二十代の頃から
わたしの思考回路はストレスに負け気味で
いつしか心療内科のお世話になり始めた
抗鬱剤 抗不安剤 精神安定剤 入眠剤 など
とりどりの薬に身を任せているのが常となり ....
君と
君の子供と
動物園へ遊びに行く
動物園のない町に住んでいるので
キリンもカバも見たことがないからと
地下鉄に乗っている間も
図鑑で予習に余念のない二人を
窓鏡に映る姿で見つめる ....
?.
あなたを
あなたのすてきなところを
一日
大切にする
あなたを
あなたの汚れたところを
裏返して
日に透かしてみると
おかしな影ができるから
その影に指で ....
夜毎に月の灯りが街を照らすと
君の世界への入り口を探す
僕の世界は六角で
君の世界は八角なので
どうもうまく重なれない
僕らは半透明のカーテンで区切られた部屋の両側で
お互い影絵を ....
あなたは手慰みの指先で
わたしの身体をくるくる回す
言いなりになんかならない
と思ってはみても
あなたにだけは嫌われたくなくて
股関節の痛みをこらえ
アンディオールのポーズを取る
(わた ....
たとえば真夜中に、テーブルの上で
作りかけのパズルを再開する老人のように、
未完成であることだけが唯一の完成形であると
―仮定できないだろうか?
オーディオから流れている夜想曲を。
棚を埋 ....
はじめまして
しょっかくもどきです
むしのあたまにはないけれど
さんねんめになります
ネコをみるのがとくいです
どこまでつづいているのか
ときどきふしぎになります
こんなわたしですが
....
朝に
林檎がもがれる
それは
太陽になり
風になり
私のもとへとやって来る
おはよう
ごきげんいかが
と はにかんで
さくりと
歯に当てた
ほのかな酸味
....
雨が上がったその道で
どこからともなく吹いてくる
シャボン玉
次から次へと線となり
弧となり
連なる透明の球
曇った空を照らしながら
やがて溶けてゆく
風に流れるシャボン玉
....
旅先で母親に背負われた赤子から
青梅を貰ってきた
長く握々されて熱くなった梅なんか
欲しくはなかったけれど
どうしてもやるというので貰ってきた
いらなくなったからじゃない
奴らは一番好 ....
松嶋慶子
「猫は 所詮畜生なんやから」
生前の祖父の口癖
餌は
人間が食べ終わったあとの身一つ残されていない 骨
そして 鍋底にわずかに残された味噌汁 をかけた冷ご飯
鰹節など、ま ....
夕闇の
あの色が好きです
切なさをひとつぶ
いとおしさを一粒
弄んでは
つぶすたびに
広がってゆく葡萄色
甘いあまいのは
街の匂い
あなたとはぐれた
秋の匂い
五 ....
人々が漏らす{ルビ溜息=ためいき}で
街の輪郭が{ルビ歪=ゆが}む土曜日の夜
場末の Bar の片隅で
翼の生えたアダムとイブの人形は壁に{ルビ凭=もた}れ
虚ろな瞳で古時計をみつ ....
入道雲の夏をして
暑い{ルビ思い出=おもいで}した後に
夕焼け空の秋をして
心も揺れる紅葉する
冷たい雪の冬をする
寒い{ルビ思い出=おもいで}する前に
赤いトンボの秋をして
心も揺 ....
あなたが優しく息を吸い
ふい と息の根を止めた時
私は とても幸福でした
流れる雲は川面に映り
青い空を魚は流れる
錯覚しておいで
この手の平の陽に
飛ぶ魚よ 飛ぶ鳥のように
....
茜空が僕達を照らしてる
きれいなオレンジ色に映るボールを
投げては受け
受けては投げ
弟と家の前の路地で
夜の帳が降りるまで
キャッチボールをしていた
やがて味 ....
渋茶と一緒に供する三時のおやつ
羊羹が出てくるとなんとなく胸が痛んだ
歯の裏に引っ付いてくる粘着性
苦みを感じてしまう程の甘さ
綿々と続く伝統の重さ
洋菓子が醸し出す空気たっぷり ....
「ありがとう」と言われたその瞬間
なぜだろう
口の中に栗が入ってきた
思わずその栗を噛み砕く
栗の味とその匂いが
自分を包み込む
なぜだろう
食べてもいないのに
そういえば ....
きりきりと張られた
暗い夜道
向かう音のない雨
片側だけで 聴く耳
もうひとつの行方
舗道を流れる
外灯の明りに
寄りすがり
つぶてに 落とされた 蛾
パタパタと 動か ....
祖父が亡くなってからずいぶんの時が経つ
お骨になった祖父は白く そしてもろかった
まだ暖かい祖父の骨を私たちは火ばしでついばむ
生きている者を火ばしで持ち上げたりしないすなわち
祖父は名実 ....
秋に装飾され始めた街角に立つ君は
凛々しく軽やかでその髪を風にまかせてる
ルージュもつけない唇は
すれ違う人々の視線から逃れられない
風が舞うとき
君まで舞いあがりそう ....
泣いてくれてる 雨がわたしのかわりに
立ち尽くす さよならを雨に消されて
突然の抱擁に雨をも忘れた あの日
虚空からしたたる涙を 口に含んでみる
....
150億円の借金を抱えて
華厳の滝に飛び込んだら
借金が重すぎて
華厳の滝の
滝壺の
水が溢れて
日干しになった
カワガラス
クイナ
セントロニクスのプリンター
関係ないじゃんとい ....
夕暮れていく空の
侵略される白と
紫が混ざり合うように
中途半端なまま心は
形を変え続けて年を重ねる
不意に感じる虚無へのやり場のない焦燥感
孤独への抵抗の微熱が
私の中ではあの ....
洗い立てのかるい
ネルのシャツにでも着替えて
家を出て行けばいい
そして袖口を泥で汚したなら
帰ってくればいい
風に洗われながら
道端の小石とおしゃべりしながら
....
ねむくなったので
さきにおふとんにはいっていると
おねえちゃんはつくえのひきだしをあけて
びんをみっつとりだした
とてもおおきなびんで
とうめいなみずがはいっていた
はなうたをうたいな ....
ツクツクボウシが鳴き細り
ぼくらの夏が終わる
夢をいっぱいにはらんだ風が
尖ってゆく
去年のいまごろ
あなたが放してやった
あの魚が
黄金色に輝きながら
ぼくらの明日を
運ん ....
駅までの途中
紺のひだスカート
髪はキュッと右上でくくり
鞄はぺしゃんこ
ローファーに「ズルズル」言わせて
学校、なんてかったるい場所(とこ)へ
しょうがないけど行ってあげる途中
そ ....
日替わりで
ミルクの量が変わるコーヒーをあなたは
おまえの機嫌が手に取るようだ、と
綺麗に笑って
少しずつ飲んでいた
コーヒーにクリープなんか入れるやつは死刑だな、
初めて敬語 ....
片手をかざして遠くを見る
いつだってこの街は光の渦
目覚めるたびに生まれ変わり
すべてが新しくなって行く
この両腕に抱えている
悲しい思い出はみんな捨てて
窓を開けて そして飛ばそう
....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186