ビルの谷底では
夜が
空よりも少し
早く訪れるだろう
何冊かの読みかけの本の中から
数ページ角のすり切れた
ものだけを選び出し
それを
開こうかどうかと
迷ううちに
街灯の月が ....
優しさだけの 生まれもの 頂きもの
それだけでいい
忘れてあげるという上からの目線も忘れて
眺めている 瞳任せの 涙の幕は天色
肌をすり抜ける 天色 人生を泳ぐ波の皺 十二単で今世
....
予感ではなく、確信である
わたしは未だアイデンティティークライシスであると
そう、最期のときまで
ありがとうと言えたとき
きっとあなたとは二度と会えなくなって
それまでは
我慢してもらって
ごめんなさい
一番大事に伝えたい言葉だから
本当の最後に伝えようと取っておく
あり ....
歌詞のない歌を
歌うあなた
あなたが歌う
その歌に
言葉を添えたいと
言葉を紡ぐ
この想いは
熟れて落ちた
柿の果肉のように
足元に飛び散って
あなたに届けることは
もは ....
ほんとうのこと
それは大抵が言ってはいけない
どんなに親しくなっても
むしろ親しいからこそ言えない
私が真っ黒なこころの持ち主で
ほんとうのことはいつだって真っ黒だから
もしだ ....
火が
ほしかったから、
そっと
恥じらいをまぜて
お月さまに
耳打ちしました
そっと
まるで
玩具のような運命の
わたしです
あわい
夜の吐息にさえ
消 ....
やわらかなわたしは
凍結することが出来るから
やわらかくなど
ないのです
冷ややかなわたしは
あこがれを抱いていたりするから
あつく出来ているのです
本当は
空から ....
冬枯れの樹の下でなぜ孤独を感じる必要があるのだろう。
そんなことを自分に問うた事のある人が一体いくら在るのだろう。
自分に課した約束を反故にした人は一体幾人いるのだろう。
犯した罪の ....
駅前の透き通った路地から
斜めに下っていく
陰だけの旅人
人を信じることを信じることができずに
スーツケースの中では きっと
愛の源がくしゃくしゃになっている
バスのタイヤに初々しく視 ....
夜も光が満ちあふれている
というのに何という暗さだ
積乱雲の内に潜んでいた狂気が燃え上がり
炎となってなだれ落ちた北の空
燃え広がる炎は山を飲み込み
夜と昼 夏と冬が入り交じった都会の
....
主人公であるなら
殺されてはいけない
最初に殺される被害者は主人公ではないからだ
犯人か探偵であるべきだ
だが誰かが殺されなければ
犯人は犯人たりえず
探偵も登場しないだろう
つまり殺さ ....
言葉にしないことがある
このことを言葉にすると
君の不安が増えるから
だって
言葉は
安心より不安に寄り添う力が強いから
言葉にしたいことがある
このことを言葉に ....
木のおもちゃには
ぬくもりがある
けれどもそれは
物の扱いに手慣れた
おとなの語り
おさない子には
木は硬い
角を落とそうが
やすりをかけようが
木の硬さはなくな ....
一話目で凍てついて死ぬ主人公
ギャフンと言おうとして舌を噛んだ
ぽつん ぽつんと空から降りてきた 冷えたつぶは
壊れそうな私の身体に ぺたっと張り付く
いつかスキー場で見たサラサラした雪ではなく
もっと水分を含んだべったりしたその物体は
私の冷えき ....
パスカルの「パンセを」を開いたまま
{ルビ転寝=うたたね}をした、瞬時の夢の一コマで
見知らぬ教師は
黒板の上から下へ
まっすぐ白い線を、引いていた
そこで目覚めた僕ははっきり、{ルビ識 ....
めらめらと、只めらめらと
燃えさかる火を、胸に潜めて
{ルビ一日=ひとひ}を生きよ――
気づけば、今日も
日は暮れていた…という風に
髪についた雪を払って
傘も持たずに街を歩けば
見慣れた景色は別世界
眩しいほどの銀世界
ふかぶかと残したはずの足跡も
振り返ればもう微か
念のため確かめてみたけど
両足ともにちゃ ....
正しくありたい
そのときどきに
間違いなら間違いの中で
正しくありたい
他と違う
そんな風でなく
まったくおなじように
正しくありたい
いつでも
違っているから
自分が だ ....
光の子供たちが浮遊する緑野に
きっとこころの種もあるのでしょう
跳ねてはしゃいだり転げたり
悪さをして群れている子供たちに混じって
金色の繊毛におおわれてふわりと浮かんでいたり
葉に ....
かよわい肌の持ち主は
男のほう
繊細に消されていった
煙草の匂いは
指にも
首にも
移り住む
男を選んで
移り住む
男は
確かに直線的だ
けれども ....
焼き芋の包まれている新聞紙かすかなインクの匂いも食す
くくられた新聞紙の椅子の上あごひげという名の猫がくつろぐ
ちぎられて水にひたさればらまかまれほこりにまみれて新聞紙逝く
世の中の ....
死を避けてホルモン注射の痛み
夕暮れの空を見上げると
今日はお月さまがいない
と思ったら
真上やや後方から呼ばれた
「ココニイルヨ―」
ふりあおぐと三日月
こないだ見たときは
真っ黒な空の真ん中で
薄笑いの口みたい ....
雨の中カラスが世間話をしていた
黒い仲間は
雨にむかって顔をあげてとんでいる
そうだ
カラスは雨をこわがらない
どうしてわたしたちは
雨にうたれるとうつむくのだろう
どうして
....
明日は待ちに待った卒業式だ
そして
俺はこの日を待っていた
明日で中学は終わり
みんなバラバラと散らばっていく
背水の陣
退路は断った
まゆみに
俺は今日告白する
「大事 ....
あれも喰おう これも
と皿に盛り上げた品々
同じ料金ならば
というケチな根性
ではないのだけれど
食い始めて
ちらっと目に入る隣のテーブル
皿にはサイコロステーキが載っていた
....
婚期の逃げ足に追いつけない
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