すべてのおすすめ
激しく降りつづいて
やむ気配のない雨
屋根や庭を盛大に叩いている
縁側にすわって
いつもより濃いお茶を飲むあいだも
軒先にならべた大小の容器が
たてる音がまるで不揃いだ
灰色ににごり ....
庭に植えた柿の種は
その後
いっこうに音沙汰がなかった
毎日欠かさず水をあげたのに
うんともすんともいわなかった
ひょっとしたら
間違えて王冠を埋めたのだろうか
上下さかさまに植えて ....
いつもひっそりと
わたしの庭を守っていてくれた
垣根の木
なんていう名前だっただろう
とつぜん気になって
落ち着かなくて
たしか図鑑があったはず
なのに
本棚にも押入れにも
どこ ....
垣根の灌木の枝は
年じゅう好き勝手にのびるので
つい気を抜くと
目も当てられない状態になる
裁断ばさみで
枝を切り落としながら
つい考え事をして
ざっくり切ってしまうと
枝のあいま ....
7 緒
ひどい一日だった
人身事故だとかで
電車のダイヤは大幅に乱れ
バスは三十分接続がなく
諦めて歩きだした途端
夕立ちが来てずぶ濡れ ....
なにかがうごきだすとき
すいっち
のおとがきこえると
ほっとした
とてもとおくで
かすかに
かちっ
おとがして
そうするとあとは
まえにすすむだけでよかった
そのつみかさねが
い ....
ねむくなったので
さきにおふとんにはいっていると
おねえちゃんはつくえのひきだしをあけて
びんをみっつとりだした
とてもおおきなびんで
とうめいなみずがはいっていた
はなうたをうたいな ....
みようみまねで
れいぞうこからこおりまくらをだして
たおるでくるんで
いそいそ
おふとんまではこぶ
ねっ きもちいいでしょ
リリコちゃんがわらう
よそのといれは
そわそわ おち ....
しゃりしゃりの
あいすを
しゃりしゃり
きのすぷーんでくずして
しゃりしゃり
ふたりならんでたべる
リリコちゃんのかっぷは
つぶつぶふるーつあじ
ひかげのべんちにならんで
がーと ....
カタカナの文字をでたらめに選んで
並べてみる
見たこともない言葉ができあがる
けれどたいていは
どこか遠い国の言葉を探せば
なにがしかの意味が見つかるだろうし
ネットで検索すれ ....
(喪失の物語)
とうの昔に
すっかり涙が枯れてしまって以来
悲しいことがあるたび目の奥を耐えがたい痛みが襲い
彼女は辛い毎日を ....
(喪失の物語)
彼女の胸には心臓がなく
代わりに小さな箱が埋まっていて
願いを唱えながら手を入れると
どんなもので ....
(喪失の物語)
一人きりで出かけることのないよう
常に用意周到に手筈を整えていたのに
この日に限って
使える者はだ ....
(喪失の物語)
毎日ひとつ届けられる包みには
友達が一人入っていて
特に拒む理由もなかったので
彼女はそのたび家に ....
窓から
手を外にのばして
ひとすくい
そっと運んで
お茶のポットにほうり込む
ときどき
遠いところから
なにかが軋む音が聞こえる
ごく短いあいだ
輪郭に力が加わって
内側の一番 ....
「メリーゴーラウンド」 1
トマト
四角いトマトを
作るようなものなのかもね
パイプ椅子からひょいと降り立って
彼女は器用に微笑んだ
制 ....
しゃぼん玉が生まれた時
たくさんの仲間がまわりにあふれていた
陽の光はまぶしく
見るものすべてが新鮮だった
子供たちの手が伸びてきて
仲間のいくつかがぱちんと弾けた
悲しかったけれど
....