笑い声は好きじゃない
怒鳴り声も号泣も
演説も告発も
講壇やテーブルをガンガン叩くのも
古い写真の笑った顔が好きだ
どこかの いつかの 誰かさん
笑い声は好きじゃない
だけど幼子 ....
小さな球体の内側を
ぐるぐる回っているだけなんだよ
どこまで歩き続けても
いつまで生きられたとしても
見覚えのある景色が
わずかに 気のせいほどに色彩を変え
懐かしく (すこし ....
ウッドデッキの
木と木の間の細い隙間に
花びらがすすっと入っていくのを見た
少し離れたところから
目を凝らすと虫が抱えていたようだ
蟻にしては大きかった
ごく小さめの細身の黒っぽい蜂の ....
秋になったから
蝉はいないんだよ
でもお父さん
じゃあ蝉はどこにいっちゃったの
突然青く染まった向日葵
わたしは季節をまたいでまで生きるのかしら
狂うくらい
狂うくらい
....
海は水平線を
鋭利なナイフのように突きつけてくる
想い出は残照の別称であり
水のように浸る憂愁である
夏が去り
海岸には打ち上げ花火の残骸が
寄せ来る波間に漂っている
{ルビ流離=さ ....
未知へ
タクラマカン砂漠を越えて
間氷期のほそい水系が
稀有のしばりとなるあたり
雪豹の瞳 罅割れて凍る水晶体
天山山脈から崑崙山脈へと
迂回するいのちの循環
毟り取られた緑の草原 ....
きのう
セミはことしいつ鳴き止んだかを
思い出していた
わからなかった
鳴き出した日もわからない
とっくに無頓着に生きていたんだ
窓のすきから台風一過の昭和の空 ....
窓ガラスの向こう側
ことばにもならない
届かない 届けられない想い
潤んで たえきれず 幾筋も
雨は伝う
窓ガラスの向こう側
すぐそこに 見えながら
越えられず 力尽きて
くずお ....
かわいい小鳥が鳴いてゐる
かわいい小鳥が鳴くたびに
肩がずきりといたい
ええ わたしは鳥だつたんですよ
ひとのゐないところでは
いまでもときどき鳴 ....
静寂は ひとしずくの海
見つけたときに失くした
永い 一瞬への気づき
目覚めの夢の面立ちのよう
雨と風のかすみ網
囚われていつまでも
九月はつめたい考えごと
ひとつの確固 ....
夕暮れ、時は奏で、美酒に酔う。
天空のカーテンは降ろされ、夜が舞う。
見つめる瞳に、内なるものは恐れ、
夜空の瞬きは、最期の光を大地に落とす。
崩れかけた古城のほとりでは、子供 ....
塞がれた傷なら
新しいほど
ほの明るい
命と呼ぶには薄すぎる
生まれたばかりの緑の雲母は
はかなげに震える風の欠片
アスファルトに跳ね返る
光の刃が
明日には切り刻むだろう
....
そらが明るくなって
さみしかった
ことりが羽ばたく音が
しずかにひびいて
まちの
そこここでは
あさが燻る
たべそこねた月が
うすくしろく
ケロイドみたいに
空に
はりついて ....
八月に入って
夏の子が孵化した
春の子はカラスにやられて
しばらく空き家になっていたキジバトの巣
避暑に出かけたカラスがいない間に
夏の子はすくすくと育った
キジバトの巣は我が家のケヤキの ....
ある日
詩人の詩を読んで
自分は詩人であると知る
ある日
詩人の詩を読んで
自分は詩人ではないと知る
ある日
同じひとりの人が
そんなふり幅で
弦も響いて
からっぽだから余計に ....
ジニーが死んだ
名前なんかつけたから
何度壊してやっても
やがてまた同じところに低く浮かんで
逃げもしないし
玄関横の
しろい壁とオキザリスの
プランターの間を斜めにつないで
全然邪魔 ....
庭の柿の木は ざらりとしたぬくい腕で
小さなころからずっと わたしを抱きしめてくれました
おばあちゃんがわたしを
だっこもおんぶもできなくなったころから
わたしはランドセルを放り出して
....
木々が襟を立てて拒む間
風は歌わない
先を案じてざわざわと
意味のないお喋りを始めるのは木
いつしか言葉も枯れ果てて
幻のように消えてしまう
すっかり裸になると
しなやかに 風は切られて ....
かつて仲の良かった人たちとは、夜空の星たちのようにちりぢりに離れた場所で暮らしている。
一緒にいた頃のことを懐かしんでいると、寂しくもなるけれど、別にそれでいいのだ。
きっとみんなどこかで光っ ....
りーりー
りりり と
鳴いている
耳を澄ますと
少しずつ違う音色で
合奏している
パソコンの中から
聞こえるようで
二階の窓から
見てみると
明るい夜空に
透明な羽根 ....
白い羽根のような雲がゆっくりとほどけ
ひとつの比喩が影を失う
意味からやっと自由になった娘らを
解釈は再び鍵をかけ閉じ込めようとする
ああ自己愛
鏡の中にしか咲かない薔薇よ
瑞々し ....
ふたりが離れてゆくときは
理由はなにも言わなくていい
ただ一冊の青い本を
ふたりの間に置けばいい
ページをめくれば顔を出すだろう
散歩していた黒猫や
わずかな値段で売られたスズメ
....
朝はひとり
琥珀色をみつめる
砂糖はひとつ
あたたかいやつ
ラジオがながれ
おもいはぼんやりと
カーテンがゆれた
夏が終わろうとしてゐる
花がしづかに揺れてゐる。
その横に小さな言葉がおちてゐる。
姉さんがそれをひろつて、お皿にのせた。
子供たちは外であそんでゐる。
まぶしいほど白いお皿に ....
薄曇りの空を浴び
錆びたトタンが発色する
剥げかけた というよりも
薄い金属の表面を
浸食している赤ペンキ
腐蝕しながら
守るべきものを阻害していく
かつては輝きそのものであり
....
みどりいろした
星をなぞる指先が
燃える
やわらかい
歯をたてては
めいめいにいのって
慈しむ紺色、宙をけって
絡まるいばらが
すきとおる喉元で
ひろいあげた木の葉の
ささやかな屈 ....
影かすめ
ふり返り だれも
――夏よ
荒ぶる生の飽食に晒された{ルビ石女=うまずめ}よ
あの高く流れる河を渡る前に
刺せ わたしを
最後に残った一片の閃光をいま
仰向けに ....
まわり続けていれば
倒れずに
ほそい息を繋ぎ
うたうことさえできそうで
こころなくして
忙しくまわり続けていられさえすれば
支えてくれた背骨の芯も
とうに抜け落ち
まぼろしだけだと ....
なにかことばが書けるとしたら
私はここになにを書こうかたと
えば当たり前かもしれないけれ
ど詩人は嘘つきでその嘘は多分
真実と嘘の合の子でどこからど
こまでが本当でどこからどこま
でが嘘な ....
ガラスのように光るその蛇は
青草の影を躰に映し
すべらかに移動していた
怖くはなかった
わたしを無視して
まっすぐ母屋に向かっていくので
なんとか向きを変えさせようと
木の枝で
行く手 ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280