山下公園にて
イナエ

水平線に
盛り上がった入道雲
の中へ
入ってゆく船
をあなたと
見送った日

渚に係留された
氷川丸を眺めて
赤い靴の少女を歌い
砂に埋まった啄木の蟹を
掘り出した二人は
こぼれたお茶を残して
浜を立ち去った

あの日と同じ
水平線に現れた入道雲
を一人で見るわたし

観光客の出入りする氷川丸
を窓から眺める人形の
瞳はあの日のあなた

けれども
白い豪華な桟橋に
停泊する高速艇の中にも
彼方の雲の中からも
入道雲に入った船は
現れることなく
ブリッジに射貫かれて
雲は乱れ
砂浜の蟹は潜んだまま

立ち並ぶビルの喫茶室
過去を見つめるわたし
の前に置かれたコーヒーに
微かな虹が揺らいで
消えた


自由詩 山下公園にて Copyright イナエ 2014-03-20 21:51:19
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