掴む
あなたをしることは
太陽をつかむよう
刻んだ空の破片を
脇に抱えて
あなたを見つめると
丘の上の鐘の音が七色に飛び散っている
あなたはいつもそこで
わたしはいつもここ ....
なつかしい猫
いつか啼いていた気がする
私だけの思いが影を引いて
路地を今曲がってゆく
そんなに淋しい瞳で
私を見つめないで
やさしく撫でてあげたくなる
さしのべた指先を ....
(1)
あなたにはじめて出逢ったのは
この廃屋が未だ駅舎として機能していた頃のこと
夏草の浸食に怯える赤錆びた鉄路と
剥がれかけた青森ねぶた祭りのポスターが一枚
この駅を訪れるひとと ....
生まれた時から存在するものは
当たり前にあると感じてしまう
あおあおと茂る緑の大地も
いつまでも続くと思ってしまう
だけど激しい雨が降り
容赦なく花を枯らすだろう
だから忘 ....
雨が歌ならば
それはどんな傘でしょう
歌のような気がするだけで
それはふるえる
息継ぎの音
近すぎた鼓動の足音
声を聞いた
傘の下で
たしかなこと
待ち合わせた雨の庭 ....
凪いだ湖面は穹
白色の羊雲に
そうっとつまさきを乗せる
溶け出した肌色
ペティキュアの赤色が
波紋に引きずられるように
湖岸に打ち上げられるのを
静かに見つめながら
わ ....
何の前触れもなく
私の
頭の中で、
光が
生まれる瞬間がある。
あなたのまなざしの
中心から
少しずれた
小さな部屋の中で
聞きなれない羽音が
響い ....
鏡に映るのはどんな顔?
寝癖をジェルで整えて
冷たい水で眠気を覚まして
ネクタイを強く結んで
勢い良くドアを開けよう
少し斜め上を向いて
お陽様とにらめっこして
こ ....
金魚になるのは
おとなになって初めてです
金魚の糞みたいに
いつもお母さんにくっついていたので
彼女は金魚ちゃんと言われていたのです
そんな話をしたら
さっそく金魚ちゃんと呼ばれてしまいま ....
静脈を流れていった
幾度かの夏がありまして
網膜に棲みついた
((ただそれだけの))海があります
無人の駅舎―――ああ、思い返せば
入り口でした この仕掛け絵本の
....
金属ブラシで懸命にこすって
庭の水道で洗い流すと
スコップも裁断ばさみも
見ちがえるようにきれいになった
せっかく用意したリュックには
けっきょく
詰めるものがなにも思いつかない
縁 ....
にゃっ、にゃっ
にゃっ、にゃっ
窓の外から子猫の鳴き声
にゃっ、にゃっ
にゃっ、にゃっ
遠慮深げな、物問ひたげな
「先生、夜分に恐れ入ります」
子供の神妙な声がする
「母が ....
{引用=刻む秒針の 大時計の音が気になるので
夜中の階段を昇るのだ
光る猫や人形の目を避けるように
しずかに しずかに 足音たてず
針はとまる
真夜中に僕の亡霊は 音のないダ ....
桜の花の咲くころ
おれは嬉々として
この職をさろう
そして
この
木の香りのする
おれたちの
新しい住みかの
ペアガラス越しに
ゆったりと
ゆったりと
桜の花をみよう
きみ ....
寝苦しく目覚めた朝に夢うつつ
激しく窓をたたくたたく雨
雨音を思えば雨が支配する
人を思えば雨の一日
アンブレラ覗いた瞳くぎづける
すれ違いざま舗道の ....
同じフロアの同じ間取り
南西向きの小さなワンルーム
好きなひとの去ったベッドに横たわり
ひとりの男の死を想ってみる
駅前のスーパーで買い物を済ませ
近く有料になるとかのレジ袋をぶら下げ
....
思い出し笑いを
小さな箱に詰め込んだら
いつかのクリスマスプレゼントの
きれいなリボンで飾ってあげる
右手には甘いキャンディ
左手には苦いチョコレート
どっちもあげない
どっちもあげ ....
彼女の誕生日は七月七日
七夕の日です
そのせいかどうか
彼女は星がとても好きなのです
星のブローチとか
星の携帯ストラップとか
もしかしたら
三つ星のレストランとかも
でも彼氏は
せ ....
おまじない
君の名前を書く
君の名前を書く
君の名前を三度書く
そうしたら
嬉しくなって
なんでも叶う気がしてきた
信じられる
信じられる ....
数多(あまた)の田は
既に水が張られ
夜ともなれば蛙が鳴き、
やがて狂おしいほどの肌の火照り、
野鯉を釣った後の
烈しい血の騒ぎも抑えがたく
儀式は、六月のうちに
さも義人を装って
....
はじめは
音もなくただ
切り取られた絵を
見ているようだった
気付けば
あたりいちめん
降り続いていた
ほそく長い銀色の
むせ返す空気を
土に
留めておくように
....
カラオケ帰りの深夜二時
車を止めてエンジンを切ると
無音の空間が一面に広がり
取り残されたような気分になった
駐車場から歩いていると
自分の足音がはっきりと聞こえた
その時 ....
{画像=090909004233.jpg}
現場監督が路面に
配管図面をトレースした
作業の痕跡
解かれることを意図しない暗号が
街の中に密かに生きている
それはシンプルな記号 ....
年月とともに
町並みが変わるように
この畑も
様子が変わっていった
ビニルハウスは
引越しを繰り返し
屋根の下で育ったものは
町へ出荷され続けた
そのことだけは
変わらずに ....
キスするなら公園がいいな
初デートの朝そう思った
静かな散歩道を歩いていれば
手を繋ぐように自然にできそう
だけどベンチに座ったきり
アイツは格闘技の話に夢中
ジョギングし ....
{引用=ただいま}
毎年の
「ただいま」
が年々ぎこちなくなってゆくのを
自分で感じているのに
{引用=おかえりなさい}
あなたの
「おかえりなさい」
は年々なじんで
小川の ....
桜桃を美味いという人の気が知れない
身が小さい割には種が大きいし
小振りなスモモの甘さしかない
驚くほどに痛みやすくてすぐ腐る
果物屋で売り物にならなくなって
処分に困っていた変色した桜 ....
夕暮れ、薔薇は香っていた
まだ残る夕光の中で
私は花びらをそっとむしりとる
指先がいとしくて
何かを待ちわびて
ふっと夏の透き通る波が
心に押し寄せて来て足先を濡らし
すべてを呑 ....
テッペンカケタカ
ホトトギスはそういって鳴くのだと
彼が教えてくれました
テッペンカケタカ
鋭く空を切りさいて飛び去る
そのとき空のどこかが欠けるのでしょう
あれから彼女の
空のてっぺん ....
真夜中
港まで自転車で走る
橙のあかりが点々と
その下に一人
また一人と
釣り人が並んでる
釣れますか
聞いても誰もこたえない
みな透明だから
二人乗りしてきた友人も
いつのま ....
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