雨戸を開けたら
夜の一過性の麻酔が
今は静かに窓に張り付き
単なる水気となっていた
その硝子面を、つつ、と指で擦り取り
そこを覗けば、山茶花の
一塊の色彩の首だ
....
寝がえりの数だけ夢は裏がえる
またひとつ積もり重なる雪まなこ
煌々と言葉は眠りを遠去ける
見も知らぬ機械の生まれを語る夢
....
なんにも無いところから
花が咲くわけなどないのに
私の目はいつも
開いた色しか見ていない
綺麗な色しか見ていない
いつのまに咲いたのか
どうやって咲いたのか
質問したなら ....
しんしん
冷たい 蛍光灯
冷たい 磨り硝子
朝の それらの冷たさの
白い薄荷を
しんしん
ああ 恥ずかしい
氷の前触れの指先はなんだって
まだこんなにも赤い?
....
白鳥が飛来していた
初雪の予感漂う十月下旬
懐かしい湖面に
白鳥が飛来していた
渡りは
これから本格的になるのだろう
湖面には
ぽつりぽつりと
数えられるほどの小さな群れ
....
入眠
夜を行く 夜行列車の端から端まで
眠れないという あなたの背中を
私の恋を知る 二年の黒髪で覆い尽くす
やがて 足が滑らかに滑り落ち
月の無い夜を 黒豹と翔け行く ....
枕のなかに棲む魚が
ゆうるりとからだを波打たせている
何の音もたてることなく
ただ端から端へと動いている
わたしは魚が静まるのを待ち
左向きに頭をのせる
魚はい ....
光の傷の足跡でした
小さくまぶしい姿でした
川はあふれ
流れはくちびるのかたちをして
水と土とを引き寄せるのでした
流れの音は
光の花の緑をしていて
過ぎてきたどこか ....
水は途絶えを忘れる薬
波を待ち望む青年や
イルカを愛する少女の瞳
波うち際に揺れる小舟や
小高く揺れる果樹の枝
彼ら
彼女らの
その目の海は
わたしには見えない
....
午後の紅茶に
隠れてます
笑ってるし!
売りつくせないもの
伝えつくせないもの
きっと
あったはずなのに
所在なげな
つくしの群れ
足は
深い草の中だった
踏んでいるつもりで踏む足音は
深く柔らかな草の中からだった
うらぶれたいだなんて、高架下
うらぶれたいだなんて、アスファルト
いつからか ....
きっとくる
いつものことながら
風は 遅れている
いっそ青の真空中の扉の
鍵を稲妻であけてしまおうか
ウロボロスの純真は
宙にくちづけして
星を孕んでしまったようだから
いつか ....
空がはばたき
他の空を壊す
壊す 壊す
他の空を壊す
勝手に名づけた色を着て
詩人たちは終わってゆく
終わる 終わる
詩人たちは終わる
かけらはつねに降って ....
ほうほうと
夜を捜す声がする
ほう 一羽飛び
ほう 一羽飛び
またひとつ木は居なくなる
雨のなか
しっかりと手を握る子ら
緑の闇に
飛び去る羽音を見つめている
....
数十枚もの翼を持った
金色の生きもののことを考えるたびに
自分の内から眠りが消えてゆく
そしてそのあとに必ず
奇妙な痛みがやって ....
冷たい砂浜に、誰か
体で泣いている
空生まれの灰が沈んできて
波へ死んできて
折り畳まれてゆく、その灰の
海はノイズだ
今は、眼を閉じて
耳だけの ....
秋に
葉と葉が
まだ生き合っている
その音が、して
その影と影が、あって
その匂いまでが、生じていて
生じては離れてしまうそれらが
見つめ合っていると ....
ライラックの関節
樹脂の花
石鹸の羽
咲き誇る
手も足も
沼のもの
たたきつけられる煙
....
のろのろ時間は僕の前に
のっしり座り込んで
僕のことを見ているのです
壁の向こうには未知の世界が
こじんまりとあるはずで
そこには僕は行けないのであります
頭が ....
左目の下に
はばたきがある
つねに つねに
はばたいている
橙色の風が吹き
壁をめぐり
木々を螺旋に上下する
ふいに無数の猫になり
屋根の高さの季節を乱す
吐息が導く双つの手のひら
合うようで合わないはざまから
遠く見知ら ....
秋のこがねに
ざざめく山の
ざんざと落ちる
もみじ葉に
分けいりたくもないわと
言うに
うでを掴みし
指の強きに
あゆみ とふとふ
ついて ま ....
ふわふわ浮かんでる生活
とりとめのない情熱はどこに向かう
しきたりどうりにいかない生活
世間から遊離している
まぼろしをみた
遠い昔にいざなうまぼろし
いつかの ....
薄暗い軒先で
植えてもいないのに咲いている
高貴とは程遠い
紫の嫌な匂いを放つ花を
じっと 見ていた
「毒に彩られた花やね。」と教えてくれた
少女の丸くかがんだ背中から
....
(ここでは宇宙をスプと言います)
最前列右の左のスプを見た見たもの全て衛星で死亡
(ここでは宇宙をンと言います)
ンの声がロケット破壊しつくしてβ・γ線上の{ルビAir=アリア}
....
曇のなかで
ねじれる光
灰に 銀に
尽きることのない色に
池を隠す雪の上
蒼い熱が散ってゆくさま
その繰り返されるうたを聴く
けだものはけだもの
世界を狩る ....
影を切り絵にする
凍てつく月夜
わたしの秘めた暗闇を
湿った地面に縫い付ける
月をみたか
わたしには
眩しすぎる
視線をゆきます。
ひっそりとした
鋭角な色のない
告白にも似た存在の道
とぎすまされた意志の果てには重く輝く種子が宿る
涙で
洗われた深い瞳
そこに秘密を映す
答のない ....
左の視界に切り込んでくる
海は花を手わたしてくる
霧雨と霧雨の合い間の呼吸
羽音から羽音へ飛び越えながら
海は光を手わたしてくる
朝がはじまるその前に
朝よりも強く ....
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