
約束が約束されるわけでもないけれど
つぎの約束をしよう
約束は絶対ではなくて
約束を ....
ボタンがとれたシャツやズボンがある
もう何年もそのままほったらかし
衣替えの季節になると
そういえばといって結局ほったらかし
ただ今日はなんだかムズムズして
針に糸を通す
ボタンをつけ ....
雨になんて
うたれたっていいのに
逃げている 背中丸めて
桜だけが
受けとめている
雨滴
弱虫だね
私たちみんな
それをよいことにして
よりそうきっかけにして
雨滴 ....
ショッピングセンターの駐車場でカレーパンと牛乳でお昼を済ました
なかなか家に帰れない
僕の家って本当は彼処じゃ無いんじゃあないのかなんてねときおり思うんだ
誰も待ってないし読まない新 ....
レストランのウィンドウ越しに見える殺風景
横浜根岸の崖の上
そこから見下ろす港の様子
コンテナ船が往き来して、
その陸揚げ作業がのぞき見られる
行き交う大型コンテナトラック
夥しい数のコン ....
小さな音にも
怯える夜
泣き虫のわたし
行き場のない衝動を抱えて
闇に眼を凝らす
枕の下で圧し潰された
我楽多の夢を探しながら
夜 ....
どんなに美しい言葉も
ひと房の桜の花には
かなわない
何も語らなくていい
ただ眺めていよう
桜の季節を
ピンクのイルミネーション
....
いつか見た空
転がり落ちて
じぶんがなくなった
いつか見た空
せいめいは
はねかえす水
少年だった僕には
都合が良くなかった世界
世界は ....
真っ赤な林檎の皮をするり剥きますと
白く瑞々しい果肉が微かに息づいて
頬張れば甘く酸っぱく
口いっぱいに広がっては
心地良く渇きをいやしてくれるのです
そのおんなもまた
高い梢に輝いた ....
約束通り 同じ橋に辿り着いた
花冷えのお陰で まだ
ソメイヨシノは競っていた
所々 吹き出した新緑が 目に痛く
未来への想像の刺激となる
川辺は穏やかな戦場
はらり ....
うぐいすが鳴いた
私を出迎えるように
うぐいすが鳴いた
姿をみせないままに
うぐいすが鳴いた
去年の今頃と同じように
うぐいすが鳴いた
ききなれたその声に
気持ちが晴れ ....
晴れた日のアスファルトは
優しい日射しも、照り返す
雨の日のアスファルトは
小降りの粒も、無数に弾く
土のこころを知るならば
土のこころを知るならば
空の言葉は我 ....
精子の姿は、魂に似て
お玉杓子は、音符に似て
もし、魂が音符なら
メロディは
五線譜を泳ぐでしょう
無数の精子と精子の競争を
勝ち抜いた選ばれし精子よ
君は辿り着 ....
二時半は、二時半で、いつだって
ロッキングチェアの揺れない時刻だ
海辺の街でもないのに
波の音が聴こえるのは
朽ち果てた夢のせいか
それとも途切れ途切れの記憶のせいか
家族の温もりが残るリ ....
終わったはずの青春が
皮膚の微細な穴を通って
少しずつしずくを蓄積させていって
何かの風向きで強く匂う
孤独の針が何千本も
「誰にも愛されない」と囁く
雑草のようにいくら引っこ抜いても生え ....
街道を歩いていると
簡素な無人野菜販売所が
所々にある
鮮やかで不格好な食物たち
私は頭がひょこっとでた三宝柑と
真っ赤な唐辛子を買う
路地を曲がるとワゴンから小さな女の子が
飛び出 ....
葱。
葱をみている
きざみ葱を頼まれたが
青い部分ばかりで一パックこの値段とは
いかにも法外である
ひと振りの葱を取り、握りを確かめる
銘刀「下仁田」ほどではないが
なかなかの白鞘で ....
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