ひとりで生まれ落ち
みんなと生きて
ひとりで死んでいく
孤独でも自由でもない
楽しくて悲しいだけだ
素朴な色彩の楽しみ
飛翔して行く悲しみ
悠久も刹那も
....
キリストが人を救おうとしている
キリストは世界記録のためにではなく
世界をもっと便利にするためにではなく
世界一の企業をつくるためにではなく
人を救うために死のうとしている
....
腫れぼったい世界の空は
柑橘系の匂いと色で
眠り続けるアタシの中を
眩しい地下鉄が通過していく
ねぇねぇ、まだ起きないの?
ひからびた胎児が話しかける
だめよ、まだ、
まだ早すぎる! ....
窓にしがみつく
あさつゆ
透明がすこしずつ
いろをかえて
時間と時間のあいまに
やわらかくすべりだす
しずく
いっぱいに光をすいこんで
流れ込んでくるもの
....
彼らはあたまが悪かった
可哀想なくらい
朝礼が終わるときまって煙草をすった
ほめられると当然だと思い
叱られると気にくわなくて狙われていると
脳みそに発生する弱い電気で本 ....
違和感はつきまとい
暦はいつだって市民のためにある
権利と義務とをリボンで束ねて
道と名づけ
手渡してくれる約束とは
すれ違い続け
なのにもうすでに私の上には
屋根がある
床も窓も扉も ....
氷の絶壁をのぼる
手を汚さなければ
手を洗うことはないのだ
汚れるから洗うのだ
氷の絶壁をのぼる
進んで手を汚そう
そして、だから手を洗うのだ
汚れるから洗う ....
ちいさなものならボルトいっぽん
デブリは秒速8キロで地球のまわりを回っている
なのに映画や漫画いがい
デブリによる宇宙空間での大事故はない
ふしぎなことだ
隠ぺいされてい ....
なにかあるような気がして
遠くへ遠くへ
人の話もきかず
自分自身も、見ずに
なにかあるような気がして
遠くへ遠くへ
遠回りなんかごめんである
まっぴらである
なにかがあるような気がして ....
ゆっくり育つ息子が
五歳にして
歩き始めたので
日曜日の公園へ連れてゆく
小さな影は、{ルビ日向=ひなた}にのびて
ひょこひょこ歩き
地べたに尻餅をついては
砂を、払ってやる
....
ここは敗戦の昼下がり
夜はここは船室
昔なら観たければ借りたり買ったり
いまは繋ぐだけでいい
人影は自由
温かいビルや気にならないほどの緑
時間が経つのってなんて遅 ....
1
歩いている橋の下を流れる川は澱んでいる
ぬかるんだ川の底では水の香りは土の茶色に掻き消され色彩を失う
透明な景色を一体どこで見ただろう
眼に見えた草の形は項垂れていて 写真には真っ直ぐに伸 ....
睡魔に全身を覆われているようだ
身体の芯が揺らぎ続け
目を閉じることも見開くこともできない
指先に力が入らず
涎が流れ続けているような
そんな気さえする
羞恥心などとうに捨てた ....
まるで空みたいに
高台から見える海が
広かったからだとおもう
一帯をただ遺跡と呼んで
疑わなかった
石を通う風や
名前を知らない植物たち
目瞬きのたびにreloadするかたちを
追 ....
アネモネの咲く日
春は告げられる
ほらあの丘にも
あの岩場にも
碧色のきみとの約束にも
鳥はヒバリであるとして
同じようにきみもわたしも
名づけられる
かつてうたわれそこねたけれど ....
山際に故郷を茂らせて
霧立つ河は唱和する
悠久の径を手引くように
水面には明かりの灯った小さな神輿が流れ
その一つ一つに幼子が蹲っている
名付けられた世界を知らず
生誕の由縁も語れぬまま ....
ふたば
冬の午後
水に挿した豆苗を見ていた
光を食べたその植物は
飛べない二枚の羽を
明日へ広げる
さよなら
星はどこへ還るのだろう
色あせていく夜空
朝の襲来
....
その夜空に
つよく金色に光らせた
するどい星で
屠るように
線を引いてしまった
星は消えそうして夜は終わり――
(やがて陽は昇った)
ぼくは
ぼくの目は
ぼくの頬は
....
誰かが知ってる
言葉はいつも
僕の王国の
使者になる
扉を叩いて
胸に手を
見つけた星を
売りつける
クソにはクソの
幸せを
一人でいれば
二人分
くれてる光の
....
自分が今ここにあるのは
ずっと昔に誰かがいた証明でもある
そこから続いたずっと先に自分がいて
ここに立っている
生きていても
誰かが自分を
ほめたり
責めたり
勇気をくれたり
怒 ....
緑の宙に貼り付いた羽
暗い曇をくぐる曇
二番目の指で涙をこすり
終わらぬ宴の後を追う
くちびるとねじれ
溶け合う朝と みずいろの水
ひるがえる ひるがえる
火と灰 ....
アタシは夏が嫌いだった
生まれた朝を思い出すから
アタシは冬が嫌いだった
自死する夜が思い浮かぶから
長い闇から解放されて
自由を謳歌している声が
アタシの脳を撹拌するから
彼らを不 ....
風が吹く
カーテンが膨らむ
紅茶を飲む
ミトコンドリアが寄生する
夢を見る
白くて普通な生活が
遠いエネルギーでうごきだす
車に乗るまえ木々がざわめく
....
契約を結んでいく人々の群れに
時計の針は刻々と告げる
その日一日歩いていく泥濘の深さを
法は空を舞う繊細な鳥のよう
大地に降り立つことなく空想を奏でている
この日本という原始的な帝国 ....
成功したいではなく
失敗したくない世の中だと
学者が語っている
勝つためではなく
失敗しないために努力したと
勝者が語っている
練習したくないが
失敗したくないと
ヤンキーが語 ....
君に誘われて
始めることにした交換日記
続ける自信はないけれど
何を書けばいいのかな
悩んでしまいすらすら書けない
君は好きみたいで
楽しんで書いている
その勢いに飲み込まれ ....
娘はまだちいさい
ちかごろ茶柱というものをしって
家族のため、お茶をよく淹れるようになった
茶柱はなかなか立たない
というより、一度もみたことがない
ときには夢中になって
湯呑みと急須 ....
陽に照らされた幽霊は
決して嘘をつかなかった
見透かしたように
見定めたように
椅子に坐ったままだった
堪らず
睨み返したら
解りましたと嗤ってから
本当のことしか
云わなかった ....
父がいなくなり
4回目の朝が来た。
冷たい空気の中
花瓶に活けたばかりの花に水滴が見え始めれば
荒れた手の甲の傷が
ほんの少しだけ痛くなった。
暖かな部屋に行こうとしても
目を閉 ....
絵のない文字
文字のない絵が
視界のなかを流れていく
その流れは
どんどん速くなり
この手のひらさえも
見えなくなるくらい
包んでしまう
絵のない文字
文字のない絵が
紙を飛び ....
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132