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華々しく出航したはずの
船の羅針盤は
いつの間にか壊れて
勿体つけて差し出された
六つ折の海図は
ほとんどが嘘っぱちで
最初は威勢が良かった
スクリューには
得体の知れない ....
その男は
幾つも電球を並べた灯りの下で
ぼくの胸を切り開き不機嫌な心臓を取り出した
心臓の中に豚を入れ調子よく動かそうというのだ
更に男は心臓のあった空洞を覗き込み
ぼくさえ知らない潜み物 ....
色褪せた地球儀には
太陽から日射しがさしこんで
ずっと遠く
大海のなかで
夜空を越えて朝は始まる
温かい珈琲をいれて
まるで真夜中の色をした液体を
飲み干すように
漆黒のなかで
....
起きてから息をした
水面をくぐる鳥たちに似合う
きれいな羽を編んでいる最中だった
きっと君はもう随分前に
仕上げてしまって
春の水音の中へ
飛び立っていったのだと思う
あた ....
敵対者には花束を送れ
上等のやつが良い
色も香りも惜しみなく
リボンもしっかり選ぶが良い
和解のため?
平和のため?
とんでもない
刃物は優美さに隠される
獣は息を潜めてじっと待つ ....
社会人の切符を手に入れて
孤独な戦場に出ていく君は
もちろん希望と自信を
瞳に漲らせ
不安を乗り越えていく
おめでとう
母さんは
君の速さで歩くことさえ
もうできないのに
心配ば ....
ぼくは壁にもたれかかって
缶ビールを飲んでいる
うんざりして
溜息まじりに
机の上の
電波時計を見ると 夜だとわかる
正確な時間など必要ない
今は夜
夜だとわかればいいんだ
....
部屋の隅で黄ばんだ遮光カーテンの襞に、ひっそりと産むものがあった。
真夜中、昏い教科書を閉じて、少年はそれをじっと見つめていた。一匹のゴ
キブリが、濡れたオブラートのような粘液を排泄しながら、卵 ....
ことばを紡いでみたくて
両手で口を押さえた朝方のこと
小鳥がついばんだ恋について
きれいなものばかりを集めることについて
並べればすべてはいびつだと言った
みんな泣きたいだけなの ....
痴態は演じられるものではなく
晒してしまうもの
ネズミを焼く匂い
霞の向こう兜を脱いだ少年の
老いを孕む眼差し
生を一巡りしたかのよう
遺灰を踏み しめる
空を模した青磁器/亀裂の風
....
ヨシノさんは江戸末期の
北豊島郡染井村で生まれた
生まれながらにして容姿端麗
娘盛りには五枚の花弁を振り撒いて
道行く人を虜にした
染井村のヨシノさんを
なんとしても手に入れた ....
夕焼けがビルの窓から覗く頃
わたしの時間が始まる
昼間着ていたスーツを脱ぎ捨て
わたしを取り出して
カフェの片隅に
あるいは
居酒屋の椅子に乗せる
夜の瓶の底を叩いて
がんらんどうの静けさだ
木々は枝分かれした懐に鳥達をいだき
近づく黎明を覆い隠すように
小さな寝息を慰撫している
今日という日に、起こるべくして起きたとして
その内 ....
かなしみはいつだって
握りつぶされた
缶コーヒー
むけられた怒りは
やり切れなさと
くやしさの色をにじませ ....
わたしと彼は
必要以上に
相手を干渉しないことで
バランスを保っている
言いたいことを言わない
訊きたいことも訊かない
分かっていても黙っている
そんな風に
相手に対して深入りしな ....
君の笑顔の反射率
と
僕の視線の屈折率
君のあどけない未知数
と
僕のくたびれた無理数
君の心への直線距離
と
僕の言葉の射程距離
....
一羽の鷺が
ふわり 弧を描き
降り立った 見えない川辺
出来事との距離は
程良く 霞となり
コンマ何秒か遅れ
波紋は伝う
記憶の水面を
現実よりも
純白 ....
わたしたち
沸点が似ているけれど
ほんとうに少しだけ
わたしの方が低いから
こんな陽気な日は先に
蒸発し始めるのです
耳の中がゆだちはじめると
あなたがまだ穏やかに器のなかにくつろい ....
林に入り、風に呼ばれ
目の前に立つ
木の中に渦巻く、年輪と
私の中に渦巻く、運命は
{ルビ縁=えにし}の糸で結ばれ
――遠い記憶は甦る
渦巻く宇宙を身籠っている
木の心と
人の ....
おきあがりこぼしを宇宙空間へ
輝くものと輝かないものが出会って
互いに氷として融け合った一年だった
ほんとうのことはすべて
偉大な虚構から滑り落ちた一年だった
どこまで伸びていくか分からない
指先を丁 ....
もう二度と心から笑える日は来ないと思います
見たところ私よりも一回りも若いあなたは
これから半世紀以上続いていくであろう
(続いていってほしい)あなたの人生を
一度も心から笑うことなく歩ん ....
硬質なおんなと軟弱なおとこ
大切なものと捨てなければ進めない足枷
サボテンのようにわずかな水分で生きて行く
だれもじぶんを交換できないので
大好きなシャツの袖に腕を通す
生きる意欲は ....
4階部分まで破壊された5階建ての団地が放置されている
コンクリートの仕切りは家々の跡だ
道の駅は廃墟でよこに松の倒木がいくつも転がっている
それでも残骸はもうほとんどなかった
....
私は十年ほど前に
リサイクルショップのビラ配りをしていた
すぐやめてしまったけれど
一軒のポストで
お爺さんに呼びとめられて
昔学生時代に何十万もしたというイタリア製の
壊れたアコーディオ ....
上水道網が日本全国を網羅した昭和50年
それからわたし達は幼稚児のように庭で
じゃあじゃあと水を浴び、
じゃあじゃあと水をかけあい
じゃあじゃあと水を飲み
はしゃいでいる。は ....
尖った頭を空に突き刺し
高く背伸びする痩せたキリン
細い足
長い首
彼の後ろでゴミ焼却炉の巨大な煙突が
絶え間なく白煙を吹き上げる
キリンの足元に聳え立つのは
四頭の青いラクダ
....
空き瓶収集所まで行く途中に
今年始めてみたカエルは仰向け
四肢を広げて道の真ん中に一匹
こちらの路肩とあちらの路肩にも一匹と
まだ冬の残る雨に濡れている
暖かい日が二・三日続いて
冬 ....
マイナス16℃のニューヨークで
外では行列が出来ている
超有名人のやって来る
そんなゴージャスな店の中で
お前は、すでに死んでいた
だらしなく延びきって、
下品な臭いのするスープの中で ....
妄想と暴走の果てにある
方眼紙の平野には
フタコブラクダの形をした山が
文鎮がわりに置いてあった
緑の色鉛筆で
マス目を乱暴に塗り潰すと
山を駆け下りてきた風が
それを青 ....
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