土脉潤起
つちのしょううるおいおこる
雲がほどけて
雪がこぼれる
北がやぶれて
風があらぶる
音がとだえて
水がいてつく
光がとおのき
命がしずまる
雪 ....
初めての学芸会は
サルカニ合戦の
蟹の役だった
いとこのよっちゃんは
猿だった
元の話は
硬い青柿をなげつけられて
つぶれた蟹の卵から
子蟹が出てきて
助太刀を得てみごとに
親 ....
うっかりとすずめの焼き鳥食べてから雀の顔を直視してない
何年も開けられてない旅行カバンとんでもないうっかりが出てきそうで
ガソリンいれるとこなんで開けっ放しなん? 娘の指摘にうろたえて あ ....
いつも
車両に乗り込んだ人は
先から乗ってきた人に
目で挨拶を交わしたきり
閉じたままの窓の外へ
視線を泳がせたまま
死んでしまう
いつも
死んだ人間が運ばれていく車両に
今日 ....
スーパーで並んでいたときのこと
小学校一年くらいの男の子が
母親とおぼしき人に
何やら言いに行ったかとおもうやいなや
ばしっと音が響きわたるほどの勢いで
頭をはたかれた
理由はわか ....
うまくできないことがある
話がわからないことがある
それは要領が悪いということで
生きるには少し難しい
私と逆の人たちは
倍の量の作業をこなす
どうしたらそうできるか
教えてくれる人 ....
蟹は
前を向きながら横へ進むのか
横を向きながら前へ進むのか
蟹のからだの構造上
顔のある方が前だから
蟹は前を向きながら横へ進んでいるのだ
が しかし
蟹も何か目的を持って進んでいる
....
目がさめたら
やけに喉が渇いていた
水を飲もうと
池のふちで
身をかがめると
なぜか
バランスを崩し
水の中に落ちてしまった
泳ごうとしても
体は重く
水の底へ沈んでいく
....
私は十三年間
薄暗い工場の中で
機械の一部になって働いてきました
小さな子どもを連れて離婚した
若くもない女には3Kの仕事しかなかった
子どもを保育園に預けて働いた
毎日々
ベルトコ ....
このゆびとまれLet It Bleed
鏨(たがね)を打ち込む
光沢のある表面に
一閃の傷をつける
堅固な光沢のある表面に
鏨(たがね)を打ち込む
切断する術は腕一つ
振り下ろす鉄槌の微妙な躊躇は
表面を滑り鏨(た ....
銀盤の周囲には
金や策略やら
得体の知れない黒いどろどろが
埋まっているとかいないとか
それと比べたら
ライバルのスケート靴に
画鋲をいれちゃうなんて
(そういう少女漫画があった)
わ ....
むかーし旦那にライバルを襲撃させたなんつう
事件があったけど
(そうそう、トーニャ・ハーディングだ!)
それもなかなか難しいから
もっと現実的な方法として
下半身丸出しで演技するってのはどう ....
父は今日
返事をしなかった
話しかけても
目だけはじっと
私をみていた
まゆみだよ
わかる?
といっても
黙っていた
聞こえる?
と聞くと
うなずいた
声は ....
洗濯物の模様になって
取り込まれたテントウムシ
手足を縮めて
ぼく死んでまーす
アジサイの葉に
赤と黒の水玉模様
手を触れれば地面に落ちて
ころころ転がり
ひっくり返ってぼく死 ....
金属の目録に眼を通した
あらゆる色彩がひび割れる時刻に
百万年かけて落下する思考の速度で
澱んだ大気の底に広がる地衣類のような
無数の金属の結晶が犇めく都市の上空から
走査電子顕微鏡 ....
熱燗の、おちょこの横の
受け皿に
五匹のししゃもが銀の腹を並べ
口を開いて、反っている
いつか何処かで観たような
あれはピカソの絵だったろうか?
絶望を突き抜けてしまった人が
空を仰 ....
ソチ・オリンピックのテレビ中継で
上村愛子選手の姿を見て
ぐ…っと来た、僕は
少々涙腺を緩ませながら
隣に座る、妻に云った。
「攻めに攻め、金にも勝る、滑りかな」
数日後、シスター ....
セックスからはじまる現代詩
それは、
無駄に多い性描写
童貞のまま月にたどり着いたロケット
セックスからはじまる現代詩
それは、
風景に溶け込めない看板
ギラギラよりラギラギした看板 ....
探した言葉は
たくさんあるのに
今となっては
頭の中に
その痕跡すらない
忘れたわけではない
はじめから記憶されていないのだ
私が探した言葉は
すでに
白い霧の中に紛れ
再 ....
釣り堀で釣りをするのがすきだ
どこへもいけない水の底で
大きな魚がひそんでいる
敵は慣れたもので
エサが沈んできてもあわてない
口先でふれては
はねかえる糸がエサを落とすのを待って
....
わたしを生んだ
女をわたしは知らない
影も匂いも
どんな音を発するのかも
なにひとつ知らない
わたしを抱いて
わたしを褒めて
わたしを叱って
わたしを守って
....
斜面の彼方
架空の消失点に向かって
きみは加速する
ゴーグルに叩きつけては
後方へ飛び去る風が
喝采にも罵声にもきこえる
そのクレシェンドの頂点で
はるかに強く
心音をたたきつ ....
少女がしゃがみこんで
草むらを見ている
ふいに振り返り
その昔
あなたはわたしだったのと告げる
小さな瞳を通せば
草むらは森になり
水たまりは湖になり
その村の地下組織に住まう ....
お経のチーンの余韻の中の中
【透明なマグマ】
あれからというもの踏切が 透明なマグマだ
車を走らせていて
次第に車を減速させ
遮断機が ゆっくりと降りている
車と車の隙間を ゆっくりと歩いていた猫が ....
もうただ怒ることはやめた
自分にも
他人にも
一時の感情で怒るのはただの急ブレーキだから
僕はもっと前に進みたい
いつもゆっくりアクセルを踏んでいたい
楽しくハンドルを回しながら
....
疲れ果てて帰ると
男がにゃんにゃん擦り寄ってくる
うざー という顔をすると
男は しゅーん と窄まる
テーブルの上に包み紙
白い皿に茶色いパンのヘタ
とっておきだったのに
あたしのカ ....
如月草をご存知ですか
たとえばそれは
荒野をわたる風のなか
ささやかに
桃いろに
揺られています
如月草をご存知ですか
たとえばそれは
星座をたどる指のさき
あやふや ....
ある日窓から花を投げた
あのひとが受け取ってくちびるに寄せてから
あのひとが好きになった 恋をした
みずいろの花 むらさきの花 そしてあかい花
あのひとはすべて受け取ってそっと胸にしまった
....
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