降る花 来る花
激しく重なる陽のなかを
昇る道 去る花
むらさきのうた
たどたどしい笑みの端から
午後越える午後 こがねに曲がり
冷たさよりも重く在りながら ....
道を焼き我を焼く笑み水たまり
つながりよ皮一枚の旋律よ
空ばかり人のかたちに閉じこめる
人が消え人のうただけ永らえる
未明に ....
虹の渦がひとつ
遠くと近く
ふたつの雨を横切った
誰もいない道の終わりに
とめどないものがとまるとき
夜の鴉が一羽増すとき
心は天地の境をひらき
冬のはじ ....
白と黒の路地を進むと
木造の小さな小屋があり
入るとなかでは何十人もの
作業衣を着た婦人たちが
机の前で一心に裁縫をしていた
ふと横を見ると別の入口に
一枚の大きな ....
箪笥と押入れと
鏡台のある部屋で
白髪の老人と決闘した
剣の腕ではかなわないので
ヘアスプレーとオーデコロンを吹きかけ
鏡台の椅子を投げつけた
長い廊下 ....
昇る午後の軌跡には
川のかけらが硬くかがやく
何かが水に降りては飛び去り
音や光を底に残す
冬を作り 夜を作り
誰もいない道を去る
朝の雨を見る
昼の ....
荒んだ目の子が
昼を見ている
風は高い
指は遠い
地にあおむけの空が
上目づかいで地を見つめる
腕ひろげ
見つめる
誰かが見たいと望んだ数だけ
月 ....
草の根元
ひとつかみの声
闇を分ける
指先の青
饐えた氷のにおいがする
ほころび 川岸
小さな小さな穴のむこうに
穴と同じ世界がまたたく
したた ....
言葉に割れる岩道の
ひとつひとつがまたたき並び
空の底へと落ちてゆく
出せずに裂いた手紙のように
曇のほとり
ひとり祈り
この手を焼く火が
この手のみであれ
....
光が花をまね
朝になる
一房一房が
波を追う
雨
丘を昇る霧
向かい合う手
結晶
くちびるの色を
手鏡に塗り
歯は透る{ルビ雷=らい}
透る{ ....
共に在るもの無く
原に立ち
なびいている
夜は赤
骨に収まらない肉
あおむけに 沈む
曇を燃す曇
秘め事の径を解き
川はすぎる
木漏れ ....
草から分かれた空色に
虫は染まり 身じろぎもせず
夜明けの光の逆を見ている
曇りの上の曇りから
水の底の骸へと
緑はさらに緑に降りつむ
闇のなかに闇 ....
黄色くてでかいストローハットを
ふたりでひとつかぶって
お話しをしよう
ほら今は青空だって見てない
ひまわりだって のぞきこまない
僕たちはわかすぎるから
明日までの宿題も
占いとか ....
ふりかえるこども
うれしいこども
こそばゆいこども
うたうこども
己れの行方
曇の行方
同じこども
雪の手のこども
夏には夏の
陰のこども
....
半月と曇
松明と子
大木の陰
鈴の音の色
ふたつのしずく 川岸の
あちらとこちら 同時に落ちる
ふたつの油
ふたつのむらさき
鏡ばかりがまぶしい暮れ ....
低い流れに目を泳がせて
わずかな光を見わたしながら
溺れぬように 眠らぬように
せめて行方を見られるように
屋根づたいに行き 海を巡る
別れ 別れ
別ればかりが ....
幽霊は短い昼の闇に立つ
光にも灯にも痛みの降りそそぐ
紙ひとつ千切る間にもう字を忘れ
とどろきが光を越えて芽を撫でる
破壊しにでも破壊と ....
誰もいない家
棄てられた庭
雨の色 雨の色
にぎやか
聞こえぬものを
目で追いながら
痺れに目覚めるからだを知る
階段 縫い針
白と黒の景
昇るこ ....
閉ざされた石倉の目に咲いた花あらゆる腔が熱を吹く日に
押すと消え押すと現わる世を胸に見知らぬひとの名を呼びし闇
何もない心がひとりうたうのは ....
氷の角度の緩いほうから
あけるつもりもなくあけた扉から
かわいた風が入りこみ
指のふくらみのはざまに熱い
奏でること
月から目をそらさずに
奏でること
奏でつ ....
まなざしの前後にひとつ小舟きて降りそそぐものを受けとめて居り
湿り気が胸の地層を掘り起こす丘を揺さぶる雷竜の夜
冬と川互いを離れそこに在 ....
水の上の火
空の姿か
底の姿かわからぬまま
ひとり ほどける
風 息 原へ
去るを見る
砕けるを見る
散るを見る
傘をたたむ
遅い夜の色
ひとつやわ ....
なるようにしかならない
というのは
都合のいいもので
ときには放り出された闇へいくためのことば
可愛い名まえをみて
消えてしまいたいと願ってしまう
手をついて
ショーウィンドーを ....
光のうわずみ
草の行方を呑み干して
夜の鳥が鳴く
ここに居たい
ここに居たくない
願いと砂と滴の器
はばたきの影 眠りと頂
どこへゆくどこへゆく
美しさ ....
巡り終え
巡り終わらぬ花ならん
皆なかに澄みなかに澄み
花に至らぬ花ならん
埃が咲いて
小さくうすく
まばゆさはただ
夜の手のひら
冷たすぎる手のな ....
夜が落ち
夜に鳴る
風の無い 夜の明るさ
羽 葉 紙 綿
重なりと水
空へほどけ 沈む光
緑降る日
誰もいない日
青の足跡
水へつづく坂
....
いとなみのなかの火の合い間に
そそがれる水の熱さを見ている
波に至る前の波
拙いはじまりのはじまりを見ている
橙色が溶けてゆく
水は
話しつづける
霧 ....
かろうじてつながる
陽のなかの骨
白い壁が
歩き出しては消える
花の匂い
花の礫を残す
空より長い
影の上をゆく
ときおり丸い
鳥の火の音
....
家と壁と人が消え
庭が庭につながり
あふれている
どこからでも見えるほどの
巨きな建物に
たどりつけない夢から覚め
床の上の静けさを見つめる
背中だけ ....
この世には
憶えることが多すぎる
虹の色の数 足す
闇の色の数ほどで
いいのかもしれない
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