するどい刃は
闇のなかでじくじくふくらむ
夕暮れ時、しろい壁には
おおきすぎる影がひろがる
電話越しに言葉をぶつけながら
床にはみにくい落書きをし ....
荊の洞
乳白の土
夜から径へ落ちる光
水へ水へ分かれゆく
腕ふるごとに
曇呑む曇
刃を振り下ろす
粉の光
風はふたつ
夜を透る
忘れた言葉
積もる ....
ヒトの形をしているのが奇跡と思える位
あまりにも小さくて柔らかかったあなたを
退院後初めてお風呂に入れた時
私の緊張が伝わったのか
あなたは火がついたように泣き叫んだ
以来あなたが極端に水を ....
空気がゆがんで見える夏の日
その横断歩道には
日傘を差した若い母親と
目線のしたで無垢な笑顔で話す少年
ひまわりが重い首をゆらつかせ
真夏の中央で木質のような頑丈な茎をのばしている
山 ....
一九七〇年八月
母は二十何年かぶりの帰省を決行した
復帰前の沖縄
前回は渡航制限とフトコロ事情で
密航とはいえ鼻息荒いものだった
東京で贅沢させてやるとたぶらかし
花もはじらう妹二人に掃除 ....
働いていたら多くの時間を失ってしまった
僕に得られるお金は少ない
これからも きっと そうなのかもしれない
詩を書くことに 時間をかけたいと
ぼんやりと僕は手のひらを見つめていた
....
ゴロゴロ鳴って
色とりどりの
ヨーヨー風船が落ちてきたような
夏の破裂音
軒下も見つけられずに
人気のない家の庭先にある
大きな木の下へ滑り込むと
浮世絵の世界が音も吸いこんでい ....
ひもじいといって、啼く蝉はいない
白亜紀の時代から
ひとはひもじい生きものだったという
そのひもじさに耐えて、恐竜から逃れて
生き延びることのできる生きものだったという
生きて
生 ....
羽を
水とともに飲み
水とともに飲み
暮れは破け
むらさきを飲み
光をくぐるもの
目をそらす埃
自分の髪を自分で編む冬
ぬかるみの故郷に降りそそぐ朝
....
東には青色の竜
南には赤色の鳥
西には白色の虎
北には黒色の亀
そして
中央には黄色の麒麟
日本橋の
中央には翼を持った麒麟が
鎮座している
かつては
五街道の起点 ....
ひかり
ワイシャツが透き通る
暑い夏
湿気が熱を孕んでいる
だから
日向も日影も暑いのだ
でも未来がくれば
ひかりに熱がなくなって
湿気もなくなって ....
仕事から帰宅したら タイマーでひんやりしているリビングに赴く
猫たちが 御主人様おかえりなさいなどと云わず
御飯くれ御飯!御飯!と絶対に云っている
暑くて疲れています
UVのパーカーを ....
鳥と 誤謬
眼の無い 朔に咲く
花師 項の
謎紫 白く
八日とも 病み世に
想い 魅せ
啞啞あなた彼方此方
が
揚 羽 が
....
円周率の最後の一桁に出会ったら
宇宙はそのときめきに吸い込まれてしまうだろう
数字とは限らないその解は
きっと愛を語る詩人のように嘘っぽい
輪転機が無限に探すが
解けない問題こそ美しい詩のよ ....
遠く水が閉じるところ
遅い秒針をかきわけ追いやり
夜は夜に身を起こし
剥がれこぼれる光を向く
すべてが昇る夕暮れに
ひとつ落ちる冬の爪
おまえは銀を忘れたという ....
夜へ向かう枯れ野のなか
光のように咲く花もある
だが彼の目はただ
手のひらの淵にそそがれている
朽ちた椅子に腰かけ
うなだれる背と膝を
まだ照らすもののあることに気付く ....
うちわであおがれひざ枕
これにまさる涼はなし
お礼に西瓜でも切ろうかしら
住む人の居ない
山の墓地
お盆には賑やかに花々が供えられている
生まれ故郷を訪れた人の形跡が
風に揺れる
たった今まで
誰かがそこにいた証拠
ロウソクの炎が
消え残り
線香の ....
お見合いの相手がスマホばかり見る
下町の団地の小さな台所で
母が作ってくれたホットケーキには
必ず人参のすりおろしが入っていた
海を隔てた異国の地で
日曜日の朝私が作るパンケーキも
やはりほんのり柑子(こうじ)色
....
裁判所から出頭の通知が来た
なのにこのこころの優雅さはなんだろう
みんなじぶんが正しくて
みんなじぶんが得をしたいだけだ
そんなことで砕け散るような
俺は岩じゃない
....
日々の習慣こそ愛おしい
扉を開けてただいま、と言う
杖は手摺に立て掛ける
靴を脱いで右端に寄せる
一人前の惣菜を冷蔵庫に入れる
白い手拭いを
四つ折りにして
赤い糸で等間隔で縫う ....
鏡のなかに咲く花へ
何も見ない花が集まる
触れようとしてはあきらめ
周りに次々と根付いてゆく
給水塔をめぐる曇
青は染まらず
青は分かれ
壁に塗られたした ....
てのひらの水 手のひらの水
生まれては還る
消えては還る
響きを含み 吹き出しながら
虹のかけらに火傷しながら
失くした金と緑を見つめ
渦をひらき 放ちながら
水の壁を倒 ....
爪で頭を掘るたびに
うすく小さな羽が生まれる
「いつまでもたどりつけない」と嘆く羽
たどりつけたらどうなるのか
未だに訊けないままでいる
いきかがり上
この焼けつくアスファルトを 歩かねば なりません
せみしぐれは しずかです
電気屋の扇風機売り場の せみしぐれとは ちがって
緑の影から にわかに飛び立った 蝉の翼の ....
目がさめると
しぼんだ わたあめ
しぼんだ ふたり
詩人の方々
告白します
手元にある数十冊の詩集
八割以上は古本屋で買いました
おまけにほとんど百円コーナー
いくつかの本には裏表紙に
詩人のサインと送った相手の名前
生々しく痕跡本です
....
大人になるために諦めた恋や夢の墓を荒らしている
窮屈そうに
眉を寄せて
酸っぱそうに
唇をとんがらして
真剣に考えを巡らせている
そんな横顔を
眺めていたら
不謹慎にも
笑いがこみ上げてきて
君に怒られた
取り繕うこ ....
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