壁を見つめて壁に書いた
壁に眼で書いているから
誰も気が付かないだろう
もうこの壁ともお別れだ
明日は別の壁の前に居る
じっと壁を見つめた日々
壁の前に机を置いている ....
川伝いに伸びる
でこぼこ道の向こうから
菜の花がきれいね、と
懐かしい人が
光をまとってやってくる
どこかで硝子製の呼び鈴に似た
澄んだ鳥の声が響く
あなた、
ずいぶんともう
大 ....
クロレッツを二粒
鼻腔を流線形が疾走する
春よ来いの大合唱
彼女は鼻腔に猫を飼っている
空には翼を持った豚
犬と羊が阿呆面で見上げる
五輪は四輪より速い
すべては風の前の塵に同じ ....
わたい、もやしはきらいや。
病室のベッドのうえで
母がぽつりと言う
六十年も付き合ってきて
母の好き嫌いをひとつも知らなかった
そんな息子だ
お父ちゃんがな、腹切ったときに出て ....
水平線に
盛り上がった入道雲
の中へ
入ってゆく船
をあなたと
見送った日
渚に係留された
氷川丸を眺めて
赤い靴の少女を歌い
砂に埋まった啄木の蟹を
掘り出した二人は
こぼ ....
故あってかどうかわかりませんが
猫に生まれまして
たいへん恐縮している次第でございまして
私が人間なら大変かなあともおもうこと
多々ありすぎて
申し上げることも躊躇いたしますが
あえて ....
今日は土手を歩く
土手を歩いて風を数える
おまえと 僕と
懐かしい春の風を行進する
川面の丸い光を
後退する四角い針の葉の林を
居眠りする土手の潅木の列を
風はまんべんなく揺らして渡 ....
明け方の目をみひらいて駆けてゆく夢は邂逅すうつくしい馬
やさしさをあつめて君の手のひらにスノードームの粉雪の降る
君に会うために生まれてきたという光射す薔薇窓少女のねむり
....
蟄虫啓戸
すごもりのむしとをひらく
ギィっと
闇に穴が開くと
部屋は一瞬で眩しさに満たされた
クラっと
意識が旋回して
しばらく身動きが出来なかった
何の理由も告げ ....
髪を切りました、ばっさりと
決別です
春です、今日からわたしは
春の柔らかな外套はいらない
寒風をしっかり遮る重いコートが欲しい
凍てついた大地を確実に踏みしめる足と
流れる雲をよみとる眼差しを
桟橋に繋留するための無骨な舫い綱あるいは
海底ふか ....
いつ
スイッチが入るのか
分からない
それが
ONなのかOFFなのか
分からない
そもそも
何処にスイッチがあるのか
分からない
行方不明のUSBメモリを探そうと
....
揺れる心地よさに
居眠りしていたわけではないが
通過してしまった駅があったという
ぼくを待っていた人に気付かず
遠ざかった町
乗車駅の ....
初めてのことを たくさん教えてくれたね
飽きっぽいのかなと思ったら 好きなものが多いだけだった
あんなに高いアンテナを 初めて見た
手に余るものを 大切にしようとして
ぽろぽろ指の隙間から ....
なんか そっけないなあ
いま
なに考えてるの?
あたしのこと…
じゃないよね
「ねえねえ
こんなふうに
まとわりついたら
うざったいよね」
ってたずねたら
それまで
‘うーっ ....
遠い昔の冬景色
吹雪いた白い彼方から
蒸気機関の汽笛音
ポッポーと遠く聞こます。
白い息を吐きながら
走行する機関車の車輪の音(ね)
今、眼の前の雪景色
儚く消え去る場違いな
音無 ....
目ェ凝らすと
吹雪のなかサ
色んた色した人たちが
手ェあげておどってらった
赤ェの青白ェの、黄色いの
さまざまな手やら足が
終わりの雪のなか
ヒラリヒラリとおどってらった
あぁ ....
草木萌動
そうもくめばえいずる
厳しい季節を越えて
蓄えられてきた力が
和らぎ始めた光と風の中へ
堪え切れずにはみ出す
樹皮を突き破って
凍土を持ち上げて
命のベクトル ....
1
目を瞑って
灰の砂漠を
食べていると
こころは徐々に
ひからびて
ちっぽけな
雲塊になって
コトコト笑う
鳥の頭蓋に
埋め込まれる
鳥のくさめ
いや、くし ....
十一月の鐘が実を落とし
朱色の音符を齧る
冬になる前の夕焼けの子守歌
もういいかい
紅潮した頬がさらに赤みを増したのは
母に贈る感謝への気恥ずかしさ
渋くはないよね
不安げが ....
中二階の六畳間で
タンスの上の黒猫が奇妙なことをする。
長い舌を出しながら
タンスの上を転げ回るのだ。
そして突然畳の上に下りてきて
俺の目の前で長い舌を出し入れする
じっと俺の目を見つめ ....
れんがの家を覚えていますか
東の壁にはドアがあり
南の壁には窓があり
西の壁には物を置き
北の壁ではあなたが待つ
ドアを開けて壁をつたい
一度右へ曲がったら
虹のような形の窓の ....
雨を轢く車の音が
電話の呼び出し音の行間に
打ち寄せてくる
湿り気を帯びたルーチンワークは
未だ真綿に包まれた意識の中
縋りつくように盗み見る
スマホには温度の無い文字列と
....
雛人形は海を渡らない
「今日は雛祭りよ」
「雛祭りってなあに?」
童話を聞かせるように
雛祭りの話を聞かせる
「ふ〜ん」
それはまるで
おとぎ話よりも遠い世界のお祭りごと
....
時計が深夜十二時を知らせると、ひいながたりが始まります。
◇
「姫さま、殿が見当たりませぬが、どちらへおいででしょうか」
三人官女の年長者がお歯黒を三方(さんぽう)で隠しながら上段 ....
大きな木の箱から、何やら呟きが聴こえてくる。
「あぁー、もうそろそろ春になったのかしら?」
溜息交じりの女の声、どこか気だるく寝むそうだ。
年に一度、このカビ臭い箱から私はやっと出 ....
物語に参加している僕は
確かに主人公ではない。
何かが主人公の物語に参加しているようで
何が主人公なのかとんと分からない。
夕闇の迫った黒い森の周辺を
朱色の夕焼けを背景にした
黒い鴉 ....
ほぼ等間隔に置かれた
不安のハードル
倒さないようにしながら
生真面目に歩く
決して抜け出せない
ループの回廊
天気はいつも晴れのち曇り
ところにより雨
ほぼ等間隔に現れる ....
むかし、ぼくが田舎で少年をやっていたころ、野性の動物が家の周りを彷徨いていた。畦を通れば、蛇が逃げ、イタチやムジナに出会うことも、珍しくはなかった。イノシシは畑の作物を喰い荒らしていた。雪の日には山 ....
瞳
二月の白い雨の中
何もかもが凍りついた冬日
畦の匂いさへ凍りついたまま
も吉は冷たい闇の中で
いつもの道を見失ってしまった
今日はどうしても
まっすぐ歩けない
も吉を ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204